認知症という言葉を、聞いたことがないという方はいないのではないでしょうか。
それくらい多くの人に馴染みがある言葉です。
では、改めて認知症はどのような病気なのでしょう。
認知症には様々な種類があります。
そして種類ごとに症状の特徴や原因が異なります。
この記事では認知症の種類と原因について詳しく説明します。
この記事の目次
認知症に対するイメージ
認知症と聞いて皆さんはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。
内閣府は、令和元年12月に「認知症に関する世論調査」を行っています。
その調査によると、「あなたは今までに認知症の人と接したことがありますか。それともありませんか。」という質問に対して、「ある」61.6%、「ない」37.7%という結果でした。
「ある」と回答した1,005人のうち、「家族の中に認知症の人がいる(いた)」と回答した者は47.7%でした。
また、「認知症に対してどのようなイメージを持っていますか」という質問に対して、最も多かった回答は、「認知症になると、身の回りのことができなくなり、介護施設に入ってサポートを利用することが必要になる」でした。
多くの人が「認知症は身近なもので、認知症になると身の回りのことができなくなる」というイメージを持っているようです。
では、認知症とは具体的にどのような状態のことを示し、どのような症状があるのでしょうか。
認知症を正しく理解するために、認知症の種類、種類ごとの原因や症状について解説していきます。
認知症ってどんな病気
まずは認知症という言葉の意味を改めて考えてみましょう。
脳は、記憶や思考・理解・判断など、「知的な機能」の全般である認知機能を司っています。
この機能は、生活の中で物事を判断したり、実施したり、社会的な生活を送るうえで欠かせない重要な機能です。
何らかの原因で脳を構成する神経細胞の性質が変化した影響で、一度獲得した認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態を認知症といいます。
我が国では高齢化の進展とともに、認知症の人も増加しています。
内閣府の発表によると平成24(2012)年は認知症患者数が462万人と、65歳以上の高齢者の7人に1人(有病率15.0%)でした。令和7年(2025)年には約700万人、5人に1人になると見込まれています。
認知症はとても身近なものであり、これから超高齢社会を迎えるために、私たち1人1人が認知症への理解を深めることが求められています。
認知症の種類と原因
認知症はおもに、以下の4つの種類に分けられます。
・アルツハイマー型認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症
・脳血管性認知症
最も多いのがアルツハイマー型認知症で全体の約半数を占めています。
過去に日本で多かったのは脳血管性認知症ですが、現在は生活習慣病対策の結果、減少傾向にあります。
以下に1つずつの特徴的な症状や原因について説明していきます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は最も一般的な認知症の形態で、全体の60%以上を占めます。
脳内にアミロイドβ(ベータ)という特殊なたんぱく質がたまることで、神経細胞の損傷を引き起こします。
記憶に関わる脳の領域である海馬を中心に委縮するため、高度な記憶障害が起こりやすいのが特徴です。
原因
アルツハイマー型認知症の最大の要因は加齢です。
高齢になるほどアルツハイマー型認知症になる可能性は高くなります。
遺伝による発症は全体のごく一部と言われており、明確な原因は分かっていません。
近年は糖尿病との関連が指摘されており、「第三の生活習慣病」と呼ばれることもあります。
血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンは、アルツハイマー型認知症と関係が深いアミロイドβというたんぱく質を分解する作用を持っています。
糖尿病があるとその分解作用が低下するため、アミロイドβの蓄積が進行しアルツハイマー型認知症につながると考えられています。
症状
アルツハイマー型認知症の初期は、物忘れのような軽度の記憶障害や、日時、時間などが分からなくなる時間の見当識障害を認めます。
日常生活に支障が出ることがあっても、病気の自覚(病識)がないことが多いです。
症状が進行していくと、鉛筆などの具体的なものを見てもそれが何なのか分からない(失認)、簡単な日常生活動作ができなくなる(失行)などの症状が出現します。
記憶障害を作り話でごまかす「取り繕い反応」や、財布などを盗まれたといって騒ぐ「物盗られ妄想」なども特徴的な症状です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症に次いで頻度の高い認知症です。
レビー小体という特殊なタンパク質が脳にたまり、神経細胞の損傷を引き起こすことで発症すると言われています。
原因
レビー小体型認知症も高齢者に多く見られますが、詳しい原因はまだ明らかになっていません。遺伝の可能性は低いと考えられています。
症状
手足の震えや身体のこわばり、歩行障害(パーキンソニズム)などの他、睡眠障害や嗅覚障害、実際には存在していないものが見える幻視という症状なども見られます。
また、レビー小体は心臓や血管、腸、膀胱などをコントロールする交換神経にも出現するため、めまいや便秘、排尿障害などの自律神経症状も起こる可能性があります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症はアルツハイマー型認知症以外で脳の前頭葉と側頭葉部分の神経細胞の性質が変化して発症する認知症の総称です。
原因
脳の神経細胞にタウたんぱくやTDP-43と呼ばれるたんぱく質が蓄積して発症することが分かっていますが、詳しいことについてはまだ解明されていません。
症状
身だしなみに気を使わなくなる、万引きをする、嘘をつくなど性格がガラッと変わってしまう人格変化や反社会的な行動が顕著に表れます。
進行すると活気や自発性がなくなる、言葉が出にくくなる、同じ言葉を何度も繰り返すなどの症状が目立つようになります。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となって起こる認知症を脳血管性認知症といいます。
血管が詰まり血流が不足している領域の神経細胞の機能が失われたり、出血によってたまった血液に脳が圧迫されたりすることでさまざまな症状が現れます。
脳血管障害の再発のたびに症状が悪化する可能性があるため、血圧の管理を行い、症状の進行を防ぐことが重要となります。
原因
脳梗塞や脳出血などは動脈硬化が要因であり、動脈硬化を引き起こす最大の危険因子は加齢です。
動脈硬化の進行を加速させるのが高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病です。
症状
脳血管障害により障害される脳の部位によって異なります。そのため、認知機能がまだら状に保存されるため、「まだら認知症」とも呼ばれます。
アルツイマ―型認知症と異なり、新しいことを覚える記銘力は保たれている場合が多いです。
一方で、自発性の低下や異常行動、幻覚などが現れやすいという特徴があります。
まとめ
代表的な認知症の種類と原因をご紹介しました。
認知症は種類によって様々な特徴や原因があります。そして、同じ種類の認知症でも個人によって症状が異なります。
認知症は、症状の進行により生活に支障が出ることがありますが、精神的、身体的、社会的に適切な支援を受けることで、住み慣れた場所で生活をしていくことが可能です。
認知症を理解することは、認知症をもちながら暮らす方や、周りにいる家族を理解することや、適切に支援をすること、支援を依頼することにも繋がります。
この記事が認知症を理解する最初のきっかけになれば幸いです。
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この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。