
オーラルフレイルという言葉をご存じでしょうか?フレイルは昨今いろいろなメディアで目にすることが多くなりました。フレイルとは加齢にともない心身の機能が低下した虚弱な状態で、介護になる前段階とも言えます。オーラルとは口腔や口腔機能のこと。オーラルフレイルは、口腔機能が虚弱した状態を言い、フレイルの入り口の一つでもあります。
この記事の目次
1.オーラルフレイルとは
冒頭で述べたように、オーラルフレイルは口腔の機能が低下した状態をいいます。
日本歯科医師会の、歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版では「老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程」と定義されています。
口に関する“ささいな衰え”が軽視されないように、口腔機能や食べる機能を維持することで心身の健康を守ろうとする考えから生まれた言葉です。
2.オーラルフレイルが心身にもたらす影響
オーラルフレイルに関する、東京都健康長寿医療センター研究所の調査があります。
オーラルフレイルを、歯の数、咀嚼や嚥下の困難感、舌の力、舌口唇運動機能、咀嚼力の6項目で評価し、3項目以上該当するものと定義した場合、高齢者の19.3~20.4%がオーラルフレイルに該当していました。
なかでも、孤食の人はそうでない人に比べてオーラルフレイルの割合が、1.82倍高くなっていました。
さらにオーラルフレイル該当者は、そうでない人と比べて低栄養状態である割合が2.17倍高く、4年間の追跡調査で、死亡リスクが高まりフレイルや要介護になりやすいことが示されました。
3.オーラルフレイルの状態とは
それでは、オーラルフレイルになると具体的にどのような変化が起きるのでしょう。
歯の変化・筋肉の変化・唾液分泌の減少・味覚の変化について順に説明します。
①歯の変化
歯周病や歯肉が痩せて歯と歯の間に隙間ができ、汚れが溜まってむし歯の原因になります。歯も脆くなるため折れる、抜け落ちるなどにより歯の数が減少します。
硬いものが食べにくくなり柔らかいものを好むようになると、よく咬むことが少なくなり食べるための筋肉が使われず退化していきます。
②口腔周囲の筋肉の変化
舌を含む口や頬の筋肉は、食べるための噛む、飲み込むだけでなく、滑らかに話すためにも働いています。
これらの筋肉が硬くなる、筋力が低下するなどして、噛むこと、飲み込むこと、話すことに支障がでてきます。
唇が硬くなると大きな口が開けられず、義歯の出し入れが困難になることもあります。
また、口腔周囲の筋肉は表情を作る筋肉でもあるため、表情が乏しくなります。
③唾液分泌の減少
唾液分泌の減少は、ドライマウスの原因になります。
唾液には洗浄作用や抗菌作用があり、ドライマウスになると口腔内が汚れやすく、味覚も鈍くなります。
唾液には消化液が含まれているため、胃の負担が大きくなります。
さらに潤滑油の働きもあるので、義歯を使用されている方にとっては、入れ歯による痛みや歯茎を傷つける原因になります。
④味覚の変化
食べ物は舌にある味蕾で味を感じます。
年齢を重ねると味蕾も萎縮し、味が感じにくくなります。
多くの薬を飲んでいることでも、味覚は変化します。
4.オーラルフレイルが気になったら
オーラルフレイルは、食べること、話すことに影響することがわかりました。
食べることは、単に栄養を摂るだけでなく、「何を食べるか」「誰と食べるか」など、生活の楽しみとしても重要です。
食べることに支障が出れば、好きなものが食べられなくなり、食べる楽しみが失われます。すると、誰かと食べる楽しみも減ります。
お出かけや、他者とのコミュニケーションの機会が減ることで、身体機能の低下つまりフレイルになる危険性が高まるのです。
ご自身やご家族の状態を
質問事項 | はい | いいえ |
半年前に比べて、硬いものが食べにくくなった | 2 | |
お茶や汁物でむせることがある | 2 | |
義歯を入れている | 2 | |
口の渇きが気になる | 1 | |
半年前と比べて、外出が少なくなった | 1 | |
さきいか・たくあんくらいの硬さのものを噛むことができる | | 1 |
1日に2回以上、歯を磨く | | 1 |
1年に1回以上歯医者に行く | | 1 |
、オーラルフレイル評価表で確認してみてはどうでしょうか。。
5.オーラルフレイルを予防するために
いつまでも、大切な人と好きな物を美味しく頂けるように、どんなことができるでしょうか。
口腔の清潔を保つ・筋肉を維持する、についてお伝えします。
①口腔の清潔を保つ
先ずは虫歯と歯周病予防です。
できれば毎食後歯磨きを行い、デンタルフロスや歯間ブラシも活用します。
外出などで難しいときにはマウスウオッシュを使う、食事の最後に緑茶を飲む、も有効です。
緑茶に含まれるカテキンには洗浄効果があり、歯垢や歯周病の予防に繋がるとの報告があります。
②筋肉を維持する
口腔機能を維持するために、口腔体操を行いましょう。
噛む・飲む・滑らかに話し続けることを守ることができます。
・唇や舌の運動:「唇をとがらせる」と「いーの口」を交互にする。
「あ」「い」「う」「べー」と大きく口を動かす。
舌で左右の頬と唇の内側を伸ばす。
舌を上下左右に動かす。

・マッサージ:両手を頬に当て、円を描くようにマッサージする。
左右の耳の付け根から顎にかけ親指で指圧する。
・発声練習:「ぱ」「た」「か」「ら」と大きく発声する。
早口言葉を言う。

詳しくはこちらをどうぞ→オーラルフレイルのための口腔体操 https://x.gd/3FfhM
6.まとめ
フレイルの始まりのひとつであるオーラルフレイルについてお伝えしてきました。
「人生100年時代」と言われています。歳を重ねても自分らしく生きるために、できるだけ健康で過ごしたいものです。
ぜひ、お口から健康長寿を目指しましょう。
引用・参考資料
1.口腔機能の重要性 ~オーラルフレイルの観点から~東京都健康長寿医療センター研究所
2.ご存じですか?オーラルフレイル!
3.日本歯科医師会 オーラルフレイル
この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。