※このコラムでは65歳以上の方を「高齢者」と表記します※
元気だったのにお風呂場やトイレで亡くなっていたという方の話を聞いたことがありませんか?
ニュースで報道されているように、有名人でもそのような状況で亡くなった方は少なくありません。
お風呂場での事故は「ヒートショック」によるものが多いと言われています。
では、「ヒートショック」は聞いたことがありますか?
今でこそ冬が近づく10月ごろから注意喚起されるようになりましたが、まだまだ聞き馴染みのない言葉かなと思います。
今回のコラムでは、ヒートショック現象についてお伝えしていきます。
この記事の目次
1. ヒートショック現象とは
(1)急激な温度変化による健康被害
ヒートショック現象とは端的に言えば、急激な温度変化による健康被害のことを指します。
お風呂に浸かった後、立ち上がると立ち眩んだことはありませんか?
これはヒートショック現象の初期症状だったかもしれません。
人の血管は暖かい場所では血管は拡張し、寒い場所では血管が収縮します。
急激な温度変化が起こると、血管も急激に収縮もしくは拡張することで血圧が大きく変動します。
急激に血圧が下がると、脳に十分な血液が送られないため、めまいや立ち眩みのような症状が起こります。
目安として10℃以上の温度差がある場合、ヒートショック現象が起こりやすいと言われています。
(2)冬のお風呂場で起こりやすい
自宅には急激な温度変化が起こりやすい時期と場所があります。
それは、冬のお風呂場です。
お風呂に入る時、暖房によって暖められた居室から寒い脱衣室に移動します。
そして寒い脱衣室で服を脱ぎ、冷えた体の状態で寒い浴室に入ります。
そこから40-42℃の温められたお風呂に浸かり、急激に体が温まります。
このような急激な温度変化が冬のお風呂場で起こりやすいのです。
お風呂場以外にも、深夜に行くトイレも急激な温度変化が起こりやすい場所に挙げられます。
(3)命に関わることがある
ヒートショック現象は温度変化による血圧変動が原因で起こります。
血圧が変動することによって、重度になると失神や心臓発作など意識障害を起こす場合があります。
お風呂に浸かっている時に意識障害を起こし、溺れてしまうという事故が10月から3月に多発しています。
お風呂の溺水事故は年間約1万7千件起こっているという推計結果があります。
この内約9割が高齢者です。
高齢者は老化や持病により血管や心臓が大きな負担に耐えられないことがあり、ヒートショック現象が起こりやすいのです。
2. ヒートショック現象の対策
ヒートショック現象は冬のお風呂場で起こりやすいです。
冬のお風呂場でヒートショック現象を予防する方法についてお伝えします。
(1)温度環境を整える
ヒートショック現象は温度変化によって起こります。
そのため温度変化をできるだけ小さくすることが対策となります。
冬のお風呂場では、以下を実践することをお勧めします。
・脱衣室を暖房器具で暖かくする。
・浴室を使う前にシャワーでお湯を出して蒸気で温めておく。
・浴槽の湯温を38℃から40℃程度のぬるめのお湯にする。
・いきなり浴槽に浸からず、かけ湯をして湯温に体が十分慣れた状態で入浴する。
さらにヒートショック現象のリスクを下げるには、湯船に浸かる時間を短めにします。
目安は10分以内です。
10分以上40℃の湯に浸かると体の芯まで温まり、体温が38℃まで上昇します。
そうなると、意識障害などによる溺水や心停止の危険性が上がるという研究結果もあります。
(2)水分をしっかり摂る
ヒートショック現象は血圧や血液循環の大きな変動によって症状が現れます。
入浴前後にコップ一杯の水分を摂ることで、血圧や血液循環の変動は小さくなります。
もちろん、普段から水分をしっかり摂ることも大切です。
水分といっても、入浴前の飲酒は辞めてください。
飲酒は水分を補充するどころか体の水分を奪ってしまうため、血圧低下を起こしやすくなります。
酔っぱらうことで体の反応も鈍くなっており転倒しやすい状態になります。
入浴前の飲酒は非常に危険です。
(3)一人の入浴を控える
ヒートショック現象が起きても早期に処置をすれば、大事に至らないこともあります。
そのため、万が一に備えて家族などがいるタイミングで入浴することをお勧めします。
実際にお風呂屋さんなどの公衆浴場では死亡事故が少ないというデータもあります。
可能であれば、入浴する時間帯も調整すると良いでしょう。
皆さんは何時ごろ入浴されていますか?
ほとんどの方が夕方から夜にかけての時間帯ではないでしょうか。
人の生理機能として午後2時から4時頃が、温度差の適応がしやすい時間帯となります。
そのため、よりヒートショック現象になるリスクが高い方はこの時間帯での入浴をお勧めします。
出来れば日の出ている時間、遅くても家族が起きている時間帯に入浴しましょう。
(4)その他のポイント
上記以外にも気を付けるポイントは下記の通りです。
・長湯を控える。(目安は10分)
・食直後の入浴を控え、食後1時間以上空けてから入浴する。
・浴室に手すりを付ける。
・浴槽から急に立ち上がらない。
ご自宅の環境はご自宅によって違いますので、実践可能なことや困難なことがあるかと思います。
少しでも温度差が小さくなるように工夫していただくと、ヒートショック現象は予防できます。
お住まいの地域によっては自治体がヒートショック予報があるので参考にしましょう。
3. ヒートショック状態の対応
(1)軽症なら経過観察
めまいや立ちくらみが代表的な症状です。
この場合はしゃがんだり横になったりして安静にしましょう。
しばらく経って症状が改善したら経過観察します。
症状が残る場合は受診しましょう。
(2)重症なら救急要請
意識消失、激しい頭痛、激しい吐き気・嘔吐、胸の痛み、話しにくい、脱力感などの症状があれば速やかな医療機関の受診、救急要請を検討します。
その理由は温度差による血圧変動が原因で、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞が起こっている可能性があるからです。
(3)風呂場で意識消失している方を発見した時
発見者となった場合、下記の通りの対応をします。
・浴槽内で気を失っている場合は、浴槽の湯を抜いて体を拭く。
・可能であれば浴槽から体を引き上げ、安全な場所で横にさせる。
・呼びかけに反応しない場合は救急要請をする。
・救急車を待っている間、脈や呼吸が確認できない場合は、心臓マッサージや人工呼吸をできる限り続ける。
4.まとめ
今回のコラムでは、
✓ ヒートショック現象とは
✓ 冬のお風呂場には注意
✓ ヒートショック現象の対策と対応
についてお伝えしました。
特に高齢者の死亡事故が多いヒートショック現象は、普段から意識することで予防できます。
今回は冬のお風呂場についてお伝えしましたが、トイレやベランダなど温度差が大きい場所でも起こります。
このコラムを通して、ヒートショック現象による事故が減るように願っています。
これで「高齢者によくある症状」シリーズは一旦終了となります。
高齢者は加齢により身体や心が変化します。
昨年は問題なかったからと言え、今日問題が起こらないとも限りません。
是非、ご自身の加齢とうまく付き合って、いつまでもお元気にお過ごしいただけると嬉しいです。
【参考】
・STOP!ヒートショック
・社会福祉法人恩賜財団済生会 冬場に多発! 温度差で起こるヒートショック
・滋賀県 ヒートショック対策について
・政府広報オンライン 交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!
この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業