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不動産の相続で困る「境界確定」

相続財産の中でも不動産は、現金や有価証券とは異なる特徴があり、その特徴ゆえに「争族」を引き起こしやすい財産でもあります。

詳しくは「不動産の遺贈寄付における課題」をご参照ください。


不動産は物理的なモノですので、「どのような形で存在しているのか」も重要なポイントです。
その形は、隣地との境界線で区切られて決まります。今回は「境界確定」に関する事例をご紹介致します。

この記事の目次

隣地所有者とのトラブル

亡くなったAさんには、妻と長男がいます。
相続財産には、自宅と駐車場、現預金がありました。
遺産分割協議で、妻が自宅と現預金、長男が駐車場を相続することになりました。
相続では何ももめていません。

長男は駐車場を管理するのが面倒なので、売却しようと思い、不動産会社に相談しました。
不動産会社が物件の調査をしたところ、隣の土地の境界が確定していないことがわかりました。
そこで、土地を測量して境界を確定することにしました。
これを「確定測量」というのですが、土地の所有者が合意した境界点をもとに測量を行い、測量図を作成して双方で確認するものです。

ところが、確定測量を依頼した土地家屋調査士から「隣地所有者が境界確認の立ち会いに応じない」と連絡がありました。
どうやら亡くなったAさんとの間で、かなり昔にトラブルがあったようで、わだかまりがあるようです。
このままでは、境界確定の訴訟を起こさなければならないのかもしれません。
そのとき、土地家屋調査士から「筆界特定制度」を利用して境界確定することを勧められました。
筆界特定制度は、裁判よりも迅速にトラブルを解決する制度です。筆界調査委員が法務局職員とともに土地の実地調査や測量を行い、筆界を確定します。
境界紛争の解決手段として、多く利用されているようです。

境界と筆界

しかし「境界」と「筆界」は違います。

筆界
 登記された土地の範囲の区画を定めた線

境界
 所有権の範囲を画する線

「筆界」は登記された土地の範囲の区画を定めた線であり、「境界」は所有権の範囲を画する線です。
公法上の境界(筆界」と「私法上の境界(所有権界」があり、それぞれトラブルの解決方法も異なります。

筆界

解決手段内容
筆界確定訴訟裁判所が筆界を確定する。時間と費用がかかる。
筆界特定制度筆界調査委員が調査し、筆界特定登記官が筆界を特定。

境界

解決手段内容
筆界確定訴訟裁判所が筆界を確定する。時間と費用がかかる。
筆界特定制度筆界調査委員が調査し、筆界特定登記官が筆界を特定。

筆界特定制度を利用して筆界が確定しても、所有権界は確定しないので、買主にとってはリスクがありますから、売却価格は大幅に下がってしまいます。

長男は困ってしまいましたが、意を決して隣地所有者に会いに行くことにしました。
最初は玄関すら開けてもらえませんでしたが、少しずつ話を聞いてもらえるようになり、「父親(Aさん)と子供は別」と理解されて、測量の境界確認に立ち会うことになりました。
これで、筆界も境界も確定し、無事に土地を売却することができました。

隣との隙間がない銀座のビル

Bさん(80代・女性)から遺言作成のご相談を受けていたときのことです。
Bさんはご自宅の他、マンションや銀座のビルを所有されていました。
美術品を収集されるのがご趣味で、所有不動産のいずれもコレクションでいっぱいの状態です。

Bさんは一人っ子で、未婚、親も亡くなっているため、相続人が誰もいません。
遺言書の内容は「全財産を母校へ遺贈する」ことをご希望のため、遺言書を作成するのは簡単です。
財産を分割する必要がないので、財産目録で一つひとつ美術品を特定する必要もありません。
しかし、大量の美術品と不動産を今後どうするのか、じっくりと話し合いました。

Bさんは思い悩んだ末に、「本当に大切にしている美術品だけを手元に残して、それ以外は全部処分する」と決断されました。
美術品の売却と並行して、不動産の売却も検討を始めたところ、思わぬ問題が出てきました。
銀座のビルが建っている土地の境界が分からないのです。
隣地のビルとは、ほとんど隙間がない状態です()。
※建築基準法では、防火地域内または準防火地域内で、外壁が耐火構造であれば、隣地境界線に接して設けることができるとされています。

売却を依頼された不動産会社の人がどこを探しても、土地の境界を示す「境界標」らしきものはありません。
もし、境界標が見つからなければ、隣地所有者に立ち会ってもらい、境界確定しなければなりません。

1cmの違いが数百万円の差に

土地の奥行きが15mくらいありますから、境界が1cm違うだけでも数百万円の差になります。
隣地所有者がどのような人物なのかわかりませんが、簡単に合意できるとは思えません。

その時、Bさんが「このビルを買ったときに、地下で杭を見たような気がする」とつぶやきました。
不動産会社の担当者は、すぐさま地下へ降りていき、機械室のようなところの床板を外して、土を掘り始めました。
応援の人がスコップを持って駆けつけ、あちこち随分掘ったところ、ついに境界標のコンクリート杭を見つけました。

ビルを購入されたのは30年以上前です。

Bさんは「私の記憶もたいしたものね」と言われていました。
その後、無事にビルは売却でき、美術品の整理もできたところで、公正証書遺言も無事に作成できました。

将来の相続でトラブルにならないためには、境界紛争となるタネを残さないことです。
そのためには、土地の境界標(コンクリート杭など)の所在や存在を確認するとともに、近隣住民とのコミュニケーションも大切だと思います。

不動産の無料仮測量、無料査定を承っております。
お気軽にお問合せください。


この記事を書いた人

齋藤 弘道(さいとう ひろみち) 遺贈寄附推進機構 代表取締役 全国レガシーギフト協会 理事

齋藤 弘道(さいとう ひろみち)

<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事

信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。

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