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看護師が解説!がん救急③がん治療中に救急車を呼ぶタイミング/呼吸苦について

”呼吸”は生命活動を続けていく上で必ず行なっている反応です。
この”呼吸”にどういう異常が出て、何が起こった時、がん救急と呼ばれ早急に対応するべき状態なのか、お伝えしていきます。

この記事の目次

1.呼吸の役割とは?

呼吸の役割とは

前回記事の”痛み”は体の防御反応とお伝えしました。
“呼吸”は生命維持に不可欠であり、寝ている時も、仕事に集中している時も、意識せずとも無意識に呼吸している点が”痛み”とは異なります。
息を吸って外界の酸素を肺に取り込み、そこから血液の流れで全身に行き渡ります。私たちは食べ物を摂取し、食べた物は胃や腸などを通っている間に消化酵素で分解されブドウ糖と呼ばれるエネルギーのもとが作られます。そのブドウ糖と酸素が結びつき生命維持に必要なエネルギーが生まれます。そのエネルギーが使われると二酸化炭素ができ、吐くことで体の外に出されます。この一連の動きを呼吸を通して行っています。

2.いつもの呼吸状態を知っておきましょう

いつもの呼吸状態を知っておきましょう

異常な呼吸を知るには正常な呼吸、またはいつもの状態を知っておくことが大切です。
今回は成人の場合をお伝えします。

1. 1分間の呼吸回数

正常な呼吸回数は1分間に約12 ~20回です。
運動時は呼吸が早くなります。理由は呼吸を早く行い、運動することで使用した筋肉などからできた二酸化炭素を素早く体の外へ出し、新鮮な空気を取り入れる為です。心臓もドキドキと動いているのを感じると思いますが、心臓も連動して素早く拍動します。心臓の鼓動を早くすることで、新鮮な酸素を含んだ血液を体中に行き渡らせ、逆に不要となった二酸化炭素を素早く体の外へ出すためです。
(詳細は心筋梗塞の1本目の記事、「心肺機能について」2.心臓の大切な2つの役割、で心臓の役割について紹介しています)

2. 血液中の酸素濃度(血中酸素飽和度)

体内の酸素濃度はパルスオキシメーターという機械を使って簡易的に測定できます。
元々、低酸素になるご病気(例えば、結核や慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD))などをお持ちであれば持っている方もいるでしょう。最近はドラッグストアやインターネットでも気軽に購入できます。

正常値は一般社団法人日本呼吸器学会では96~99%されています。

上記にあげたご病気以外にも肺や心臓に関わるご病気(肺がん、狭心症など)をお持ちの方は元々値が低いこともあります。ご自身の安静時(動いていない状態)での正常値を把握しておきましょう。指先に機械を挟んで測定しますが、指先が冷たいと測定に時間がかかったり、正しい値が表示されないことがあります。ご高齢の方は指先が冷えている方が多いので、コタツやお湯につけて一時的に血液循環を良くしてから測定するといいでしょう。ただ低酸素の判断にはこの値だけではなく、呼吸回数や意識状態など総合的に判断する必要があるので、あくまで目安としておくのがいいでしょう。

3. 皮膚の色(チアノーゼ)

低酸素を判断する基準として、唇や爪の色を見ることもあります。
血色が悪く紫色になっていれば低酸素状態と判断できます。他に手のひらや足先なども紫色に変色することがあります。指先・足先など心臓から遠い場所は酸素が行き渡らずこのような皮膚の変色として現れます。

4. 1回の呼吸で吸える空気の量(1回換気量)

1回呼吸をすると、肺に入る空気の容量は400~500ml、ペットボトル約1本分です。

そして寝ている時や歩行時など活動時では異なります。
例えば寝ている時は8リットル、歩行時は24リットルほど必要になります。
(換気量は特別な機械がないと測定できませんが、目安としてお伝えしました。)

3.どんな呼吸状態の時に早急に対応すればいいの?

どんな呼吸状態の時に早急に対応すればいいの?

