健康相談のなかで多く聞かれる悩みに「不眠」があります。
「ぐっすり眠れない」
「夜中に何度も目が覚める」
「目覚めがスッキリしない」
とおっしゃる方は多く、「眠れなかった」という焦操感は体だけでなく心も疲弊させてしまいます。
「色々試してみたけどどれもダメ。ああ、いつかまた眠れるようになりたい・・・」
そんな思いはみなさんの共通した切なる願いです。
この不眠、解決の糸口はいったいどこにあるのでしょうか?
多くのクライアントさんとのセッションから見えてきた私の答え。
それは、自分の睡眠を『肯定し信頼すること』でした。
今回から始まる「不眠症」シリーズでは、不眠に悩む方が新しい解決の糸口に気付き、「眠れる人」になっていくための具体的な方法をお届けしていきます。
この記事の目次
私は不眠症なの?
平成26年版厚生労働書白書によると、「普段の睡眠で休養が十分にとれているか」というアンケート調査に対し、「あまりとれていない」「全くとれていない」と回答した人は成人の30~40%にのぼっています。
慢性不眠症は成人の10%、睡眠薬を服用している人は成人の5%にあたり、不眠症は国民病ともいわれています。
それでは、あなたの「眠れない」は不眠症にあてはまるのでしょうか?
不眠症の定義
不眠症とは、下記の状態が週3日以上続くことで診断されます。
①寝つきが悪い、眠りが浅い、何度も目が覚めるなどの症状があり、夜間の不眠が続いていること
②夜間不眠の影響で、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下・抑うつ・頭重感・めまい・食欲不振などの心身の不調が出現し、生活の質が低下していること
これが3か月以上続くと慢性不眠症と診断されます。
あなたはどんな状態ですか?
「眠れない」と悩む人に不眠症の定義をお伝えすると、「そこまでではない」「意外だった」と驚き、ほっとされている方が多い印象です。
誰でも「眠ろうとしても眠れない」という不眠体験を持っています。
心配事があるときなど要因は様々ですが、数日から数週間で元に戻れば心配いりません。
また、「若い頃のように眠れない」という悩みも多くの人が体験します。
睡眠は年齢とともに変化していくため、それはごく自然なことと言えます。
眠れない人の共通点
「今日も眠れなかった」とおっしゃる方でも睡眠検査(脳波測定)を行うと、脳波上ではしっかり睡眠できていることがよくあります。
また睡眠時間は充分でも不眠だと悩む方もいらっしゃいます。
これは一体どういうことなのでしょうか?
不眠に悩むIさんのお話です。
「眠れないことが人生一番のストレス」とおっしゃるIさん。
私はセッションの中で具体的な聞き取りを行っていました。
寝つきが悪いのか、夜中に何度も目が覚めるのかなど、どう眠れないのか、質問を続けていくとIさんはこのように答えたのです。
「寝ようと思ったら瞬時に眠れます。朝までぐっすり毎日8時間は寝ています」
これは「眠れない」と言えるのでしょうか?
よくよく想いを聴いてみると、そこには「いつか薬をのまずに眠れる自分になりたい」という願いがあったのです。
裏を返せば「熟睡できていても薬の力を借りた睡眠ではダメなんだ」と『自分の睡眠を否定』していたのです。
つまり、「眠れない」という本当の意味は「自分の睡眠に満足できていない」というところにありました。
それでは、自分の睡眠に満足し「眠れる人」になるためにはどうしたらよいのでしょうか?
眠れる人になる3つの手順
自分の睡眠を肯定する
眠れていない人のほとんどが、無意識的に「睡眠とはこうあるべきだ」という設定をしています。
それは、「睡眠時間は6時間以上取るべきだ」とか「若い頃のように朝まで眠れるのが正しいことだ」と設定し、「今日も充分ではなかった」という感覚が毎日頭の中を支配しています。
ここから離れるためには、まずは今の「自分の睡眠を肯定すること」が大切です。
朝はやく起きてしまっても昼間うとうとすればいいじゃない、夜眠れなくても音楽を聴いて過ごせばいいじゃない、と自分にどんどんオッケーを出していきましょう。
人は毎日一睡もできないということはありません。必ずどこかで眠れるのだから・・・。
心地よい「情報」を得る
世の中には不安になる情報がたくさんあります。
その情報に振り回されることで、「こうあるべき」「こうしなければいけない」という自己を否定する思考に陥ってしまいます。
自分の睡眠を肯定するためには、自分にとって心地よい情報を積極的に得ていきましょう。
「これでいいんだ」
「やってみたい」
「気持ちよさそう」
と思う情報をたくさん集めてみると、自然と体と心が緩んでいきます。
心地よい「生活習慣」をみつける
不眠が国民病である理由は、現代の不自然な生活にあります。
人のからだは動物としての生体機能で維持されており、現代社会にはまだ適応できていません。
眠りにくくする生活環境下では、眠れない人が増えるのは当たり前のことかもしれません。
つまり、この現代社会では睡眠にも積極的な工夫が必要になっていると言えます。自然と眠れないと嘆き悲しむ前に、眠りに備えた心地よい生活習慣をみつけていくことが大切です。
具体的な方法は、今後シリーズの中でお伝えしていきます。
睡眠には個性があっていい
人は本来1日2回の多相睡眠である
現代人の睡眠は1日1回の単相睡眠が主流です。
しかし、人は本来、生理的機能や本能においても多相睡眠が良いとされています。
多相睡眠とは多相性睡眠、分割睡眠ともいい、1日のうちで複数回の睡眠をとることをさします。
日本でも昔の人は1日に2回眠っていました。
それが現代社会になり、昼間はずっと働き、夜に寝だめをするという習慣に変わっていったのです。
一方で、世界を見渡すと多くの国で昼寝の習慣が残っています。
シエスタという言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
これは必ずしも昼寝を指す言葉ではなく、昼食後の休憩を長くとるというものですが、この昼食後、正午から午後3時くらいの時間帯を目安に30分程度の昼寝をとることで、生産性やストレスの低減効果を高めることができると言われています。
実際、昼寝の効果として疲労回復、精神安定、集中力の向上、ひいては病気リスクの低下があげられています。
最近では日本でも昼寝を導入する企業が増えてきています。
適切な睡眠時間ってあるの?
