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「誤嚥性肺炎は防げる?」日常生活でできる嚥下機能の守り方

食事中にむせる、飲み込みづらいと感じることが増えた。ご自身や親御さんにそのような様子があると、「誤嚥(ごえん)していないだろうか?」と不安になる方もいるかもしれません。

特に高齢者の場合、誤嚥によって起こる誤嚥性肺炎は、命に関わることもある重大な病気です。
一方で、誤嚥性肺炎は正しい知識と日常の工夫によって、防ぐことができる可能性が高いことも分かっています。

第1回では嚥下の仕組みと加齢による変化を、第2回では「気づきのサイン」についてお伝えしました。
今回はそれらを踏まえ、誤嚥性肺炎の予防につながる具体的な方法を紹介していきます。

この記事の目次

1.誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液、口の中の細菌などが誤って気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。
「むせたときに起こる肺炎」というイメージを持たれがちですが、実際にはむせずに誤嚥しているケース(不顕性誤嚥)も多く見られます。

高齢者では咳の力が弱く、誤嚥しても強くむせないことがあります。
そのため、気づかないうちに肺炎が進行してしまうことも少なくありません。

2.なぜ高齢者は誤嚥しやすいの?

誤嚥が起こりやすくなる背景には、以下のような加齢によるさまざまな身体の変化があります。

・嚥下反射が起こるタイミングが遅くなる
・舌や喉の筋力が低下し、食べ物を押し出す力が弱くなる
・唾液が減り、口の中が乾きやすくなる
・免疫力が低下し、感染に弱くなる

嚥下は30種類以上の筋肉と多くの神経が協調して行われる動作です。
その一部でも働きが弱くなると、誤嚥のリスクは高まります。

3.誤嚥が起こりやすい日常の場面

誤嚥は、食事中だけ起こるわけではありません。
日常生活の中には、「誤嚥しやすい瞬間」がいくつもあります。

① 食事中
・早食い、ひと口でたくさん食べる
・姿勢が悪い(背中が丸い、あごが上がる)状態で食べる
・会話をしながら食べる

② 食後すぐに横になるとき
食べ物や唾液が逆流しやすく、誤嚥のリスクが高まります。

③ 就寝時(特に高齢者
横になることで唾液が気管側に流れやすく、不顕性誤嚥が起こりやすい時間帯です。

④ 朝起きた直後
唾液が減って口の中が乾燥しているため、最初の水分でむせやすくなります。

⑤ 疲れていると
疲労時には、
・集中力や注意力の低下
・舌や頬の筋肉が十分に働かない
・嚥下反射が遅れる
といった変化が起こり、誤嚥のリスクが高まります。

「夕方のほうがむせやすい」「疲れていると飲み込みにくい」と感じる方が多いのは、このためです。

4.今日からできる誤嚥性肺炎の予防策

誤嚥性肺炎を防ぐために、日常生活の中でできる工夫を紹介します。

① 食事中の姿勢を整える
・背筋を伸ばす
・あごを軽く引く
・ベッド上で食べるときは30~40度ほど上体を起こす

姿勢を整えるだけでも、誤嚥の可能性が大きく減ることがあります。

② 口腔ケアを習慣にする
口の中が汚れていると、誤嚥した際に細菌が肺へ入りやすくなります。
歯磨き、舌の清掃、義歯の洗浄は、誤嚥性肺炎予防の重要なポイントです。
特に舌苔は細菌の温床となり、肺炎との関連が強いことが分かっています。
歯科による専門的口腔ケアで、肺炎のリスクが大きく下がるという報告もあります。

③ 食べ方を工夫す
・ひと口を小さく、ゆっくり食べる
・水分は冷たすぎず、熱すぎないものを選ぶ
・食後30分は横にならない

④ 体調管理を心がけ
発熱や感染症、脱水、睡眠不足、強い疲労があると、誤嚥しやすくなります。
無理をせず、その日の体調に合わせた食事を心がけましょう。

⑤ 筋力を維持する(オーラルフレイル予防)
舌の体操、口すぼめ呼吸、歩行などの全身運動も、嚥下機能の維持につながります。
「飲み込む力」は、全身の体力とも深く関係しています。

5.専門職ができる誤嚥性肺炎の予防策

ここでは専門職から受けることができる、予防の視点での関わりを紹介します。

① 歯科医・歯科衛生士
誤嚥性肺炎予防でもっとも科学的根拠が強いのは、口腔ケアです。
専門的な歯垢・舌苔の除去や義歯調整によって、噛む・飲み込む動作が安定します。

② 言語聴覚士(ST)
嚥下リハビリや発声練習を通して、誤嚥しにくい体づくりを支援します。
その人に合った食事形態の提案も行います。

③ 看護師・訪問看護
姿勢指導、服薬確認、食事時間や量の調整など、生活全体から誤嚥リスクを下げます。
看護師の中には、摂食嚥下障害看護認定看護師という認定を受けた看護師がいます。嚥下機能が低下した患者さんが安全に口から食べられるよう専門的な知識と技術で支援する看護師です。病院や施設、訪問看護ステーションによっては、このようなより専門資格のある看護師から指導を受けられることもあります。

④ 管理栄養士
低栄養は誤嚥性肺炎の大きなリスクです。
栄養量や食事形態を整えることで、予防の質が高まります。

6.肺炎が疑われるサイン

予防をしていても、肺炎を起こす可能性はあります。
そのため、以下のような肺炎の徴候に早めに気づくことがとても大切です。

・微熱や発熱が続く
・食後や夜間に咳が増える
・息苦しさやゼーゼーする呼吸がある
・食欲が落ちる、だるさが続く
・「なんとなく元気がない」

高齢者の肺炎は高熱が出ないことも多いため、
「いつもと違う」と感じたときは、早めに医療機関へ相談しましょう。

7.まとめ

誤嚥性肺炎は、決して避けられない病気ではありません。日々の姿勢、食べ方、口腔ケア、体調管理といった小さな積み重ねが、大きな予防につながります。

「むせる」「飲み込みにくい」と感じることは、体からの大切なサインです。それを「年のせい」と片付けずに立ち止まって考えることが、誤嚥性肺炎を防ぐ第一歩になります。

また、誤嚥の予防は、本人の努力だけで抱え込む必要はありません。
歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士、看護師、管理栄養士といった専門職が、
それぞれの立場から「誤嚥しにくい生活」を支えています。

早めに気づき、工夫し、必要なときには専門職とつながることで、食べる楽しみをあきらめず、安心して日常生活を続けることができます。

次回は、「リハビリで良くなるの?」嚥下を支える専門職と訓練方法について、実際にどんな支援が行われているのかを、より具体的にお伝えします。

<参考文献>

  • 講談社健康ライブラリー編:嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す.講談社,2017.
  • 藤谷順子:テクニック図解 かむ・飲み込むが難しい人の食事.医歯薬出版,2019.
  • ナース専科編:おうちでできる えんげ食.MCメディカ出版,2015.

この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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