訪問看護サービスとは、看護師が自宅に訪問し健康状態の確認や病気に応じた看護を行います。訪問看護と言えば一般的には公的介護保険内の訪問看護サービスですが、近年、保険外看護サービスのニーズが高まってきています。保険外ってなに?と思われている方は、多いのではないでしょうか。この記事では保険内と保険外の違い、なぜニーズが高くなっているのか、サービスの内容をわかりやすくお伝えします。
この記事の目次
1.公的介護保険の訪問看護サービスについて
公的介護保険とは40歳以上の方が全員加入し、介護が必要になったときに、介護サービスが受けられる社会保険のことです。訪問看護は介護サービスの1つで、看護師が自宅を訪問し病気を持っている方がご自宅で安心して療養生活をおくれるように関わります。今までは保険内の訪問看護が一般的だった為、わざわざ保険内と付けず、訪問看護と表現することが通常でした。
しかし近年、保険外訪問看護のニーズが高まってきているため、保険内・保険外と区別して表現することが増えてきました。保険外訪問看護サービスとは、一言でいうと”公的介護保険の枠にとらわれない訪問看護サービス”です。極端に言えば介護保険の認定を受けなくても、あるいは介護保険申請中でも使えるサービスです。
2.保険外看護サービスはプラスαの選択肢
①介護サービスには限りがある
介護が必要になったとき、加入している介護保険で訪問看護サービスが利用できるのなら、わざわざ保険外を使う必要がないのでは?と思われた方もいるのではないでしょうか。しかし、複数ある介護サービスをいくつも何回も制限なく利用はできません。認定区分というものがあり、1ヶ月に使える上限単位(支給額)が決まっており※1、その範囲内で必要なサービスを組み立てます。
認定区分 | 区分支給限度基準額(単位) | 支給限度額(1単位10円で計算) | 1割自己負担 |
要支援1 | 5,032 | 50,320円 | 5,032円 |
要支援1 | 10,531 | 105,310円 | 10,531円 |
要介護1 | 16,765 | 167,650円 | 16,765円 |
要介護2 | 19,705 | 197,050円 | 19,705円 |
要介護3 | 27,048 | 270,480円 | 27,048円 |
要介護4 | 30,938 | 309,380円 | 30,938円 |
要介護5 | 36,217 | 362,170円 | 36,217円 |
※要介護度:要介護5に近づく程、介護量が増える。
例えば、要介護1と認定されれば、16,765単位の中でサービスを組み立てます。要介護1は運動能力や認知能力の低下が見られ、日常生活に介助が必要な方です。週に1回30分看護師が訪問すれば263単位必要です。訪問時間や回数が多いほど単位は多く必要です。他早朝や夜間など加算がつくこともあります。また複数の介護サービスを併用するのが一般的です。訪問看護・訪問介護・デイサービス・車椅子などの福祉用具のレンタルといったサービスを利用するたび規定の単位を必要とします。決められた単位数の中で必要なサービスを組み立てます。
②介護サービスの一例
介護サービス利用例:
| 9時 | 10時 | 11時 | 12時 | 13時 | 14時 | 15時 | 16時 | 17時 |
訪問看護 | | 月水30分 | | | | | | | |
訪問ヘルパー | | | | | 月水金30分 | | | | |
デイサービス | 火木9~17 | | | | | | | | |
<上記の例で一般的なサービス内容は以下の通り>
・訪問看護内容:病気の症状観察、内服確認など
・訪問ヘルパー内容:生活援助(ゴミ捨て・お買い物・洗濯など)
・デイサービス内容:リハビリ・入浴・食事サービスなど
上記サービスで一見生活できそうに見えるかもしれません。しかし難しい部分があります。
・内服:定期薬が処方されている場合、認知機能の低下があれば内服忘れは日常的に起こりえます。その場合、介護保険サービスの介入がない土日はお薬を飲むのを忘れる可能性があります。内服カレンダーなど内服忘れを防止するアイテムを使用しても飲み忘れを防ぐことは難しい場合があります。
・食事:デイサービスの火木は食べられますが、他曜日は料理を作るのが難しい方であれば困難です。
・洗濯:洗濯も困難な場合があります。月水金のヘルパー訪問日でやってもらっても洗濯物取り込みなど不可能な部分もあります。
・病院受診:高齢者は定期的に病院受診をしている方が多いでしょう。薬が処方されていれば受け取りに行く必要があります。認知機能の低下や外出に杖や車椅子が必要なら誰かが同行する必要がありますが、上記サービス内容では難しいでしょう。
③家族のサポートが困難な場合
介護サービスで不足している部分は必然的に家族が補いますが、配偶者も身体症状が同様かそれより低下している・認知機能が低下している場合、あるいは子供がいても仕事をしている・遠くに住んでいる場合などサポートが難しい部分は多々あります。
