これまで、乳幼児の予防接種についてその必要性と、5種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブ)、麻疹のワクチンについてお伝えしてきました。
4回目の今回は肺炎球菌感染症についてです。
肺炎球菌感染症は高齢者にもワクチンがあり、予防接種の必要性が広く訴えられている病気です。
肺炎球菌は日常的に存在し、多くの人の身体に潜んでいる細菌です。
免疫の不十分な乳幼児や、免疫力の落ちた高齢者に感染リスクが高く、重篤なケースでは亡くなったり、重い後遺症が残ることもある怖い病気です。
病気を理解することで、予防接種の必要性もご理解いただけると思います。
この記事の目次
1.肺炎球菌とは
感染源:肺炎球菌
感染経路:飛沫感染 接触感染
肺炎球菌という細菌感染により発症します。
主として気道の分泌物によって感染しますが、症状が出ないまま鼻やのどで菌を保有(保菌といいます)して日常生活を送っている子どもも多くいます。
特に集団生活が始まると、ほとんどの子どもが肺炎球菌を持っているといわれています。
免疫力が低下するなどした際に発症します。多くは5歳未満で発症し、2歳未満の乳幼児では重症化するリスクが高くなるため、注意が必要です。
菌は空気の通り道から入り込みます。
肺炎球菌の多くは、発熱、悪寒(発熱前に起こるぞくぞくする不快な寒さ)、全身のだるさ、咳などのかぜ症状です。しかし鼻やのど以外の場所でも感染を起こすと肺炎や中耳炎になります。
まれに粘膜から血液中に侵入して、侵襲性肺炎球菌感染症を起こすことがあります。
2.侵襲性肺炎球菌感染症について
侵襲性感染症は、本来ならば無菌である血液や髄液(脳や脊髄の中に存在します)などから菌が検出される感染症のことをいいます。
肺炎球菌によって侵襲性肺炎球菌感染症を起こすと、髄膜炎や菌血症、敗血症を起こすことがあります。
髄膜炎 | 脳を包む髄膜で炎症を起こし、脳全体に影響を及ぼします。嘔吐、けいれん症状が出現し意識障害を伴うことがあります。 |
菌血症 | 血液中に菌が存在している状態です。 |
敗血症 | 感染によって、重篤な全身反応を起こします。 |
髄膜炎を起こした子どもの場合2%は亡くなり、生存しても10%に難聴や精神遅滞、四肢麻痺、てんかんなどの後遺症が残ると言われています。
肺炎球菌感染症の診断には、細菌の培養検査を行います。
血液や髄液などで肺炎球菌が検出された場合に、侵襲性肺炎球菌感染症と診断されます。
侵襲性肺炎球菌感染症を防ぐためには、肺炎球菌の予防接種を受けることが重要です。
3.新しくなった肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌には100種類以上の型(血清型といい、菌を細かく分類したときの種類)があり、その型によって症状の出かたに違いがあります。
2024年4月より定期接種が始まった肺炎球菌のワクチンは、沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)が用いられてきました。
2024年4月からは沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)に変更されています。
PCV13では13種類の肺炎球菌に対しての予防効果がありましたが、PCV15では15種類に対応できることになります。
PCV15では筋肉注射も可能になったため、より安全に接種できるようになっています。
2024年10月1日からは、20価肺炎球菌結合化型ワクチン(PCV20)の接種が開始されました。これに伴いPVC13は使用が中止されています。PCV20の接種スケジュールはPCV15と同じです。
ご不明な点があれば、予防接種を受ける医療機関でご確認下さい。
4.肺炎球菌の予防接種
①ワクチンの効果
厚生労働省のホームページには以下と書かれています。
「ワクチン接種により、肺炎球菌(ワクチンに含まれる種類のもの)が血液や髄液から検出されるような重篤な肺炎球菌感染症にかかるリスクを、95%以上減らすことができると報告されています」
小児肺炎球菌ワクチンは2011年から公費助成が始まりました。
定期接種開始は2013年からです。公費助成が始まったあと、肺炎球菌を原因とする細菌性髄膜炎は71%減少しています。
2022年に髄膜症を含む重篤な肺炎球菌感染症は、10万人当たり4.8人程度でした。
肺炎球菌ワクチンの定期接種開始以前の2008~2010年との比較では、8割程度減少しているとの報告があります。
②接種スケジュール
肺炎球菌ワクチンは生後2ヶ月目から接種が可能です。合計で4回接種します。
2回目、3回目はそれぞれ4週間(27日)以上あけて接種します。
月齢が「3ヶ月、4ヶ月に入ったら」と覚えておきましょう。
4回目は、3回目接種後60日以上あけて、かつ12ヶ月以上~15ヶ月未満の間に接種します。
「1歳になったら」と覚えておきます。
上記の間に予防接種が受けられなかった場合のスケジュールは以下の通りです。
- 初回接種が7~12ヶ月(計3回接種)
初回接種後4週間(27日)以上あけ2回接種します。初回接種後60日以上あけて、生後12ヶ月以降で1回接種します。
- 初回接種時が1~2歳(計2回接種)
初回接種後60日以上あけて2回目を接種します。
- 初回接種が2~5歳(計1回接種)
初回接種のみです。
標準スケジュールから逸脱してもワクチンを接種することは可能ですが、小さい子どもほど重症化リスクが高いので、接種可能な2ヶ月を越えたらできる限り早めに予防接種を受けましょう。
また、公費で接種できる期間は決まっています。
その期間外での接種は自己負担となります。
2024年4月前に肺炎球菌ワクチンの接種が始まっているお子さんは、PCV13でスタートされていると思います。そのようなお子さんも、2回目、または3回目、4回目からPCV15の接種が可能です。
③ワクチンの副反応
臨床試験において、重篤な副反応である重度のアレルギー症状は報告されていません。
熱性けいれんを含むけいれんは0.3%です。
発生率が10%以上認められるものに、
全身症状 | 38.0℃以上の発熱 | 55.6% |
食欲低下、機嫌が悪くなる、よく眠るなど | 56.4% |
局所症状 | 注射部位の発赤 | 66.2% |
硬くなる | 60.9% |
腫れる | 50.9% |
蕁麻疹 | 1~10%未満 |
多くの症状は数日で自然に改善します。不安なときは、予防接種を受けた医師に相談してみましょう。
5.まとめ
肺炎球菌感染症についてお伝えしました。侵襲性肺炎球菌感染症など聞き慣れない病気もあり、不安に感じられた方もいらっしゃったのではないでしょうか?しかし、その多くはワクチンで予防できます。
忘れずに予防接種を受けてください。
乳幼児の予防接種シリーズも次で最終となります。次回は、インフルエンザと新型コロナ感染症の予防接種についてお伝えします。
引用・参考資料
◆厚生労働省 肺炎球菌感染症(小児)
◆厚生労働省 小児肺炎球菌ワクチンの変更に関するQ&A
◆日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」
◆Pfizer こどもの肺炎球菌感染症を学ぶ
◆沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン添付資料
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この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。