人気司法書士の村山澄江先生が実際に対応したトラブルケースをモデルに、解決法のヒントをお届けします。
※実際に登場する人物・所属・家族関係などはすべて架空のものです。
「認知症の父が過去に貸していたビルの元入居者から訴状が来ました。どう考えてもこちらは不利。切り抜ける方法は?」
認知症の父に思わぬ訴状が…
これは、85歳になる認知症の父を持つ、60代の息子、Cさんからの相談でした。
認知症の父に対して思わぬ訴状が届き、Cさんが困り果てた末に、相談に来ました。
「父が認知症になり、現在は施設に入所しています。そんな父に対して、父が元気な頃に賃貸に出していたビルの元入居者から、過去の賃料に関して訴状が届いたんです」と依頼者。
訴状の内容は、すでに退去済みの物件で払った賃料を返還してほしいというものでした。
「以前、その相手に父が貸していた物件の賃料に不満があったのか、退去してから訴状が届いたんです。
物件は自社ビルで、元入居者はテナントとして入っていた方です」
司法書士である私のところにあわてて相談に来た理由は、「放置したら裁判に負けてしまう」と聞いたからだといいます。
息子と司法書士がダブルで後見人候補者に申請
いずれにしても、認知症である父。
認知症の人が訴訟を受けた際には、それを受領する訴訟能力がないため、対応するには後見人を立てる必要があります。
そこで、息子であるCさんと専門職である司法書士の2名をダブルで後見人候補者に申請しました。
そしてすぐに裁判所へ保留の連絡をし、ひとまず、事なきを得ました。
ダブルで後見人を立てたワケは…
ダブルで後見人を立てた理由は、父には預貯金が多かったので、親族が単独で選ばれる可能性が低いと考えたからでした。
この「複数後見」のうちの一人が裁判所に名簿の登録のある司法書士であれば、裁判所が「あえて見知らぬ第三者を後見人にしよう」と判断する確率がかなり低いからです。
また、ややもすれば、まったく知らない弁護士を後見人の弁護担当にされ、好き勝手にされてしまうという最悪の事態を避けるためでもありました。
後見人として選ばれた後は、信頼している弁護士に弁護を依頼しました。
その弁護士から原告側に、「代理人として弁護士をつけたので、今後は父本人ではなく弁護士とやりとりしてください」という内容の手紙を送りました。
結果的に、父には1円の損害もありませんでした。
原告側は、弁護士がついたことで面倒になったのか、言いがかりだったのか、父が認知症だと知ってわざとしかけてきたのか、その真意は不明でしたが、事なきを終えて何よりでした。
もし、認知症の家族に対して、訴訟を起こされた際には、後見人を素早く立てることで対応していく必要があります。
損をしないためにも、司法書士に成年後見を頼んでみるのもいいかもしれません。
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解説してくれたのは司法書士 村山澄江先生
村山澄江(むらやますみえ) 先生 プロフィール
民事信託・成年後見の専門家、司法書士
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
簡裁訴訟代理関係業務認定会員
1979年名古屋生まれ。早稲田大学卒業。
2003年司法書士試験合格。
成年後見の相談者数300件以上。
民事信託と成年後見の専門家として全国でセミナー等行っている。