高齢者の皮膚は加齢に伴い、乾燥しやすくバリア機能が低下ます。
そのため、外界からの刺激を受けやすくなり、スキントラブル発生のリスクが高くなります。
また、感染症や床ずれといった新たな疾患の原因にもなるため、高齢者には適切なスキンケアが必要です。
では、どのようなスキンケアを行うのがよいかみていきましょう。
この記事の目次
1. スキンケアの基本
1) 洗浄
洗浄剤は皮脂を落としすぎない弱酸性のものを選択します。
- 洗浄剤はよく泡立て、泡を皮膚の上に置き、泡のクッションでやさしく洗います。
- ゴシゴシとこすらないように注意しましょう。
- 泡タイプの洗浄剤を使うと簡便です。
- 洗浄剤が残るとスキンントラブルの原因になるため、十分に洗い流します。
- 微温湯(38~40℃)でゆっくりと流し、皮脂を落とし過ぎないように注意します。
シャワーを使う場合は、水圧を弱めにします。
入浴時も同様に温度に注意し、長湯を避けるようにします。
- 身体を拭く際は擦らず、タオルを皮膚に軽く押し当てて水分を取るようにします。
- 入浴ができない場合は、洗浄の代わりに清拭を行い清潔にします。
- 強くこすらず保湿とセットで行うようにします。
また、清拭用のクロスは熱くならないように注意します。
- 温度が低いと冷たく感じるため、程よい温かさのうちに使用しましょう。
- 石けん清拭の場合は、石けんの成分が残らないようによく拭き取るようにします。
2) 保湿
洗浄後(もしくは入浴後)は水分が蒸発していない皮膚がしっとりとしている間に、保湿を行います。
保湿剤には、水分の蒸発を防ぐ成分と皮膚に潤いを与える成分が配合されています。
高齢者の皮膚は乾燥傾向で脆弱になっているため、皮膚の摩擦が起きないよう伸びがよいローションや、軟らかいクリームを選択するとよいでしょう。
- 保湿剤を手のひらにのせ、体温で温めてから、手のひら全体になじませます。
- 保湿剤の量は片腕に塗布する場合、手のひらに10円玉〜500円玉くらいの大きさを目安に皮膚の状態に合わせて調整するとよいでしょう。
洗浄のときと同様に擦らないよう注意し、手のひら全体を使い保湿剤を浸み込ませるように毛の流れに沿って塗布していきます。
- 肘、膝、踵など骨が出ている部分は乾燥しやすいので忘れずに塗布しましょう。
- 乾燥が強い場合は、保湿剤の量を多くするのではなく、保湿の回数を増やすようにします。
- 入浴後のほか、朝の外出前などなるべく皮膚が清潔な状態のときに保湿を行うようにします。
3) 保護
保湿剤によっても皮膚の保護は可能ですが乾燥が強い場合は、ローションなど保湿剤で水分を十分に与えてから油分の多いクリームで保護をするとより効果的です。
おむつを着用している場合は、排泄物による刺激やおむつ内の蒸れによってスキントラブルが起こりやすくなります。
撥水性のあるクリームやオイルを用いておしりを保護しましょう。
外出する機会のある方は、日焼け止めを塗ることで皮膚を保護することができます。
手足などの皮膚は打撲や摩擦で容易に傷つくことがあり、特にむくみがある場合は皮膚が薄くなっているため、衣類などで保護することが必要となります。
そのため、皮膚トラブルに細心の注意が必要です。
2. 高齢者のスキンケアで気を付けること
高齢者の多くはスキンケアの習慣がなく、指導をしてもこれまでの習慣をなかなか変えられない場合もあります。
高齢者の方が行ってきた習慣を尊重したアプローチを心がけましょう。
ナイロンタオルでゴシゴシ洗わないと満足できない高齢者の方には、柔らかなナイロンタオルの使用や、洗浄後にはしっかりと保湿することを提案します。
スキンケアは継続が大切です。
初めからすべて正しい方法に変えようとするのではなく、ひとつずつ提案していき高齢者の方に心地よさや効果を実感してもらいながら適切なスキンケアへと導いていくことが大切です。
在宅での観察のポイントと指導のポイント
全身の皮膚の観察と自覚症状の確認を行います。
特に皮膚の乾燥は、痒み(掻痒感)により皮膚を掻くこと(掻破)で皮膚が損傷し、さらに痒みが増すという悪循環に陥り新たな皮膚トラブルを引き起こします。
皮膚の乾燥状態の確認
腕や足の乾燥の状態を確認します。
冬場などに皮膚の乾燥が強くなると、角層の落屑(らくせつ)といわれる白い粉が衣服に付着していることもあるので、着用後の衣服も観察しましょう。
自覚症状の確認
痒みや痛みなどの自覚症状を確認し、症状が続く、ひどくなるようなら皮膚科の受診につなげるようにします。
痒みの症状によっては、真菌感染の可能性や、強い乾燥により医療用の保湿剤が必要となる場合があります。
痒みを軽減させるための対処法
痒みを和らげるために、日常生活のなかで気をつけるべきことがいくつかあります。
- 痒い部分を触らない
-
