「お墓」と聞いて、何を思い浮かべますか?おそらく多くの方が、家族や親族が集まり、お墓参りをする姿をイメージするでしょう。しかし、現代社会において、お墓に対する価値観は大きく変化しています。特に「おひとりさま」にとって、お墓は単なる家族の象徴ではなく、終活を考える上で重要なテーマとなります。もし子どもがいない、跡継ぎがいない場合、最終的に自分のお墓をどうするかという問題に直面することになります。今回は、そのようなおひとりさまが抱える「お墓」をめぐる問題とその選択肢について考えてみましょう。
この記事の目次
無縁仏となるリスク
「無縁仏」という言葉には、寂しさや孤独を感じる方が多いのではないでしょうか。無縁仏とは、誰にも供養されず、放置されたお墓を指します。子どもがいない場合や、跡継ぎがいない場合、管理費を支払わなければお墓は撤去され、最終的に無縁仏になる可能性があります。
お墓を継ぐ人がいない場合、墓じまいを検討することが有効です。これは、お墓を解体し、遺骨を別の方法で供養することを意味します。墓じまいをすることで、お墓の維持管理の負担がなくなり、無縁仏のリスクを避けることができます。
お墓の継承問題
お墓を考える際、まず重要なのは「誰が継ぐか」という問題です。かつては「長男が継ぐのが当たり前」という時代もありましたが、現代ではその考え方が変わりつつあります。おひとりさまの場合、そもそも子どもがいないというケースが多いため、継承の問題は一層深刻になります。兄弟姉妹がいない、あるいは引き継いでくれる人がいない場合、次に誰が責任を持つのかという問題が生じます。
また、長男がいない場合や、女の子が多い場合、お墓を継ぐことに対して負担やプレッシャーを感じることもあります。さらに、近年では、墓地の維持費や管理費が思いのほか高額であるため、お墓を継ぐこと自体を避ける人も少なくありません。このような背景から、お墓をどう扱うかという問題は、家族間で話し合いが必要な重要な課題です。
お墓をどうするかの選択肢
もし自分に跡継ぎがいない、または誰かにお墓の管理を任せることが難しい場合、以下のような選択肢があります。
(1) 永代供養墓
寺院や霊園が遺族に代わって供養を行ってくれるため、跡継ぎがいなくても安心して利用することができます。多くの永代供養墓では、33回忌まで供養が行われ、その後は合葬されるケースが一般的です。家族や親族に供養を頼む必要がなく、管理費や維持費も墓地の管理者が引き継いで行ってくれるため、負担が軽減されます。
(2) 散骨
散骨も一つの選択肢です。散骨とは、遺骨を海や山に撒く方法です。お墓を必要としないため、非常にシンプルで、管理の負担もありません。日本には散骨に関する規制や法律は存在しません。そのため、「節度をもったお別れの儀式」であれば罪に問われることはないでしょう。ただし、遺骨をそのまま撒くことは禁じられているので、必ず粉骨をしましょう。また、各地域の条例にも注意して行う必要があります。散骨業者に依頼するのが良いでしょう。
(3) 自宅供養
自宅で遺骨を供養する方法もあります。遺骨を自宅に置き続けることは違法ではありません。お墓や遺骨については、「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、墓埋法)で定められています。墓埋法では、行政が経営を許可した墓地以外に遺骨を埋葬することを禁止しています。ただし、墓埋法では遺骨をいつまでに埋葬するといった期限が定められていません。遺骨をずっと自宅で保管することによって、法規定に違反することはありません。
自宅供養の方法には「骨壺のまま安置する」「後飾り祭壇を供養壇にする」「自宅供養用に遺骨を収納できる仏壇を購入する」などがあります。自宅供養では、遺骨を家族の近くに置き、日々の生活の中で故人と向き合うことができます。自宅供養は、親族間での管理が比較的簡単で、後継ぎの問題が解決できる点がメリットです。
相続とお墓のトラブル
お墓は「祭祀財産」として扱われるため、相続の際に争いが起こることがあります。特に、遺族間でお墓の管理を巡るトラブルが発生することが少なくありません。誰が管理費を負担するか、誰が供養を担当するかといった問題が原因で揉めることがあります。そのため、生前に家族や親族とお墓に関する話し合いをしっかりと行い、将来のトラブルを避けるための対策を立てておくことが大切です。
また、お墓を継ぐことは、単に物理的な管理を行うだけでなく、家族の絆を守る意味もあります。遺族間でお墓の管理についての考え方を共有しておくことで、心の中での「お墓の相続」がスムーズになります。
終活としてのお墓の選び方
おひとりさまにとって、お墓の選択は孤独に向き合うことであるともいえます。自分が望む形で、最期の場所を決めることは、心の整理にもつながります。無縁仏やトラブルを避けるためにも、自分の希望を明確にし、家族や親族と十分に話し合ったうえで、適切な選択をすることが大切です。
お墓を持つか持たないか、その形態をどうするかは、あなた自身のライフスタイルや価値観に合わせて決めることができます。選択肢が増えた現代だからこそ、自分にとって最も安心できる方法で、心穏やかな終活を迎える準備をしましょう。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。