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看護師が解説!脳卒中①「5大疾病」脳卒中はやっぱり怖い?
日本の5大疾病である「脳卒中」とは、どんなイメージでしょうか? 「歩くのが難しくなる」「寝たきりになる」「後遺症が残る」 など、ご本人・ご家族ともに、精神的、…
前回は、「脳卒中とは?」について一緒に学びを深めさせていただきました。
やっぱり怖い、脳卒中についての概要の次は「こんな症状は、脳からの警告!?」がテーマです。
病気に関する知識があっても、その警告となっている症状が何かわからなければ、対処の仕方がわからず、病気の結果に嘆くことになりかねません。
脳卒中が起きた時に重要なのは、早期治療を開始することです。
そのために、初期症状について誰もが知っておくべきなのです。
この記事の目次
こんな症状が、脳からの警告!
脳卒中は、前回記事で「突然生じる病気」であることをお伝えさせていただきました。
やはり、症状も「突然に」起こります。
例えば、「3時10分頃に」などと、発症時間がはっきりと認識できることも多くあります。
脳梗塞、脳出血の代表的な症状
・突然、片方の顔や手、足が動かなくなる
・手足が痺れたり、感覚が鈍くなる
・呂律が回りにくくなったり、言葉が出なくなったり、相手の言葉を理解できなくなる
・急に足元がふらつく、歩けなくなる
・物が二重に見える
・急に視力が下がる、視野の一部が欠ける
・意識がぼんやりしている
一過性脳虚血発作
脳梗塞・脳出血の症状は前記と同様です。
しかし、通常は症状が「数分以内」に消えてしまい、1時間以上続くことはあまりない状態をいいます。
これは、脳の血管に血栓が一時的に詰まるために起こりますが、詰まった血栓がもろいため、短時間で溶けてなくなってしまいます。
一時的に詰まった血管の先の血流が遮断されたために生じた症状は、血流が再開することによって自然と治ります。
しかし、ここで安心してはいけません。
この、一過性脳虚血発作を起こした3〜4割の方がその後に脳梗塞を発症すると言われており、発作を起こした1〜2日後が危険な日となります。
そのため、症状が治まったからといって安心せず、その日のうちに医療機関を受診しましょう。
症状のない脳梗塞!?
症状のない脳梗塞があるのをご存知ですか?
脳梗塞は、脳の血管が詰まって脳組織の一部が死んでしまう状態のことを言い、さまざまな身体症状が現れますが、症状が現れないことが特徴の「無症候性脳梗塞」というものがあります。
脳ドックなどで撮った頭部MRIなどの画像上、脳梗塞と診断できるのに、「症状はない」ということです。
こんな症状も、警告の一部
代表的な症状以外には、こんな症状もあります。
・覚える、考えるが難しくなり、注意力がなくなる
・学習能力の低下や体の一部を認識できなくなる
上記のような「高次機能障害」となる場合、これらは、症状が出ていても外見上はあまり目立ちません。
そのため、障害があることを本人や周囲の人が気がつくまでに時間がかかりがちです。
・耳の聴こえが突然悪くなる
・飲み込みがうまくいかずむせる
・ふわふわしたり
・ぐるぐる目の前が回る
などということもあります。
また、脳卒中が起きている事に気づかず、数日経過した後に尿や便を失禁してしまったり、感情失禁といって、過度に泣いたり笑ったり怒ったりして、コントロールができなくなっていることもあります。
反対に、抑うつ状態になることもあります。
くも膜下出血の代表的な症状
・ハンマーで殴られたような激しい頭痛
・めまい、嘔気、嘔吐
・意識が悪くなる(ぼんやりしている、目を覚まさない)
・血圧が上下する
性別・年齢を問わず全体を見た場合、くも膜下出血の死亡率は40%です。
また、一命をとりとめた方でも、後遺症に悩まされる方はその50%以上と言われています。
社会復帰率は、自力で受診できたか・意識不明で運ばれたかによってその数字が大きく異なります。
自力で受診できたケースでは約70%が社会復帰をされていますが、意識不明で運ばれたケースで社会復帰できたのはわずか10%程度に留まります。
くも膜下出血は、やはり怖い病気であることは間違いなく、前兆を知ること、一度も脳ドックを受けたことがない方は受けることをお勧めします。
生存率を高め、その上で社会復帰を目指すためには、前兆に気づいた段階で医療機関を受診することが何よりも大切になるのです。
脳のどこが病気になったかは、症状から予測できる
脳のはたらきは、脳の部位でさまざまな違いがあります。
そのため、症状によって「脳の○○がダメージを受けているな」と予測することが可能です。
大脳
大脳は、4つの葉に分かれ、左右半球に分かれています。
前頭葉
人間らしさ(注意、思考、感情のコントロール、物事の整理・処理・実行、習得)、や言語、動作の実行(書く、運転する、楽器の演奏など)、複雑な知的過程(話す、集中する、将来の計画を立てるなど)、表情や手足の動き
頭頂葉
顔、手足、胴体の運動や痛みや手触りなどの感覚知覚
側頭葉
聴覚、言語の理解、記憶の加工・保存・呼び出し
後頭葉
視覚情報の処理、視覚による記憶形成
脳はさまざまな役割を分担しているため、担当している場所につながる動脈から流れる血液で栄養補給をしています。
例えば、右足の筋肉運動を担当している脳部位への動脈が詰まり、酸素と栄養が不足してしまうと右足の筋力低下や麻痺が起こります。
小脳
姿勢とバランス維持
脳幹
生命に関わる、本能、感覚・運動機能、飲み込みでむせる、聴覚・視覚
病気になった部位と症状が、反対側に出る理由
運動や感覚を伝える経路の大部分は、大脳から出る神経が脳幹(延髄)という部分で交差しています。
そのため、脳出血や脳梗塞を発症すると反対側の手足に症状が出ます。
例えば右脳に障害を受けると、左片麻痺や感覚障害になります。
まとめ
脳はとても複雑な神経ネットワークで結ばれており、血液による酸素と栄養が突然ストップしたり、脳自体が出血や脳の腫れなどで容量オーバーになると、一瞬にして機能不全に陥ります。
「脳卒中は怖い病気である」ことは間違いありませんが、ちょっとした症状に気がつく、気になる症状があるのなら一度病院へ受診し、医師に相談してみる。
症状がなくても心配なら、脳ドックを受けてみて、健康な脳なのかを診てもらう。
脳卒中の何が怖くて、怖くないのかを理解するだけで、病気になったとしても、適切に対処できるのではないでしょうか。
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この記事を書いた人
看護師:工藤 巳知子
北海道出身、看護師歴21年。
新卒で一般病棟勤務中、急変対応の経験不足を痛感したため手術室・救急外来へ部署移動。
上京後は大学病院の高度救命救急センター、民間病院の集中治療室(ICU /CCU)で12年。
その後、命を救う現場から病院と在宅を結ぶ訪問看護ステーションへ転向。営業やマネジメント、国際医療搬送を経験。
21年間、脳神経外科領域に関わり、現在は開業メンバーとして脳神経外科のクリニックに勤務中。
脳と意識、こころの探求を学びながら、フリーランスナースとして活動中。