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看護師がわかりやすく解説! 救急医療④救急搬送時に医師・看護師に確認したいこと
緊急受診でご家族が搬送された時に医師や看護師は患者様やご家族に納得して治療に臨んでほしいと思っています。しかし、救急医療の現場は生命の危機が迫っている方が多…
日本の救急医療は「命を守る」という使命をもとに発展し、今では救急救命士の活躍やドクターヘリの出動など救命率の向上という成果につながっています。
しかし、医療の提供という在り方が患者やご家族の意に添えているかまでは、はっきりとした答えが見当たりません。
なぜなら、たとえ命が守られてもその後の生活の質までは医療が保証することは出来ないからです。
「命の選択」については普段あまり意識することはありませんが、その後の後遺症や金銭的な問題など、残された家族が引き受ける役割は大きいと感じています。
私が救急医療の経験を通して言えることは「残された家族のために話し合っておくことがいかに大切であるか」です。
自分が思い描いた最期があったとしても、それを誰かに伝えていないと委ねられたほうも判断に戸惑ってしまいます。現代は「死」についての話し合いがタブーとされる風潮にありますが、結局戸惑うのは残された家族です。
死は誰にでも訪れるということを当たり前のように受け止めて、理想的な最期についてお互いのために話し合っておくと良いですね。
今回は「話し合っておくと良いこと」についてお伝えしていきます。
この記事の目次
普段から最期をイメージする
私が看護師の経験を通して感じるのは、亡くなる瞬間は「家族に看取られながら」「苦しまず安らかに」と理想通りになるのは、話し合いが出来ているかどうかによるという事です。
そして、その背景から読み取れるのは家族との関係性が最期の瞬間に最も影響するという事です。
家族に囲まれて、苦しまずに安らかにという最期は、自分はこうしてほしいという希望や願いを言えること、それを受け取ってもらえるより良い家族との関係性によって成り立つのだと思います。
そのためには「死」というテーマにそって自分なりの考えや意見、方向性を持っておくこと、その考えを家族と共有しておくことが大切です。
「死」という言葉を使わなくても「最期は誰が傍にいてほしい?」「近所の~さんは最期こうだったよ」「私の時はこうしてね」など普段の会話を通して話し合う機会を持てたら良いですね。
現代は高齢化に伴い様々な延命についての情報があります。病院の待合室や受付前にはこうした内容のパンフレットもおいている場合がありますので受診の際に意識してみると良いかもしれません。
理想の最期を共有する
「共有する」というと難しく考える方もおられますが、延命治療をする、しないの選択から始まります。
例えば検査の結果、脳梗塞と診断されて意識の回復が難しいと医師が判断したとします。
ご家族にとっては辛さや不安が先に立ち、どうしたら良いのかがわからなくなりその場に立ちすくむ方もおられます。
しかし、救急の現場ではその場の選択は家族に委ねられることになるため、その先がイメージできていることは、最善の選択ができて最善の結果を生み出すことにつながります。
少しでも参考になるように延命する場合としない場合の例を下記にあげていきます。
①延命治療する場合
延命治療についてまず知って頂きたいことは、延命を選択した場合に気管挿管、血圧を保つための昇圧剤や強心薬の使用、胸骨圧迫という医療処置をします。
心臓が動いても呼吸をする機能が失われた場合は「人工呼吸器」を使用して酸素を肺に送ります。
人工呼吸器を使用している間は生命を維持することが出来ますが、それを外すと生命が途絶えます。
もうひとつ、口から栄養補給が出来ない患者様に「胃ろう」という方法があります
胃ろうはチューブを通して直接胃に注入をします。また、「中心静脈栄養法」という点滴治療があります。
その他にも腎臓の機能が低下して正常に働かない場合は、血液中の老廃物を取り除き電解質や水分のバランスを維持する「人工透析」を行い尿毒症による機能停止を防ぎます。
