目次

看護師が体験した熱海土石流災害⑤今後のために

2021年7月3日(土)静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)という場所で土石流災害が発生しました。

第5回目では、災害1か月後から現在までの支援活動を振り返り、減災、防災に繋がる地域との関わりについて考えていきます。

災害支援
この記事の目次

1.デキルことを考えながらの支援活動

(1)伊豆山の子どもたちに防災応援リュックのプレゼント

なぜ、このプロジェクトが発足されたのか。
私達を心配してくださった方が数日分の食料品などをプレゼントしてくださいました。
しばらく食事を作ろうという気持ちになれなかったので本当に嬉しかったです。

支援物資、食べ物、レトルト食品

この事から、避難所を出ても数日分の食料など、必要なものあれば安心できるのではないか。また、災害で坂と階段が多い熱海で着の身着のまま、崖を登り助かった方もいたので背負えるリュックなら何かに掴まって逃げることもできる。『自分の命を守るリュック』になると思いました。

キャンナスの菅原由美代表を通じて、ジャパンハートという医療支援活動をされている吉岡春菜先生と繋がり、Jリーガーの選手​などからリュック、各企業からもタオルなどのご支援いただけることになりました。

ただ、リュックなどが届いた時の私は、毎日を必死で過ごしていたせいか、自分の心が追いついていない状況でした。
「一人ではできない」と有志で発会した伊豆山災害支援チームに命を守るリュックの思いを伝え、相談しました。

「子どもたちはJリーガーからのリュックを喜ぶと思う。そうしたら大人も元気になるかも」と話が展開し、多くの方のご支援、ご協力でプレゼントが詰め込まれた応援リュックを伊豆山の子どもたちへ渡すことができました。

支援物資のリュック

(2)多職種連携で自宅に戻れた方の支援

7月下旬、警戒区域が少しずつ見直され、ライフラインは整ってなかったですが、事務所に戻ることができました。私たちは自宅には通行止めが解除された道路を通れば帰れましたが、渋滞がひどく大雨で土砂災害が起こる可能性もあり事務所で寝泊まりしました。

自宅に戻れた住民は、真夏の1か月間、電気も止まっていたため食材が傷み、家中に悪臭が漂い、冷蔵庫ごと処分する必要のある方もいました。行政や社会福祉協議会、民間のボランティア団体が連携し、冷蔵庫の搬出等の支援をしてくれました。

私たちは町内会などと連携し、8月の1か月間、シャッターのある事務所のガレージを支援物資保管庫として提供しました。仕事もあるため支援物資保管庫の準備、片付け、在庫確認などはしていきましたが、運営の中心は民生委員や町内の高齢の女性たちでした。

日中は住民がガレージに集まるコミュニティの場となり皆で協力し、一人暮らしで杖歩行、ゴミ出しは大変等という住民の困り事などを把握していきました。

(3)大雨のたびに避難

帰ってきたばかりの8月は避難指示が3回あり、各関係機関と連携し、住民の避難誘導や歩行困難者を避難先となるホテルへ送迎、気が休まらない日々でした。

住民の皆様は配っていたリュックに自分に必要な物(薬や水、食べものなど)を準備して「避難」と言われると、すぐにリュックを背負い、集合場所に集まってきました。

リュックは、実践で活きる「命を守るリュック」となりました。

避難所

(4)コミュニティの場つくり

8月下旬、少しずつ日常を取り戻せてきた頃、住民より「買い物に困る」という声があり町内会で相談し災害前から来てくれていた移動販売車が再開、新たに出張八百屋も始まり買い物を通して定期的に住民が集まる時間帯ができました。

10月からは事務所ガレージで復興支援として移動カフェが月に2回開催。
住民やみなし仮設に移られた方々が集えるコミュニティの場になりました。

顔見知りが増えていくことで、転倒したり、体調不良の方、ひきこもりや認知症の方の把握がしやすくなり、地域住民や多職種で連携ができるようになってきました。

支援物資を待つ人々

2.日頃からの顔の見える関係づくり

熱海市の人口は3万2千人程です。高齢化率は約49%と高く、2人に1人は高齢者です。

病気や身体にハンディキャップを抱え、一人で外出するのが難しいという人も多くいます。
熱海土石流災害ではほとんどの高齢者が「要配慮者」となりました。

災害が起きた伊豆山は市内でも高齢化率の高い地域です。高齢の一人暮らしや日中は家族が仕事に行くために一人で自宅に残っていた高齢者が多く、また、大雨で防災無線が聞こえず土石流が迫っていても気付いておらず逃げ遅れていた人もいました。

「看護師が体験した熱海土石流災害②私の経験 前編」に書いていますが、たった1人だけ知っていた住民に最初に声を掛けたところから何人も自宅内から出て来られ安全な場所まで避難することができました。

私は、災害が起きた日に会社の近隣に要配慮者が多くいることを知りました。

日頃から顔の見える関係だったり隣近所で協力し合うことは災害時にも支援が必要な要配慮者の安否確認ができスムーズな避難に繋がると熱海土石流災害を経験して感じています。

地域の人々

3.まとめ

災害から3年が過ぎましたが被災した多くの方は自宅に戻れていません。(24年7月現在)

土石流災害の原因として山の上に盛り土が見つかり砂防ダムが完了するまでは、危険警戒区域になっていた土石流が流れた場所に住んでいた多くの方々は、2021年9月まで自由にこの区域に入ることはできませんでした。

その間、慣れない場所にある、みなし仮設に住み、一時帰宅の許可が出た時だけ戻れていました。
帰宅が思うように出来なかった2年ほどで自宅が傷み、ようやく自由に立ち入りができるようになって本格的に自宅の修繕を始めることができた方もいます。帰宅できてもライフラインが整備されておらず、道が無くなってしまったため、同じ町内なのに行き来ができないなど地域での課題はたくさんあります。

日頃から住民が住み慣れた場所で生活していくのに安心感を持てるように地域全体で取り組んでいくことが減災、防災に繋がっていくと思います。

朝陽、明け方


この記事を書いた人

河瀨愛美 大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。 <経歴> 看護師経験18年。 大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。 <資格> 看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者 <活動> ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」 <執筆> 看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,p70~p74

河瀨愛美

大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。

普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。

2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。 

<経歴>
看護師経験18年。

大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。

<資格>
看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者

<活動>
ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」
<執筆>

看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,P.70~P.74

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