現代の社会において、少子化や核家族化が進行し、人と人の縁が薄れるなか、先祖の供養を誰が行うのかという問題が高齢者を中心に大きな課題となっています。特に「おひとりさま」として生活する人にとっては、自分の供養だけではなく先祖の供養をどのようにするのかを考えることが必要です。
祭祀承継者の意義や仕組み、おひとりさまの供養に関する考え方について考えていきます。
この記事の目次
祭祀承継者とは
「祭祀承継者」とは、先祖やご自身の祭祀、供養を継続して行う方を指します。日本の法律上、祭祀財産(仏壇、位牌、お墓など)は、経済的な価値がある財産とは区別され、特別な位置づけがされています。これは、伝統や先祖に対する尊敬といった感情に基づいた日本独特の概念です。
例えば、住宅や土地の場合、相続財産を引き継ぐには遺言や遺産分割協議などの法的な手続きが必要ですが、祭祀財産は「祭祀承継者」として指定された方が引き継ぎます。この指定は、生前の選択が重要で、被相続人(亡くなった方)の意思が優先されます。指定がない場合、通常は親族が引き継ぎますが、「おひとりさま」の場合は事前の調整が必要です。
祭祀承継者を指定する方法
以下の順番で定まることになっています(民法897条)。
①被相続人の指定が最優先。指定の方法は遺言の他、メモ、口頭などでも可能で、外部からその意思が推認されれば足りるとされています。
②被相続人の指定がない場合は、その地方の慣習に従う。
③指定もなく、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所の審判により決定。
なお、承継者の資格や人数に制限はなく、複数人での共同承継も可能です。
祭祀承継者の責任と役割
祭祀承継者には法的な義務はありませんが、社会的・道義的な責任が伴います。具体的には以下のような役割があります。
・供養の継続:法要やお盆などの供養行事を主催し、先祖を供養します。
・お墓や仏壇の管理:お墓や仏壇を維持し、適切な状態を保つ責任があります。
・親族間の調整役:親族間で意見が分かれた場合、調整役を求められることがあります。
ただし、これらの責任は祭祀承継者の意思に基づくものであり、法的に強制されるものではありません。承継者の意思や状況、親族間の話し合い、信頼関係が重要となります。親族や周囲との関係を考慮し、無断での墓じまいや法事の中止はトラブルの原因となる可能性があるため、注意が必要です。
おひとりさまにおける供養問題
「おひとりさま」にとって、親族が少ない、または遠方に住んでいる場合が想定され、従来の供養方法を維持することが難しい場合があります。そのため、生前に自身の意思を明確にし、供養の方法や後継者について計画しておくことが大切です。
しかし、今後急速な人口減少が予想される状況にあって、これまでの「家族が自然に増える」ことを前提とした慣習がそのままの形で維持継続することに無理があり、どこかで破綻してしまう懸念もあります。おひとりさまの供養問題は、今後の日本の葬儀・埋葬・お墓・供養の問題の先取りであり、いずれ大多数の人が直面する問題であるとも言えると思います。「家」を単位としたお墓や供養が見直され、合同葬や合同供養も選択肢になっていくのかもしれません。
おひとりさまの供養の選択肢
解決策があるわけではないのですが、選択肢としては以下がありそうです。
●エンディングノートや遺言書の活用
亡くなった後の混乱を避けるため、祭祀承継者の指定や供養の希望や具体的な方法を記載します。
●永代供養
お寺や霊園が供養を一定期間行う永代供養を選択します。後継者がいなくても供養が継続されます。
●樹木葬や自然葬
自然に還る形を希望する場合、樹木葬や散骨などの方法があります。
●地域やコミュニティとの連携
地域の寺院やコミュニティと連携することで、供養やお墓の管理を分担やサポートを受けます。
●専門家への相談
行政書士や終活カウンセラーなどの専門家に、法律や手続きの相談をするのも良いでしょう。
まとめ
祭祀承継者と供養の問題は、家族構成や個人の価値観などによって異なりますが、生前に計画を立てることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して生活を送ることができます。特におひとりさまの場合、早めに専門家や親しい方と相談し、自分に合った供養の方法を見つけることが大切です。供養は故人を偲ぶだけでなく、自身や周囲の方々の心の平穏を保つための大切な営みです。この機会にぜひ、供養について考えてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。