前回の記事では、肝臓がんの診断方法と治療について解説しました。
治療の方法や入院期間は肝臓の状態や腫瘍の数などによって決まるため、人によって異なります。
では、治療を終えた後に日々の暮らしの中で改めて、肝臓を守るために気を付けることは何があるでしょうか。
今回は、肝臓がん治療後の生活の注意点や工夫について紹介します。
この記事の目次
1.肝臓がん治療後の一般的な過ごし方
一般的に肝臓がんの治療後は、手術後約1ヵ月はゆっくり過ごし、日常生活に身体を慣らしていくことが推奨されます。体力が回復し、肝機能が安定すれば、徐々に通常の生活に戻ることができます。
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2.肝臓がん治療後の生活で心がけること
肝臓がん治療後の生活の中で、肝臓を守るために意識するポイントを以下の5つの項目に分けて解説していきます。
・バランスの良い食事
・適度な運動
・便秘を防ぐ
・質の良い睡眠
・ストレスコントロール
(1)バランスの良い食事
肝臓を守るためには、バランスがとれた食事をして適度なエネルギーと様々な栄養素を摂ることが大切です。食品は、食材の種類によって含まれる栄養素が異なります。体に必要な栄養素をバランスよくとるためには、できるだけ多くの食材を少量ずつ摂ることがポイントです。
そうすることで様々な栄養素をまんべんなく摂ることができ、結果的に栄養素のバランスが良くなります。
多種類の食材を少量ずつまんべんなく摂るためのポイントを2つお伝えします。
・和食を選ぶ
主食、汁もの、主菜、副菜がそろった「和食」はさまざまな栄養素をバランスよくとることができます。
外食で何を食べるか迷ったときや、お弁当を購入するときなど選ぶ際の基準にしてみてはいかがでしょうか。
・「まごわやさしい」を意識する
栄養バランスを整えるための食材を選ぶときの基準として、「まごわやさしい」という言葉はご存知でしょうか。
「まごわやさしい」は以下の食材を表す言葉です。
「ま」は豆類。豆類には良質なたんぱく質が豊富に含まれています。納豆やお豆腐などです。
「ご」はごま。ごまには良質な油が含まれています。胡麻和えなど調理法にも活用できます。
「わ」はわかめなどの海藻類です。昆布やひじきなども海藻類に含まれます。乾燥わかめなどでは普段の食事に取り入れやすいです。
「や」は野菜です。蒸す・煮るなど調理法を工夫すると、野菜のかさが減るので量を摂取することができます。
「さ」は魚です。良質な脂質やたんぱく質を摂取することができます。タンパク質と言えばお肉を選ぶことも多いと思いますが、お刺身や焼き魚などは、スーパーでも多く販売されており取り入れやすいメニューです。
「し」はしいたけなどのきのこ類です。食物繊維を多く含み、低カロリーです。どんな料理にも合い日々の生活に取り入れやすい食材です。
「い」は芋類を表しています。じゃがいもやさつまいもなども含まれます。食物繊維や糖質も含み、少量でも満足感が得られる食材です。
食事を作るときやメニューを考えるときに、「まごわやさしい」を基準に材料を選ぶとバランスの良い食事が作りやすくなります。
バランス良く食べると考えると、食事を選ぶことや作ることが大変だと思ってしまうこともあるのではないでしょうか。
無理せずバランスが取れた食事を心がけるために、ぜひ「和食」を選ぶことや、「まごわやさしい」で食材を選ぶことを普段の生活に取り入れてみて下さい。
(2)適度な運動
治療後1か月くらいから体力の回復に合わせて軽い運動を始めていきましょう。激しい運動は肝臓に負担になることもあります。主治医と相談しながら運動の強度を上げていきましょう。
日常生活に取り入れやすい運動はウォーキングです。
ウォーキングの際に意識すると良いポイントを3つ紹介します。
・やや息がはずむくらいの速度で、1回30~1時間・週3日を目安に歩く
・背筋を伸ばし、腕を振り大きな歩幅で歩く
・歩く前、途中、歩いた後には水分補給を行う