睡眠時間の研究は様々あり、成人では7時間、高齢者では6時間といった数字をみかけることも多いでしょう。
しかし、必要睡眠時間は大きな個人差があると言われています。
最近では、睡眠時間よりも、朝目覚めたときに感じる「睡眠休養感(からだが休まったと感じること)」が健康維持に重要であることがわかってきました。
数字などの外的評価ではなく、自分の心地よさを追求していきたいものです。
偉人たちの睡眠法
ここでは面白い睡眠法を実践していた偉人たちをご紹介します。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
1日のトータルが90分。
一回で90分眠るのでなく、4時間ごとに15分程度の睡眠をとる多相睡眠だったそうです。
トーマス・エジソン
発明家として有名ですが、ショートスリーパーとしても有名です。
「睡眠は時間の浪費だ」を口癖としていて、1日の平均睡眠時間は4時間ほど。
2~3日睡眠をとらずに研究することもあったそうです。
睡眠時間の長短は遺伝子に基づくといわれており、まれにみる遺伝子をもっていたということになります。
スティーブ・ジョブス
様々な健康法の実践者としても有名です。
睡眠については分割睡眠を行っており、夜中に4時間ほど寝て、あとは一日数回15分ほどの睡眠をとるという方法を実践していました。
偉人たちの睡眠法を読んでどんなことを感じたでしょうか?
あなたの体と心を緩める、心地よい情報となれば幸いです。
今日からできること
まずは自分の睡眠について「それでいいんじゃない」と肯定してみましょう。
眠れない時は、体を横にして目をつむっているだけでもいいのです。
それだけで休息や癒しの効果があると言われています。
自分を責めずに、体は休まっているという信頼感を持つと良いでしょう。
まとめ
「眠れない」という悩みは体だけでなく心も疲弊させてしまいます。
この解決の糸口は、自分の睡眠を『肯定し信頼すること』にあります。
まずは、今日お伝えしたことを意識しながら、日常を過ごしてみましょう。
【眠れる人になる3つの手順】
①自分の睡眠を肯定する
②心地よい「情報」を得る
③心地よい「生活習慣」をみつける
今後は、記事を読み進めることで自然と体と心が緩み「眠れる人」になるようお手伝いできたら幸いです。
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参考
・平成26年版厚生労働白書~健康・予防元年~
・保健指導リソースガイド「健康休養感」が健康維持で重要
この記事を書いた人
安富由紀子
<プロフィール>
看護師・保健師として、何千人という生活習慣病やその予備軍と診断された方の保健指導や健康教育に携わる。その中で心身共に健康であるためには、「自分が大切にしていることを知ること」「なりたい自分に向かうこと」が重要であることに気が付く。
現在では「健幸ビジョンコンサルタント」として既存の医療では解決できなかった“心から健康で幸せになる方法”を社会に啓蒙するため、個人や企業での健康相談、研修、コンサルティングを行っている。
<クレド>
①指導をしない
②徹底した対話と、感情や意思を引き出す関わり
③クライアント自身の思考や情報取得を尊重して主体性を育む関わり
<経歴>
看護師・保健師 専門は生活習慣病予防
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
(一社)日本看護コーチ協会 認定看護コーチ
<講座・執筆>
・治療選択ワークショップ主催・講師(株式会社ぷれしゃす様 )
「もしもあなたが乳がんになったら」
・エンディングノート作成講座・講師(株式会社ウィシュレーン様)
「延命治療、あなたの意志の伝え方~家族に重圧を残さないために」
・ウェルネス講座 講師(一般社団法人日本ナースオーブ様)