痒い部分を刺激してしまうと、さらに症状が憎悪してしまうので、さすったり、叩いたりという行為も控えましょう。かゆい部分は、なるべく触らないようにすることが大切です。
- 保湿はこまめに行う
-
乾燥は痒みのもとといわれています。
自分の肌質にあった医療用の保湿効果の高い保湿剤を使って毎日保湿ケアを行いましょう。お風呂上がりは20分以内に保湿すると効果が高まります。
- 加湿を心がける
-
自分の身体だけでなく自分がいる空間の乾燥対策も大切です。
加湿器を使ったり室内で洗濯物を干したりするなど、日頃から加湿を意識することが大切です。
特に冬場は夏場に比べて湿度が低く、暖房器具の使用などでさらに乾燥しやすい環境になります。湿度は55〜65%程度がよいとされているので、湿度計をチェックして、常に加湿することを意識しましょう。
- 保温機能のある電化製品は要注意
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電気毛布や電気カーペットなど保温機能がついている電化製品には肌を乾燥しやすくしてしまうこともあるので要注意です。
電気毛布などは寝る直前までつけておいて寝るときには電源を落とすなど、肌をなるべく乾燥させない使い方をしましょう。
- 刺激の少ない素材を身につける
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ウールやナイロンなどの素材はその刺激によって痒みを引き起こすことがあります。
直接肌に触れる下着を選ぶときには木綿製の下着などできるだけ肌にやさしい素材で刺激を与えないようにしましょう。
また、刺激の少ない素材でも締め付けがきついと締めつけられた部分がかゆくなってしまうこともあるので気をつけましょう。
- 衣類のタグを切り取る
-
下着類だけでなく首回りや脇腹など衣服の裏側についたタグが肌を刺激して痒みを引き起こす場合もあります。
そのような場合はタグそのものを切り取るなどの工夫もおすすめです。
- 刺激物はなるべく控える
-
カフェインを多く含んだ飲み物やアルコール類また香辛料がたっぷり入った料理などの刺激物は、痒みを引き起こす原因になることがあります。
刺激物を摂取したからといって、すべての人が痒みを生じるわけではありませんが、その影響は個人差があるため、それぞれ自分に見合う分量をとるようにしましょう。
また、偏った食事にならないよう栄養バランスを考えて食べることも大切です。
- 入浴時にこすりすぎない
-
ナイロンタオルなどで、身体をこすってしまうのはおすすめできません。
石けんやボディソープも洗浄力が強すぎると皮膚を保護してくれるはずの皮脂をとりすぎて乾燥の原因となってしまいます。
適量をよく泡立てて、手や柔らかいタオルなどでやさしく洗いましょう
また刺激の低い弱酸性のボディソープの種類なども検討しましょう。
- 熱すぎるお湯につからない
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肌の乾燥を防ぐため熱すぎるお湯に長時間入るのは避けましょう。
熱いお湯では肌の保湿成分が流れてしまいやすくなるので、40℃以下のお湯に長くても20分程度入るということを目安にしてみましょう。また、入浴時に低刺激性で保湿成分が配合された入浴剤を使用するのもひとつの方法です。好みの香りの入浴剤を使うことで、リラックス効果も期待できます。
- 適度にストレス発散する
-
痒みが生じるのは外的要因だけではありません。心理的ストレスが多いと、それが原因で痒みを引き起こすこともあります。
ストレスを発散できる方法を見つけて、適度にストレスを発散させることも大切です。
3. まとめ
高齢者の皮膚は「乾燥していること」や「薄いこと」が多いため、脆弱な皮膚であることを意識して「愛護的なスキンケア」を行うことが大事です。
高齢者のスキンケアはバリア機能を保持しながら2次損傷を予防し、皮膚の健康維持および促進することだといえます。
また、高齢者の手の届かないところはスキンシップを兼ねて介護者が行うことも大切なスキンケアの一つと言えます。
正しいスキンケアのポイントを理解し、スキントラブルが起きないようサポートしていきましょう。
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この記事を書いた人
全国訪問ボランティアナースの会キャンナス弘前(青森)代表。
看護師歴6年。(内科病棟)
結婚後は一時退職し、自分に出来る看護はなにかあるのだろうか、と模索していた時にキャンナスの存在を知り、キャンナス弘前を立ち上げる。
その後、様々な診療科(婦人科、皮膚科、特別養護老人ホーム、訪問入浴など)の経験の傍ら、看護学生や介護士の実習や演習、授業などの講師業などにも従事。
フリーランス看護師として様々な働き方にチャレンジ中。