全く歩く習慣がない方や体力に不安がある方は、最初から30分歩かなくても大丈夫です。まずは天気の良い日に少し散歩をしてみる、いつも自転車で行く場所に歩いて行ってみる、食後に散歩をしてみるなど気軽な気持ちで日常に運動を取り入れてみましょう。
(3)便秘を防ぐ
肝臓は身体の毒素を解毒しています。肝臓で解毒されたものは胆汁に混ざって便とともに体の外に排泄されます。
便秘になると毒素が体外に排出されず、肝臓に負担がかかります。アンモニアが分解されず、脳にアンモニアが運ばれることで肝性脳症が引き起こされることもあります。
便秘を防ぐため心がけたい3つのポイントをお伝えします。
・食物繊維をとる
・決まった時間にトイレに座る習慣をつくる(食後が望ましい)
・適度な運動をする
食物繊維は野菜や海藻、きのこ類に多く含まれます。意識して食事に取り入れ、よく噛んで食べることを心がけて下さい。
便意がなくても、食後にトイレにいく時間をつくりましょう。食事の刺激を受け、腸が動くので、便意がなくてもトイレに座ることで排便に繋がる可能性があります。
ウォーキングやお腹に刺激が伝わるようなストレッチは便秘対策としても有効です。
(4)質の良い睡眠
質の良い睡眠は身体の疲労回復のために重要であり、肝臓にも良い影響を与えます。立っている状態より、横たわっている方が肝臓へ4倍の血流が流れると言われています。そのため横になって体を休めることで血液とともに多くの栄養分を肝臓に届けることができます。
食後30分~1時間程度、横になって過ごす、外出時など横になれない場合は椅子に深く腰掛けて休むことも肝臓に良いとされています。
質の良い睡眠をとるために心がけたいことを3つ紹介します。
・就寝前にカフェインや食事を摂らない
・朝はできるだけ決まった時間に起き、朝日を浴びる
・眠れないときは無理に眠ろうとしない。(体を横にしているだけでも肝臓に良い影響はある)
就寝前のカフェインや食事は、入眠を妨げるだけでなく消化器官に負担となります。睡眠の3時間前には食事を終えていることが望ましいです。
起床時に、朝日を浴びると夜に睡眠を促すホルモンが出やすくなると言われています。なるべく決まった時間に起床し生活リズムを整えることでスムーズな入眠につながります。
(5)ストレスコントロール
過度なストレスは自律神経の乱れに繋がります。自律神経の乱れは臓器の働きに影響することがあります。
そのため日頃から、ストレスを溜め過ぎないこと、自分なりのストレス解消法やリラックスできる時間を持つことを心がけましょう。
肝臓がんの治療後は身体に負担を掛けないように、と意識することが多いと思いますが、精神面のケアも大切です。
肝臓がんが分かってから、治療を終えるまで不安や緊張など様々な感情を抱えて頑張ってきたご自身に優しく声をかけて、心が休まる時間を過ごすようにしてみて下さい。
3. まとめ
肝臓がん治療後の生活の注意点や工夫を解説しました。
肝臓がん治療後の生活で心がけたい注意点は以下の5つです。
・バランスの良い食事
・適度な運動
・便秘を防ぐ
・質の良い睡眠
・ストレスコントロール
どの項目も全て完璧にやろうとせずに、出来ることから生活に取り入れていくことがポイントです。
肝臓がんは再発しやすい病気と言われています。そのため、治療後の経過を確認するために定期的な通院・検査が必要です。
定期的な検査と日常生活の中で出来る工夫を組み合わせて、大切な肝臓をこれからも守っていきましょう。
1)国立研究開発法人国立がん研究センター、肝がんの療養について
2)がん情報サービス、肝臓がん(肝細胞がん)療養
3)阪本良弘、山本夏代(2022)『解剖生理も、最新の治療も、患者ケアも 決定版!ぜんぶ知りたい肝・胆・膵』株式会社メディカ出版
4)高橋秀雄(2022)『患者のための最新医学 肝炎・肝硬変・肝がん』株式会社高橋書店
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。
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