目次

看護師が体験した熱海土石流災害④私の経験 後編

第4回目では、熱海土石流災害 私の経験④ 後編として、夫婦で熱海に移住し介護タクシー事業を運営している看護師が、熱海土石流災害を経験し、自分たちの身体状況や気持ちの変化、事業継続するために取り組んできたことなどをお伝えします。

この記事の目次

1.熱海土石流災害から一か月間の出来事

(1)私たちは1か月間どこにいたか?

土石流災害にて熱海市は災害当日から、災害救助法が適用されました。
令和3年7月1日からの大雨による災害 にかかる災害救助法の適用について

また、事務所のある地区は災害対策基本法第63条に基づき警戒区域となり、自由に立ち入ることはできなくなりました。災害対策基本法第63条に基づく警戒区域

災害があった伊豆山地区の方の多くは、各避難所から2次避難場所となったホテルへ移動していました。
しかし、自力避難ができない高齢者や自宅で介護が必要な家族のいる人、犬や猫などのペッドがいる、災害時に道路が寸断されたことで職場や自宅や避難所から2次避難場所に移動する方法がない、また、知人宅へ避難したなど、さまざまな事情ですべての人が2次避難場所に移動はできていませんでした。

ペット、犬、ネコ

まだこの時点で、私たち夫婦の自宅の状況はわかりませんでしたが道路が寸断されたことで戻ることは難しく、事務所のある地区は警戒区域となり、立ち入れないため、どちらにも戻れませんでした。

2次避難所となったホテルは伊豆山に住所のある避難者で満室となりました。
私たちの自宅は住所が伊豆山ではないため、帰宅困難者ということで2次避難所に入ることはできませんでした。

避難所

災害当日は宿に泊まり、翌日は私たちを心配してくれた方の自宅に宿泊、昼間は車中で過ごしていました。
災害2日目からは仮事務所兼宿泊ができるようにとセカンドハウスを提供して頂きました。

約1か月、私たちの状況を知った方のおかげで安全な場所で過ごすことが出来ました。

(2)自分たちの心と身体の状況

安全な場所を提供していただき、心と身体の緊張は少し緩みました。しかし、常にいろんな心配や不安、災害当日からの出来事が頭に浮かび、夜はなかなか寝付けない、眠っても眠りが浅く、朝起きると夜勤明けのように身体がだるい、脈が普段よりも速いような感じもありました。

食べ物を口にしても飲み込めない時もあり、1か月後、夫婦ともに3キロほど体重が落ちていました。

ストレス

(3)事業継続できるか、毎日不安

事業が継続できるか毎日不安で、事務所のある地区にはもう戻れないかもしれないと廃業を何度も考えた一か月でした。熱海市以外の場所なら継続できるのか、いや、熱海の地域課題と向き合ってきたのに他の場所で新たにチャレンジできるのか、今からではそんな体力も気力も無いなど、出口の見えないトンネルに入ってしまったような感覚でした。

災害後1か月の弊社の主な状況

  • 道路の寸断で経営者2名(私たち夫婦)は自宅へ帰宅困難
  • 社員は無事(市外在住)、7/6までは休みの指示。以降、自宅から車で通勤可能
  • 事務所建物は無事だが危険区域で入れない
  • タクシー車両1台が土石流にて廃車。3台から2台に減る(ドライバーは3名)
  • 7/5~仮事務所兼宿泊(知人のセカンドハウス)にて規模縮少し、事業継続
土石流

(4)災害時の問題と向き合いながら事業継続するためにおこなったこと

事業継続するためにおこなったことは従業員の安全確保や被災車両の確認、金銭面も含め、たくさんありますが、災害時の問題として第一優先で行ったことがあります。

私たちは災害後、さまざまな搬送依頼をいただき、その中で、優先順位をつけました。

  1. 道路の寸断等で送迎対応が困難なエリアがありました。
    家族の介助でUDタクシー等に乗車できる方
    代理受診で対応可能な方
    →これらをケアマネージャーに協力を仰ぎ選別
  2. 災害で外傷を負い搬送後入院された方、帰宅困難になった透析治療を受けている患者さん
    2次救急病院が受け入れてくれましたが、その影響で元々の入院が必要な方の入院が困難となり、病院がひっ迫。
    そのため病院からの転院や退院搬送依頼を優先的に受けました。
病院の外観

(5)デキルことはなにかと考えてスタートした支援活動

災害後、私たちのことを気にかけてくださった方々がたくさんいました。

事業のことでは「自分たちを会社の仲間だと思って、なんでも言って」と会社や職種を超えて心に寄り添いながら一緒に動いてくださいました。

全国訪問ボランティアナースの会キャンナスの菅原由美代表は災害後に熱海に駆けつけ、今までの経験からさまざまな災害支援をされている方々に繋げてくださいました。

キャンナスのモットーは「デキル事をデキル範囲でおこなう」ですが、災害時は「デキルことは精一杯おこなう」ということを教えていただきました。

しかし、コロナ禍での災害で、ホテル避難所の出入りは感染対策が厳重に行われ、DMATなど限られた医療や介護の災害支援チーム以外の支援は受け付けてもらえない状況でした。

2.まとめ

災害支援

災害後の自分たちの心と身体の状態からだと、「本音では休みたい」と思っていました。
その思いは封印し、デキルことはなにかと考えて、周りの方々に「こういう支援が必要ではないか」と思いを話した事から支援活動がスタートしました。

第5回目では、災害1か月後から現在までの支援活動を振り返り、減災、防災に繋がる地域との関わりについて考えていきます。



この記事を書いた人

河瀨愛美 大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。 <経歴> 看護師経験18年。 大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。 <資格> 看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者 <活動> ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」 <執筆> 看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,p70~p74

河瀨愛美

大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。

普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。

2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。 

<経歴>
看護師経験18年。

大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。

<資格>
看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者

<活動>
ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」
<執筆>

看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,P.70~P.74

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