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看護師が解説!乳児の予防接種③世界で流行している麻疹のワクチンについて

乳児の予防接種③世界で流行している麻疹のワクチンについて

麻疹(はしか)は、海外で流行している感染症の一つです。

2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行で、国内外の人の往来が途絶えていたのに伴い、麻疹ウイルスの国内持ち込みも少なくなり、国内での発生率は減少していました。

その後、再び自由に海外に行き来できるようになり、2024年春には世界各国で麻疹流行が話題になりました。今回の乳幼児の予防接種③では、麻疹とそのワクチンについてお伝えします。

なお、麻疹のワクチンは「麻しん」として区別して表記します。

この記事の目次

1. 麻疹とは

感染源

麻疹ウイルス

感染経路

空気感染、飛沫感染、接触感染など

空気感染とは別名 飛沫核感染といいます。

感染者のつばなどの飛沫のうち、比重の重い水分だけが蒸発すると小さな粒子(ウイルス)だけが空気中に残ります。麻疹はこの空気中に漂ったウイルスを吸い込むことで感染します。

空気感染する麻疹の感染力は極めて高く、感染により90%以上の人が発症します。
水分が抜けて軽くなったウイルスは、空気中に浮遊して遠くまで移動するため、より多くの人が感染しやすくなるからです。

潜伏期間

10~12日間 *資料により7~21日としているものもあります。

麻しんに罹患している子ども
症状

38℃前後の発熱(一旦下がって再度39℃以上になることが多い)
倦怠感(乳幼児では不機嫌)、下痢、腹痛
咳、鼻水、くしゃみ、目の充血、目やに
コプリック斑(口腔粘膜にできた小さな白い斑点)、全身の発疹

感染後発熱し、一旦熱は下がりますが再び上昇するとともに発疹が現れます。
耳のうしろや首から出始め顔や身体、手足へと広がります。

高熱と発疹は4~5日ほど続いたのち、発疹が出始めた順に退色し始め、合併症がなければ7~10日程度で体調も改善していきます。

麻疹感染後、他者に感染させる可能性があるのは、発症1日前から発疹出現後4~5日くらいまでです。

2. 麻疹の怖さ

麻疹ではクループや肺炎、中耳炎、下痢、脳炎などを合併することがあります。

クループは、声門周囲(声が出るところ)のウイルス感染によりむくみが生じ、犬が吠えるような特徴のある咳が出ます。
空気の通り道が狭くなっているため、呼吸が苦しくなります。
中耳炎は比較的多い合併症の一つです。細菌感染により発症します。

乳幼児は症状を十分に訴えることができないため、耳から膿のような耳垂れが出ていることで気付くことがあります。
麻疹の感染がきっかけとなって死亡することもあります。
麻疹の二大死因は肺炎と脳炎です。

肺炎は麻疹ウイルスによるものと、細菌による二次感染で発症するものがあります。
脳炎は1000人に1人程度の割合で発症することがあり、思春期以降の麻疹による死因では、肺炎を上回っています。
脳炎になると、回復しても麻痺やけいれん、精神発達遅滞など中枢神経系の後遺症が残ることがあります。

さらに脳炎には、麻疹が治った後数年~10年を経て発症するものがあります。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)といい、極めて重篤な病気です。

2歳未満の子どもが麻疹にかかるとSSPEを発症するリスクが高まります。

3. 麻疹の流行状態

特に麻疹が流行している地域は、アジアとアフリカ諸国です。

【令和5年1月~12月までの流行状況】の図で、色の濃い部分が流行地域です。

人口あたりの報告数が多い上位5位迄の国

  • イエメン
  • アゼルバイジャン
  • キルギスタン
  • カザフスタン
  • リベリア

日本でも2024年2月末~3月上旬に、17名の感染者が報告され大きな話題となりました。

2018年には観光者から感染が拡大したケースがあり、100人規模の集団感染が確認されました。
2019年の感染報告数は年間744名でした。

世界における麻しんの流行状況
厚生労働省 麻しんについてから引用

その後新型コロナ感染症の流行により人の行き来が制限され、年間10人以下となっていましたが、2023年に28人と増加に転じ、今年2024年は半年に満たないうちに24名となっています。