④難病を抱え医療処置が多い場合
1例ですが、難病(例えば筋萎縮性側索硬化症など体が徐々に動かなくなる病気)を抱え、夜中吸引(病気が原因で痰を自分で出せずチューブを口や鼻から入れて取り除くこと)の処置が定期的に必要な場合、介護をする家族は夜中に何度も起きて対応することになります。さらに、仕事をしながら介護をするとなると身体的・精神的負担は増大します。そしてこのような介護は何年も続きます。
訪問看護にはオンコール体制というものがあり、土日祝日や夜間など24時間365日対応する体制です。本人や家族が電話をすれば当番の看護師が訪問し必要な処置を行います。ただ度々となれば、家族も起きていなければならない・休めない、また看護師の移動時間の考慮や他利用者の対応中であれば、即座に訪問するのは困難です。
⑤施設入所を考慮する場合
施設入所も考えるところですが、本人や家族の思いを考慮する必要があります。人生の最後を自宅で迎えたいと思われている方は6割以上おられます※2。しかし一定の生活レベルを保つには本人・家族ともに十分なサポート体制が必要になります。また施設もすぐに入所はできず待機の時間も考慮する必要があります。要介護3以上の方が入所できる特別養護老人ホームの入所待機日数は地域性がありますが、1〜2年待つ場合もあります※3。
⑥要介護認定の期間が長い
いざ介護サービスを受けようと思い準備をする際、介護認定を受ける必要があります。しかし、認定がおりる期間は全国平均40日と日数を要します※4。
介護サービスは使っているが仕事や子育てをしながらの介護は家族の負担が大きい、施設入所に時間がかかる、要介護認定がなかなか決まらず介護サービス開始に時間がかかる、などが介護保険外サービスのニーズが高くなっている理由につながります。
3. 保険外看護サービスのニーズが高くなっている理由
上記のような問題が起こる理由には2つあります。①日本の高齢化②単独世代の増加、が考えられます。
- 日本の高齢化
日本の全人口で65歳以上が占める割合は約3割となっており増加傾向です※5。要介護認定を受けた人数は708万人とこちらも増加しています※6。しかし人口自体は減少しており※7、介護する人も減ってきています。介護する側の人手不足ということが容易に予想されます。
- 単独世代の増加
未婚率の上昇や核家族化で単独世帯が増えています。65歳以上の単独世帯も増加傾向です※8。つまり通い介護になる可能性が高く、家族はなんらかの仕事についていることも多く、仕事と介護と両方抱えることになります。
まず介護保険内の介護サービス利用が第一選択です。プラスアルファーでご自宅での生活のサポートとして、保険外看護サービスが必要とされています。
4.保険外看護サービスの利用シーン
体調の観察、病院受診同行、入院付き添い、夜間の医療処置対応、生活支援、終末期のサポートなど多岐にわたります。個々の家庭に応じて内容を本人・家族、すでに訪問看護が入っていればケアマネージャーや医療者とも相談しながらサービス内容を決めていきます。訪問看護やかかりつけ医との連携も行い、利用者の状態を共有します。要介護認定がおりるまでの保険内介護サービスが開始されるまでの繋ぎ、一時的なスポットとしてサービス介入することもあります。
暮らしの中で病気を抱えている方がいかに安全に安心して暮らせるか、看護という専門的知識での視点を持って関わる為、一般の家事代行サービスとは異なります。
まとめ
今回の記事は介護サービスの大まかな概要、保険内と保険外の違い、現状の日本の介護状況の問題をお伝えしました。そこからどのように保険外看護サービスのニーズが高まっているかについてのお話でした。次からの記事では、実際の保険外看護サービス利用シーンをお伝えします。どんな場面で実際利用されているのかイメージできるかと思います。自宅での介護の1つの選択肢として利用を考えていただけると幸いです。
参照データ
※1 居宅(在宅)介護サービスの自己負担額:みんなの介護2025
※2 人生の最期の迎え方に関する全国調査結果” | 日本財団 2020.11.27~30 インターネット全国調査
※3 特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査結果” | 一般財団法人日本総合研究所 2020.3
※4 要介護認定の認定審査期間について”” | 厚生労働省 2024.12.9
※5 統計からみた我が国の高齢者” | 総務省 2024.9.15
※6 介護や支援が必要な人はどれくらい?” | 公共財団法人 生命保険文化センター
※7 我が国における総人口の長期的推移” | 総務省
※8 人口減少時代のICTによる持続的成長” | 総務省
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」