平均寿命が伸びて人生100年時代と言われるようになりましたが、その一方で、認知症の問題は身近なテーマになっています。特におひとりさまにとっては、終活を考える上で認知症対策は外せません。今回は認知症の現状と対策について考えていきましょう。
この記事の目次
認知症とは
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死滅する、あるいは働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヶ月以上継続)をいいます。全国国民健康保険診療施設協議会「認知症サポーターガイドブック」によれば、認知症の症状として、「中核症状」と「行動・心理症状」があるそうです。
●中核症状
・記憶障害:物事を覚えられなくなる。思い出せなくなる。
・理解判断力の障害:考えるスピードが遅くなる。家電やATM などが使えなくなる。
・実行機能障害:計画や段取りをたてて行動できない。
・見当識障害:時間や場所、やがて人との関係が分からなくなる。
●行動・心理症状
・行方不明:歩き回って、帰り道がわからなくなるなど
・妄想:物を盗まれたなど事実でないことを思い込む
・幻覚:見えないものが見える、聞こえないものが聞こえるなど
・せん妄:落ち着きなく家の中をうろうろする、独り言をつぶやくなど
・抑うつ:気分が落ち込み、無気力になる
・人格変化:穏やかだった人が短気になるなどの性格変化
・不潔行為:風呂に入らない、排泄物をもてあそぶなど
・暴力行為:自分の気持ちをうまく伝えられないなど、感情をコントロールできず暴力をふるう
なお、「行動・心理症状」には周囲から見ると、「妄想」等も、本人なりの背景や理由があると言われています。
認知症の現状
令和元年6月20日厚生労働省老健局の「認知症施策の総合的な推進について」によると「年齢階級別の認知症有病率」は以下の状況です。
「65~69歳」の認知症有病率は1.5%(全体)であり、この年齢層ではまだほとんどの方が認知症を患っていない状況です。しかし「70~74歳」では3.6%(全体)となり、「65~69歳」の1.5%と比べた場合、一気に2.4倍に増えています。同様に「75~79歳」では約2.8倍、「80~84歳」では約2.1倍、「85~89歳」では約1.9倍と、5歳毎に有病率が倍増している傾向にあります。
おひとりさまが認知症なると困ること
おひとりさまが認知症になると直面する主な困難には以下のようなことが考えられます。
・財産管理の困難: 資産や不動産の管理が難しくなり、詐欺や損失のリスクが高まります。
・日常生活の維持::買い物・料理・清掃などが困難になり、自立した生活が難しくなります。
・孤立と支援不足::親族や支援者がいないと、必要なサポートを得られず、孤立が深まります。
・意思決定能力の低下::医療や介護に関する意思決定が困難となり、手続きが難しくなります。
このような状態になる前の対策と、なった後の対応について考えてみます。
事前にできる対策
●生活環境の改善
・生活習慣の見直し
バランスの良い食事(1日20〜30品目)、適度な運動、、適度な昼寝(30分以内)、喫煙やお酒を控えるなど。また、ストレスを溜めないことも大切です。
・家のバリアフリー化:
転倒や怪我を防ぐために、手すりの設置や段差の解消、階段や床の滑り止め対策のほか、日頃から通路を整理整頓しておくことも大事です。
・見守りサービスの導入::見守りセンサーやカメラ、転倒検知機能付きスマートウォッチなどを導入することで、緊急時の早期対応が可能になります。安否確認を行う見守りサービスもあります。
●介護サービスへの登録
・公的サービス: 地域包括支援センターや自治体の介護サービスにどのような支援が受けられるのかを確認した上で、早めに登録しておくと、利用開始時の手続きがスムーズになります。
・民間のサービス: 訪問介護、デイサービス、ホームヘルパーなどのサービス内容を把握し、自分に必要な支援を検討しておくとよいでしょう。
●ソーシャルサポートの構築
・地域コミュニティとの交流::地域のサークルやボランティア活動に参加し、知り合いを増やすことで、孤立を防ぎ、支援を得やすくします。自治体やNPOが主催する交流イベントも有効です。
・緊急連絡網の作成::緊急時に連絡できる人のリストを作成し、携帯電話や自宅の目につく場所に置いておくと安心です。エンディンノートを活用するのも良いでしょう。
●身上介護や財産の整理
・任意後見契約:認知症発症後に備えて信頼できる人(できれば専門家)と任意後見契約を締結しておきます。意思能力が低下してから家庭裁判所に選任申立する「法定後見制度」(成年後見・保佐・補助)に比べて、本人の意向に沿った対応が可能になります。
・遺言書の作成: 認知症の疑いがないうちに遺言書を作成して、財産の行き先を定めておきます。公証人が遺言者の口述を筆記して作成する公正証書遺言が、証拠力が高いので良いでしょう。
「認知症サポーター」による支援
「認知症サポーター」をご存知でしょうか。2024年9月30日時点で15,673,092人が登録されているそうです。全国キャラバン・メイト連絡協議会が自治体・企業・団体等と協催で「認知症サポーター養成講座」の講師役(キャラバン・メイト)を養成し、そのキャラバン・メイトが「認知症サポーター」を育成しています。
認知症サポーターは見守りや傾聴、オレンジカフェを企画・参加するなど、地域の特性やニーズに応じた活動をする身近な存在です。地域で支え合う仕組みが広がりつつあります。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。