積極的疫学調査の結果、周囲へ感染させる可能性のある時期に、公共交通機関等不特定多数の人が利用する施設を利用したことで、感染を広げていたことがわかっています。

積極的疫学調査とは、感染者の家族と濃厚接触者に対して行動歴や家族状況等の聞き取りをすることです。
実施主体は保健所です。

4.麻疹の予防接種

日本における麻しんの定期接種は、予防接種法に基づき1978年10月から開始されました。2006年4月以降は、麻しん風しん混合(MR)ワクチンが定期接種となり現在に至ります。

①ワクチンの効果

1回接種で95%以上、2回目接種で99%の人が免疫を獲得します。

稀にワクチン接種後麻疹にかかることがありますが、未接種でかかった人に比べて症状は軽く、周囲への感染力も弱いです。

②MRワクチン接種スケジュール

1回目:1歳になったら(2歳までに必ず)
2回目:小学校入学前の1年間(6際になる年度)

麻疹が流行している地域に渡航する予定のある定期接種対象前(1歳未満)の乳児が、予防接種を受けることは可能ですが、十分な免疫が獲得できないため接種回数には含まれません。

③麻疹のワクチン接種率

麻疹のワクチンは、2回の接種が必要です。

社会における流行を防ぐためには、95%の人が2回接種を終えている必要があります。
世界における接種率は1回目が83%、2回目では74%です。

そして、2022年にワクチン接種を逃した子どもは3,300万人いると言われています

日本でもMRの接種率は2010年以降1回目が95%以上と、高い接種率を維持していましたが、2021年度は93.5%と低下しています。

また2回目の接種率は1回目よりも低い傾向にあります。

麻疹は1人の感染発生者によって、一気に感染拡大する疾患として認識しておく必要がある感染症です。
ワクチンが接種可能な時期が来たら、なるべく早く受けさせましょう

④ワクチンの副反応

MRワクチンの臨床試験において報告された副反応は、接種後4~12日の期間に発熱27.3%、発疹12.2%でした。

発熱のうち、38.1C以上は17.6%、39.1℃以上は5.9%です。

接種後数日中に、過敏症と思われる発熱や発疹が報告されていますが、これらは1~3日で消失しています。
その他に鼻水、咳嗽、注射部位の発赤などがありました。

稀に重いアレルギー症状を起こす場合もあります。

また100万人接種中1人程度で急性血小板減少性紫斑病が、100万人接種中1人以下の割合で脳炎が報告されています。
頻度は少ないですが熱性けいれんを起こすこともあります。

接種直後~1ヶ月程度は、熱の有無や鼻・口腔粘膜・皮膚の出血に対する注意が必要です。

5.まとめ

麻疹は感染すると、高熱が4~5日ほど続き、多くはありませんが肺炎や脳炎で亡くなるケースもあります。

麻しんのワクチン接種が実施されていない世代の中には、免疫を持っていない方もいらっしゃるでしょう。

海外への行き来が自由になった現在、麻疹の感染に気付かず入国するケースがあることは否定できません。

ワクチン接種は2回目が1回目接種の数年後になるため「忘れていた!」と慌てることのないよう、「子どもが年長になったら」を合い言葉にして、忘れず接種させましょう。

母子手帳

次回は2024年4月に、新しくなった肺炎球菌ワクチンについてお伝えします。

参考資料
◆厚生労働省 麻疹について
◆NIID 国立感染症研究所
◆WAM 独立行政法人福祉医療機構
◆日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報
◆2023年予防接種に関するQ&A集 一般社団法人 日本ワクチン産業協会
◆乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン 添付書類

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この記事を書いた人

看護師:青木容子 看護師経験30年 (病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など) 現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。 紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

看護師:青木 容子
〈プロフィール〉

看護師経験30年

(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)

現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。

紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。

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