このように延命治療を選択した場合は、治療が病院側に委ねられ死期のコントロールが可能になります。その間に家族でこれからのことを十分に話し合う時間が持てると思います。
②家族の負担について
延命治療は患者様の意識がないなかで治療を行うことになります。ご本人の意思がわからないまま治療を続けている状態はご家族の精神的な苦痛となりストレスにつながることもあります。
また、高度な医療管理のもとで行われる入院生活は費用が高額になる可能性があります。
ご家族は現状が見えてくると気持ちが変化することもありますが、これは当然のことです。
気持ちの変化に応じて話し合いを重ねることが必要です。
費用については高額療養制度が適用される場合もありますが、費用の出先をどこにするか、誰が負担するかなども話し合っておきましょう。
③延命治療をしない場合
医療処置を施しても、脳機能障がいが残る場合があります。患者様ががんの末期や高齢で慢性疾患を持つ方であれば蘇生をすることで痛みや苦痛を伴い、残された時間を有意義に過ごせないということも考えられます。
そのようなことを医師から説明された時に延命処置をしないという判断はご家族にとって苦渋の選択であると思われます。
しかし実際の現場で思うのは、患者様とご家族との関係が良好であるほどその決断が早いということです。
ご本人と家族で話し合っている、共有できていることが医療者に伝えられたなら穏やかな最期を迎えることが出来ると思います。
医療者はご家族の意思を尊重し倫理的に配慮しながらその後に必要な手続きなどについて丁寧に説明を行います。
役割を決める
上記に示したように延命の選択についてはご家族とのより良い関係性が効果的な選択につながっていきます。
しかし、認知症で意思が確認できない、自分で意思決定が出来ない人が多いのも現状です。
いざ延命治療が始まると、中止することは容易ではありません。病院側も慎重にご家族の意向を確認されますので混乱を避けるためにも意思決定の代弁者や代理人を決めておくことをお勧めします。
意思決定を代弁する方の条件としては一番気持ちを理解している方です。
私の経験では半数が子ども、次が配偶者、親戚や友人もおられました。
少子高齢化の現代では、お一人暮らし、家族との疎遠やご家族と同居されていても関係性が良好ではないこともよくあることです。
そのような時は民間のサポートシステムもありますので活用するのもひとつの方法です。
まとめ
救急医療においては患者の命を救うことが最終目標であるため、家族は時間的な余裕が持てないまま選択を強いられることも少なくありません。
高齢化の現代においては「死」について前もって意思を示しておく「リビング・ウェル」も推奨されていますので、ご家族で話題にしてはいかがでしょうか。
最善の選択、最善の結果につながるよう常日頃から何でも言い合える関係つくりを心がけていけると良いですね。
この記事を書いた人
福井三賀子
<プロフィール>
小児内科、外科、整形外科の外来と病棟勤務で看護の基本を学ぶ。
同病院の夜間救急ではアルコール中毒、火傷、外傷性ショックや吐血、脳疾患など多くの救急医療を経験。
結婚後は介護保険サービス事業所で勤務しながらケアマネジャーの資格を取得。6年間在宅支援をするなかで、利用者の緊急事態に家族の立ち場で関わる。
在宅支援をしている時に、介護者である娘や妻の介護によるストレスが社会的な問題に発展していることに気づき、心の仕組みついて学びを深めると同時に更年期の女性について探求を始める。
現在は施設看護師として入居者の健康維持に努めながら50代女性対象の執筆活動やお話会、講座を開講している。
<経歴>
看護師経験20年。
外来、病棟(小児・内科・外科・整形・救急外来)
介護保険(デイサービス・訪問入浴・訪問看護・老人保健施設・特別養護老人ホーム)
介護支援専門員6年
<資格>
看護師/NLPマスタープロテクショナー/プロコミニュケーター
<活動>
講座「更年期は黄金期」
ブログ「幸せな更年期への道のり」
メルマガ「50代女性が自律するためのブログ」
スタンドFMラジオ「幸せな更年期への道のり」