※このコラムでは65歳以上の方を「高齢者」と表記します※
皆さんは転倒して怪我をしたことはありますか?
ほとんどの方は経験があるかと思います。
転倒すると擦り傷や打ち身など小さな怪我から骨折などの大きな怪我に至る場合もあります。
看護師は患者様やご利用者様の安全を守るために、転倒予防対策をおこなっています。
わたしが働いていた病院や介護施設では、必要に応じて付き添い歩行や車椅子の使用などの対策を行っていました。
在宅の場でも、お部屋の環境を整えたり住宅改修を提案したりしていました。
また、厚生労働省と消費者庁は転倒予防の取り組みとして、10月10日を「転倒予防の日」と制定して呼びかけを行っています。
国が動くほど転倒事故は深刻であり、高齢者の安全を守るために必要な取り組みであると言えます。
今回のコラムでは、高齢者の転倒についてまとめました。
ご自身の転倒予防のためや転倒事故に出会った時のために参考にしていただくと嬉しいです。
この記事の目次
1. なぜ高齢者は転倒しやすいのか
高齢者になると転倒しやすく、また転倒による怪我は若い人に比べて大きな怪我になる傾向があります。
事故件数では交通事故よりも転倒事故の方が4倍多いと言われています。
なぜこんなにも高齢者は転倒しやすいのか。
その理由は大きくまとめて3点あります。
(1) 加齢による体の変化
若い時にはできていたのに、最近ではできなくなったことはありませんか?
これは加齢による体の変化が原因です。
転倒に大きく関わるのは、筋肉と感覚機能の2つです。
筋肉は20歳をピークに減り始め、80歳までに40%減少すると言われています。
筋肉には咄嗟の時の瞬発力、体を支えるための持久力、体の動作に大きく関わる柔軟性などの機能があります。
人の筋肉は全身の筋肉の内、下半身が占める割合は60~70%です。
下半身の筋肉は歩行する際に必要な筋肉のため、衰えると歩行に問題が生じてきます。
例えば足が上げられず躓きやすくなる、膝を痛めやすくなるなどが起こります。
感覚機能とは、嗅ぐ、視る、聴く、味わう、触れる等の刺激を脳で感じることを指します。
これらは加齢により鈍くなります。
例えば視覚が低下すると、暗さと明るさの調節がうまくいかなくなったり、視野が狭くなったりします。
そのため、段差などの障害物に気付にくくなり、転倒するリスクを高めてしまいます。
(2) 持病による影響
高齢者の多くは病気を抱えている場合が多いです。
転倒しやすくなる病気は、主に循環器系、神経系、筋・骨格系の病気です。
- 循環器系の病気がある方は、立ちくらみやふらつきが起こりやすくなります。
- 神経系の病気は感覚機能が低下するため、歩行に影響します。
- 筋・骨格系に問題があると、痛みや骨の変形などで歩行が難しくなる場合があります。
また転倒した際に大きな怪我に繋がりやすくなります。
(3)薬の作用・副作用
高齢者は薬を飲んでいる方も少なくありません。
薬の作用・副作用によって立ちくらみやふらつきが出てしまう場合があります。
例えば、睡眠薬、アレルギーの薬、血圧を下げる薬、糖尿病の薬などがあります。
眠気が残る、眠気を誘発する、血圧や血糖値を変動させることが転倒しやすい状況を作ります。
これらが複合的に関連し合って転倒リスクが高くなります。
2. 高齢者が転倒したら起こること
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、高齢者の寝たきりになった原因ワースト5は下記の通りです。
- 1位脳血管疾患
- 2位認知症
- 3位衰弱
- 4位転倒事故
- 5位関節疾患
と転倒事故は4位で約10%の方が転倒を機に寝たきりとなっています。
なぜ転倒したら寝たきりになってしまうのか。
高齢者が転倒したら起こること、転倒と寝たきりの関係性についてお伝えします。
(1) 骨折
高齢者は骨密度が年齢とともに低くなるため骨が脆くなります。
そのため転倒すると骨が転倒による衝撃に耐えられず、骨折してしまいます。
転倒による骨折で最も多いのが腰の圧迫骨折です。
腰は上半身を支え、下半身から伝わる衝撃を受け止める役割があります。
圧迫骨折をすると腰に痛みが生じ、歩くのが困難になります。
治療方法はコルセットやギプスを装着し、腰の骨が動かないように固定し安静にする保存療法が基本です。
