
前回の記事では、誤嚥性肺炎を防ぐために日常生活でできる工夫についてお伝えしました。姿勢や食べ方、口腔ケアなどを意識することで、誤嚥のリスクは下げることができます。
一方で、「それでもむせやすさが続く」「飲み込みにくさが強くなってきた」と感じている方もいるかもしれません。
生活の工夫を続けていても改善が感じられないと、「このまま様子を見ていていいのだろうか」「何か他にできることはないのだろうか」と不安になることもあると思います。
実は、飲み込みにくさやむせに対しては、専門職が関わる「嚥下リハビリ」という支援があります。
リハビリを行うことで、どのような変化が期待できるのでしょうか。
今回は、嚥下を支えるリハビリや専門職の関わりについてお伝えします。
この記事の目次
1.嚥下リハビリとは?
嚥下リハビリと聞くと、「食事を食べられなくなってしまった場合に行うもの」「病院でしかできないもの」というイメージを持つ方もいるかもしれません。ですが、嚥下リハビリの幅は広く、普段の生活の中に取り入れられるものもあるのです。
嚥下リハビリは、単に飲み込む力を鍛えることだけを目的としたものではありません。
誤嚥を減らす、今ある力を引き出す、安全に食べ続けるための工夫を見つけるなど、生活の中で「できること」を増やしていく支援も嚥下リハビリの大切な役割です。
症状が重くなってから始めるものではなく、「少し飲み込みにくいかも」「むせが増えてきたかも」と感じる段階から関わることで、症状の進行を防ぎ、生活の負担を軽くすることもできます。
日常生活の中で行うリハビリは、特別な器具を使わずにできるものも多く、その人の暮らしに合わせて続けやすいことが特徴です。
2.嚥下リハビリで症状は「良くなる」の?
タイトルにある「良くなる?」という言葉には、多くの方が期待と同時に不安も感じると思います。
正直に言うと、嚥下リハビリを行うことで、すべての症状が完全に改善するとは限りません。しかし、次のような変化は十分に期待できます。
・むせる回数が減る
・食事にかかる時間が短くなる
・食べられるものの幅が広がる
・食事への不安が軽くなる
これらはすべて、生活の質(QOL)を大きく高める変化です。
嚥下リハビリの効果は人それぞれ異なります。
年齢や体力、持病、生活環境によって経過も変わってきます。そのため、「どこまで良くなるか」を他の人と比べるのではなく、その人にとって安全で無理のない状態を目指すことが大切です。
食事が少し楽になった、むせる不安が減った、食べることを前ほど怖く感じなくなったというような小さな変化の積み重ねが、生活全体の安心感につながっていきます。
「治す」というよりも、「安全に続けられる状態を作る」。
それが嚥下リハビリの現実的なゴールです。
3.嚥下を支える専門職の役割
嚥下リハビリは、ひとりの専門職だけで行うものではありません。
複数の専門職が連携しながらともに行います。
言語聴覚士(ST)
嚥下の専門職として、状態に合わせた目標を設定する。実際に訓練や食べ方の工夫を提案します。
歯科医・歯科衛生士
口腔ケアや義歯調整を通して、噛む・飲み込むことの土台を整えます。
医師
全身状態、疾患などを考慮しながら、リハビリの指示、指導を行います。
看護師・訪問看護
生活全体を見ながら、姿勢や服薬、体調管理を支援します。
管理栄養士
低栄養を防ぎながら、嚥下状態に合った食事を考えます。
どの専門職に相談すればよいか分からない場合は、まずはかかりつけ医や訪問看護、地域包括支援センターに相談しましょう。必要な支援につないでもらうことができます。
「こんなことで相談していいのかな」と迷う必要はありません。
ひとりで判断しようとせず、相談しながら進めていくことが、嚥下リハビリを無理なく続けるポイントです。
4.どんな訓練や支援が行われるの?
実際の嚥下リハビリでは、次のような内容が行われます。
・顔や舌、口のマッサージを行い、口の動きを改善する
・のどの体操、のど~全身の筋力を鍛え、食べるための力を維持する
・発声や呼吸を使った訓練で嚥下機能を高め、誤嚥を防ぐ
・食事姿勢や食べ方の練習
・椅子やテーブル、食器など食事環境の調整など。
これらはすべて、
その人の状態に合わせて無理なく進めることが大切です。リハビリは、できないことを指摘される場ではありません。今できていることを大切にしながら、無理のない範囲で少しでも安全に安心して食べられる方法を一緒に探していきます。
5.リハビリはいつ、どこで始める?
リハビリはどのタイミングで始めるのが良いのでしょうか。「リハビリ」と言うと大げさに感じて始めるタイミングが分からない方も多いのではないでしょうか。
「もう少し悪くなってから」
「食べられなくなってから」
と様子を見る方も多いですが、実はそれはおすすめできません。
嚥下リハビリは症状が気になった時点で始めるほど効果が出やすいとされています。
病院の外来、入院中、訪問リハビリ、介護保険サービスなど、生活状況に合わせた形で受けることができます。
また、「まだ介護保険を使うほどではない」と感じている方でも、医療保険や地域の支援を通じてリハビリを受けられる場合があります。
早い段階で相談することで、選択肢が広がりやすくなることも知っておいてほしいポイントです。
まずは、かかりつけ医や地域の専門職に相談することが、無理なく始めるための第一歩です。
6.まとめ
嚥下リハビリは、食事を食べられなくなったときの「最後の手段」ではありません。
生活の工夫と専門職の支援を組み合わせることで、出来ることを維持し、増やしていくことが嚥下リハビリです。
「むせる」「飲み込みにくい」と感じたときや食べにくさを感じ始めたとき、生活の中で困りごとが出てきたときがタイミングです。
食べることをあきらめず、その人らしい生活を続けるための選択肢として、
嚥下リハビリをするという方法があるということを知っておいて頂ければと思います。
次回は、「水分でむせやすい?」とろみから始める嚥下食の基本と工夫
について、食事の具体的な工夫をお伝えします。
<参考文献>
- 講談社健康ライブラリー編:嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す.講談社,2017.
- 藤谷順子:テクニック図解 かむ・飲み込むが難しい人の食事.医歯薬出版,2019.
- ナース専科編:おうちでできる えんげ食.MCメディカ出版,2015.
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。