子宮がんは多くの人にとって遠い存在と思われがちですが、実は女性であればだれにでもリスクがあります。
現在、日本では毎年数万人の女性が子宮がんと診断されています。
女性の健康にとって大きな脅威となる病気ですが、予防や早期発見が可能な病気でもあります。
この記事では、子宮がんの予防についてお伝えします。HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが効果的な予防手段として知られているかと思いますが、他にも生活の中でできる予防策があります。
今回は、HPVワクチンに加えて、取り組むことができる子宮がん予防のポイントをご紹介します。
これらの予防策を知ることが、あなた自身の生活を守る第一歩となればうれしく思います。
この記事の目次
1. HPVワクチンとは
HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンです。
「子宮がんの原因はHPV?原因と症状を解説」でお伝えしました通り、子宮頸がん発症のリスクは性行為を通じてHPVに感染することで高まります。
| 子宮頸がん | 子宮体がん |
患者の典型例 | 30代で子供がいる | 50代で肥満体形 |
| シトパピローマウイルス(HPV) 感染の起こりやすい状況にある人 例)性交渉の相手が多い 妊娠・出産回数が多い 性交渉開始年齢が低い など | 肥満 高血圧 妊娠出産を経験していない エストロゲン製剤の長期使用など |
好発年齢 | 30~60歳(30~40歳代にピーク) | 40~60歳(50代にピーク) |
病気が起こる原因 | HPV感染(16型と18型が多い) | エストロゲンの作用が強くなる プロゲステロンの作用が弱くなる |
ワクチンを接種することで子宮頚がんの発生リスクは大幅に抑制できることが報告され、多くの国がワクチン接種を推奨し、がん予防において重要な役割を果たしています。
日本では2009年に一度承認されましたが2013年に副反応や副作用の報告が相次ぎ、厚生労働省は適切な情報提供ができるまで積極的に接種を勧めること(積極的勧奨)を差し控えました。
その後、ワクチンの安全性の確認を繰り返し、接種による有効性が副反応のリスクを上回ると認められ、2022年に積極的勧奨を再開しました。
副反応や副作用の報道や身近な方からの話を見聞きして、ワクチンを接種するかどうか不安な方もいらっしゃるかと思います。今はHPVワクチンの情報をさまざまな方法で知ることができます。
ワクチン接種は、接種しようとしている方がワクチンについて理解し、接種することに納得していることが大前提です。情報を吟味したり、医師に相談したりしながら、接種するかどうか考えてください。
この記事の最後に、日本産科婦人科学会の「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」のURLを参考までに載せておきます。
現在、日本で承認されているワクチンは3つあります。
いずれか1つの種類を選択し、2~3回接種する必要があります。
どのワクチンを接種するかどうかは、ワクチン接種が可能な医療機関で自分の年齢や健康状態、感染を予防したいHPVの型について相談した上で選ぶとよいでしょう。
産婦人科診療ガイドラインによると、ワクチン接種は性行為を経験する前に接種を完了すると予防効果が高いことから、10~14歳の女性に接種することが最も推奨されていて、次に15~26歳の女性の接種が推奨されています。
HPVにすでに感染したことがある人は予防効果が低いため、すでに性行為の経験があり、HPVに感染した可能性がある15~45歳の女性がワクチン接種を希望する場合は効果についての説明を十分に受けた上で接種してもよいと書かれていました。
心配される副反応はインフルエンザワクチンなどの他のワクチンと同様で、注射後の痛みや腫脹、発熱などがありますが、他のワクチンと比べても安全性は同等と確認されています。
また、ワクチンを接種することで10年後もHPVに対する抗体を保持し、効果が続いているという研究報告も多く、再接種は必須ではないと確認されています。
最後に、一部の自治体では、対象年齢外の任意接種でも助成をしているところもあります。助成制度が利用できるかは医療機関や自治体の窓口に相談するか、自治体のウェブサイトで詳しい情報を確認してください。
2. その他の生活の中でできる3つの予防策
1) 定期的に検診を受ける
HPVワクチンを接種したとしても、すべてのHPVの型を予防することは困難です。
そのため定期的な検診を受けることが大切です。
自治体や健康保険組合などで費用負担のある子宮がん検診とは、子宮頸がん検診のことを指しています。子宮体がんの検査は含まれないことが多いため、注意が必要です。
子宮頸がん検診は今まで細胞を採取する細胞診のみでした。
しかし、2024年4月より条件を満たす一部の自治体に限り、30歳以上の女性はHPV検査単独法という検査を受けることが可能となりました。
HPV検査単独法は、まず細胞診と同様に細胞を採取してHPVの感染の有無を調べます。そして、感染していた場合は感染の有無を調べた検体を用いて細胞診の検査を実施し、子宮頸がんかどうか確認します。
また、この方法は検査する体制を整えておく必要があるため、2024年11月現在において実施している自治体や医療機関は限られています。