1ヶ月~数ヶ月ほどで痛みが和らいできますが、動けない期間が長いため歩くための筋肉も衰えてしまいます。
次に骨折が多い部位は太ももの骨です。
腰と同じく動かすと痛みが生じてしまうため、動くのが億劫となり動けなくなってきます。
このことから、骨折をきっかけに歩けなくなってしまう、寝たきりになってしまうという方が多い状況となります。
(2) 脳挫傷
脳挫傷とは、頭部への直接的な打撃や激しい揺れにより、脳そのものが損傷した状態を指します。
高齢者は咄嗟の反応が鈍くなります。
転倒した際に手で防御するなど、転倒による衝撃を和らげる行動ができない場合があります。
そのため、頭を強くぶつけてしまう方が多いのです。
頭を強くぶつけることで、脳には大きな衝撃が伝わります。
症状は頭部を受傷してから数時間~数日かけて拡大することがあります。
脳の損傷部位にもよりますが、意識混濁や手足の運動麻痺などの症状が出現します。
このようにして、寝たきりに繋がります。
頭をぶつけることで一番怖いのは、脳にある生命維持機能が働かなくなり、死に至る場合があることです。
3. 高齢者の転倒時にすべきこと
どれだけ転倒に注意して対策を練っていても、転倒を避けられないことがあります。
高齢者は転倒して負傷する部位は頭部が最も多く、次いで脚と言われています。
特に頭をぶつけると先述した通り命に関わる場合もあるため、早めの対応が重要です。
ここでは転倒時にすべきことをお伝えします。
看護師が職場で転倒した方を発見した時にも同じようなことをしています。
是非参考にしてください。
(1) 安静にする
転倒してしまったらまずは安静にします。
安静にできない場所で転倒した場合、移動が可能なら安静にできる場所まで移動します。
声をかけて反応はあるのか、目は合うのか、意識状態も確認しましょう。
(2) 怪我の有無を確認する
転倒してぶつけた部位を確認します。
痛みがある、しびれがある、動かしにくさがある部位を中心に確認します。
確認するポイント
- 出血の有無
- 変形の有無
- 痛みの有無
- 腫れや赤みの有無など
出血が多い、変形が酷いなどがあれば救急要請を検討します。
(3) 怪我以外の症状の確認
頭をぶつけた場合、頭痛、吐き気、めまい、話し方がおかしい、普段と変わりないかを確認します。
起き上がり時に真っ直ぐ歩けない、ふらつきがある、目の見え方が違う場合も同様です。
いつもと違う、なんだかおかしいと感じたら速やかな医療機関の受診をお勧めします。
(4) 経過を観察する
頭部はぶつけてから数時間~数日経ってから症状がでることがあります。
頭の中の血管が切れて、じわじわと出血が続き、脳に影響が出る場合があります。
その場は問題なさそうに見えても後日突然症状が出ることも少なくありません。
目安として頭をぶつけてから48時間は安静に過ごし、経過を見るとよいでしょう。
4.まとめ
今回のコラムでは、以下についてお伝えしました。
- 転倒しやすい理由
- 転倒したら起こること
- 転倒時にすべきこと
転んでも平気、自分はすでに気を付けているから転ばないと思っている方は少なくありません。
このコラムをきっかけに、高齢者の転倒には気を付けないといけないという意識を改めてもっていただけると幸いです。
転倒によって辛い思いをする高齢者が一人でも少なくなりますように祈っています。
【参考】
消費者庁 10月10日は「転倒予防の日」
政府広報オンライン たった一度の転倒で寝たきりになることも。転倒事故の起こりやすい箇所は?
健康長寿ネット 転倒
国立長寿医療研究センター 転びやすくなる原因は?
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この記事を書いた人
冨永美紀
母親の入院で関わった看護師に心を打たれ、看護師資格を取得。
看護師の現場で、臨場の場に立ち会うことで『生死』について興味が沸く。
恩師の紹介でお寺とのご縁が結ばれ、2020年から密教塾生となり修行の世界へ。
現在は仕事と修行を両立するため岐阜県へ移住し、夫と犬2匹と自然豊かな場所で暮らす。
<経歴>
看護師歴10年
・腎臓内科、糖尿病内科、内分泌科病棟
・救急救命センター
・自由診療のクリニック
・コールセンター
・訪問看護ステーション
・家事代行業