呼吸困難と聞くとイメージがつく方が多いでしょう。”はーはー、ぜーぜー”と一生懸命呼吸をしているイメージですね。呼吸がしづらい、息が苦しい、空気が吸えないなど、呼吸に関して苦痛を伴う状態のことです。

2の正常から逸脱している状態は、すぐに救急要請やかかりつけ医・訪問看護に連絡が必要です。

①呼吸回数がいつもより多い

  • ”はーはー、ぜーぜー”言っている
  • 肩で呼吸している
  • 喉でヒューとなっている。
    (空気の通り道である気道が細くなりヒューという音が聞こえます。腫瘍による気道閉塞が考えられます)

②酸素飽和度の低下

パルスオキシメーターが自宅にあれば測定してみましょう。
ただし救急要請しなければならない程の呼吸状態の悪化時は、指先も冷たく血液循環も悪いため測定できないか、数値が不安定な為、目安程度にしておきましょう。

③皮膚の色の変化

爪や唇がいつものピンク色ではなく紫っぽくなっていれば低酸素の状態です。
この場合も緊急に対応する必要があります。

4.体はどんな状態になっているの?

体はどんな状態
  1. 肺塞栓症
  2. 上大静脈症候群
  3. 心タンポナーデ
  4. 脊髄圧迫
  5. 気道閉塞

3の症状が出ている時、体内で何が起こっているのかは病院で検査をして診断がでます。
しかし、何が起こっているのかを知っておくことで緊急性の理解が深まると思いますので、簡潔にお伝えします。

1.肺塞栓症

エコノミー症候群として有名だと思います。通常、血液は固まらないように血液凝固システムが働いていますが、がん治療にて血液が固まりやすく、血栓とよばれる血液の塊ができやすくなっています。血栓が血液の流れにそって肺の血管につまり、肺でのガス交換ができなくなる病態です。

2. 上大静脈症候群

上大静脈は心臓に戻る血管です。肺がんや縦隔(左右の肺の間)のリンパにがんが広がることで上大静脈が圧迫され、血液の流れが滞ります。呼吸困難以外に顔や腕がむくんでくることも特徴です。

3. 心タンポナーデ

心臓は心膜と呼ばれる薄い膜に覆われています。
心膜にがんが広がると炎症を起こして、水が溜まり心臓の動きを圧迫し心機能を大きく低下させます。白血病・乳がん・甲状腺がん・肺がんなどの心膜への転移が原因です。

4. 脊髄圧迫

がんの広がりが第4頚椎以上(首あたり)の頚椎が圧迫されると呼吸筋の麻痺が起こり呼吸困難や呼吸麻痺が起こるリスクがあります。乳がん、悪性リンパ腫などの骨への転移が原因です。

5. 気道閉塞

喉や気管支・気管支の分岐部で腫瘍による閉塞が起こります。肺がん患者の2〜3割でみられるという報告があります。

このように呼吸困難は肺にまつわるがんだけでなく、他臓器のがんでも起こり得ます。転移する場所によっても呼吸困難が起こり、早急な対処が必要になります。

5. 救急隊到着までにとっておく姿勢

救急隊到着までの姿勢

呼吸困難時は体の上半身を起こすような姿勢をなるべくとってください。
ベッドの上であれば、ベッドの上半身部分を起こす、座っている状態なら机に腕をつけたり、枕やクッションを抱えさせてあげてください。この姿勢を起座位(きざい)といいます。

体を少しでも起こしておくと、横隔膜と呼ばれる肺の下にある筋肉が下がり、肺が少しでも広がります。また足を下に下ろしておくと心臓に戻る血液が減少し、心臓にかかる負荷が少なくなります。

呼吸は生命に直結する反応なので、呼吸困難になるとパニックになる方がおられます。できるだけ側にいて、ご自身のペースで呼吸できるよう声かけをしてあげるといいでしょう。

6. まとめ

以上が、がん治療中に起こり得る呼吸困難・対処方法です。
痛みと同様、”突然の急激な呼吸困難”が特徴です。適切に検査・治療に繋がるよう正常・異常な呼吸状態、何が起こっているのか、対処方法についてお伝えしました。次回は、意識障害についてお話していきます。

引用
(1) 一般社団法人日本呼吸器学会 「よくわかるパルスオキシメーター」
参照
(1)一般社団法人日本がん看護学会. 「オンコロジックエマージェンシー―病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート (がん看護実践ガイド)」 監修:森文子 編集:大矢綾、佐藤哲文. 2016年
(2)MSDマニュアル 家庭版「呼吸器系の概要」
(3)一般社団法人 日本呼吸器学会

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この記事を書いた人

山川さちえ 看護師経験 15 年(訪問看護2年、管理者1年) がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座(2023 年) 誰でもわかる/退院前から介護利用までの 50 のチェックリスト作成

山川さちえ
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」

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