検査項目 | 対象者 | 検診の間隔 |
問診、視診、子宮頚部の細胞診及びな内心 | 20歳代 | 2年に1回 |
問診、視診、子宮頚部の細胞診及びな内心 | 30歳以上 | 2年に1回 |
問診、視診及びHPV検査単独邦 ※実施体制が整った自治体で選択可能 | 5年に1回 ※罹患リスクが高いものについては1年後に受診 |
子宮体がん検診は、不正出血などの症状がある場合は保険診療で行ってもらえます。
自分で希望して受ける場合は基本的に全額自己負担になります。
いずれの検査も内診し、子宮頸がん検診の場合は子宮の入り口部分の表面を、子宮体がん検診の場合は子宮内膜を、やわらかいブラシなどでこすって細胞を直接採取して調べます。
内診や検査をリラックスして乗り切る方法を「どの程度なら大丈夫!?女性の不正出血を自分でチェック」の「4.婦人科系の検査をスムーズに受けるコツ」に書いていますので、参考にしてください。
2) 健康的な生活習慣を心がける
子宮がんは生活習慣、体重管理も発症リスクに関係しています。
そのため、健康的な生活習慣を心がけることは予防につながります。
まず、バランスの取れた食生活が大切です。良質なたんぱく質を積極的に摂取し、栄養バランスを整えることで、免疫力を高めることができます。その他、飽和脂肪酸や加工食品を控えたり、食事の量を意識したりすることは健康的な体重を保つことになり、肥満による子宮体がんのリスクを抑えることが期待できます。
次に、適度な運動と休息を習慣化することです。ウォーキングやヨガ、ジョギングなどの有酸素運動を行うことで健康的な体重を保つだけではなく、ホルモンバランスを整え、ストレス解消となります。
趣味に没頭する、リラクゼーションの時間をもつ、質の良い睡眠を確保することは免疫力を高め、病気に対する抵抗力を高めます。
また、喫煙と過度な飲酒を避けることも推奨されています。
喫煙は子宮頸がんのリスクを高めることがわかっているため、禁煙を心がけることが必要です。
飲酒も摂取量が増えるほどがんのリスクが高まることから注意が必要です。
さらに、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を持病でお持ちの方は、症状をコントロールし続けることで、子宮体がんのリスクを減らすことにつながります。
3) 健康的で安全な性生活を送る
子宮頸がんの予防には、性に関するリスクを正しく理解し、からだもこころも安心で安全であることが重要です。そのためには、まず性感染症の予防が必要です。性行為の時にはコンドームを正しく使用することで多くの性感染症を予防できます。また、パートナーとともに定期的に性感染症の検査を受けることで感染の有無を早期に発見し、適切な治療を受けることにつながります。
さらに、複数のパートナーとの接触を避けることでHPV感染のリスクは抑えることができます。
相手に対して安心を感じられることは、性生活を楽しむための基盤となります。
3.まとめ
子宮がんの予防には、HPVワクチンの接種だけではなく、定期的な検診や生活習慣、安全な性生活といった日々の生活の中で予防できることがあります。
これらの予防策を少しずつでも取り組んでいくことで、子宮がんのリスクを減らし、健康的な生活を送ることにつながっていきます。
次回は、子宮がんの治療法の種類と選び方についてお伝えしていきます。
参考文献
日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
※2024.11.23閲覧
定期的にコラムの更新、キャンペーンなどご案内しています。ぜひご登録をお願いいたします
この記事を書いた人
ヤマダ カオリ
〈プロフィール〉
親に勧められ、自分が希望する心理学への道をあきらめ、看護学校に入学し、病院に就職する。周りの同期のように看護が楽しいと感じられず、私のしたいこととは違うと思い続け、「看護師は向いていない」と悩みながら3年間 病院で勤務後、退職する。事務職に転職しようとパソコンや簿記を学ぶが、25歳では事務職への転職は難しく、生活のために看護師に復帰する。
復帰後はマンネリ化した機能別業務に、再度「看護師は向いていない」と感じる日々が続いていた頃、関連病院で病床数増床のため看護師を募集していることを知り、心機一転すれば看護の楽しさがわかるのではと思い、異動を希望し、上京する。上京した病院で、自宅で最期を迎えたいと希望する患者や家族への退院指導の難しさと充実感を知り、新人教育担当として新人看護師が日々成長していく姿に励まされ、5S活動やQCサークル活動を通じて業務改善に手ごたえを感じるなど、看護師を続けたいと思えるようになった。それからは、自分の興味の赴くままに学びを深め、特に認知症に関する知識や技術を身につけ、「その人の行動の意味することは何か、生活歴を通して気づく看護の楽しさ」を伝えたいと思うようになった。
現在は、「看護が楽しい」と感じる仲間を増やしたくて、看護学校で看護教員をしている。
〈経歴〉
看護師経験 32年(内分泌代謝・循環器内科病棟、外科混合病棟、高齢者施設で勤務)
看護教員養成研修 修了
認定看護師教育課程(認知症看護) 修了
医療安全管理者養成研修 修了
認定看護管理者制度 ファーストレベル・セカンドレベル教育課程 修了
〈講座〉
認知症ケアに関する講座 多数
未来をつくるkaigoカフェ 「つづけるカフェ」隔月開催(現在休止中)