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加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは?看護師がわかりやすく解説!認知症と物忘れ②

「あれ?今何しようと思っていたかな?」
「さっき持っていた書類、どこに置いたかな?」

皆さんは、日常の中でこんなシーンはありませんか?

年齢を重ねると物忘れをすることは珍しいことではないと思います。

中には、「この物忘れは認知症なのだろうか」と考える方もいるのではないでしょうか。実は、認知症が原因の物忘れと加齢による物忘れは性質が異なります。

この記事では加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いを説明します。

この記事の目次

物忘れとは

皆さんは、「物忘れ」と聞いてどんなことをイメージしますか?

人の名前が思い出せない、地名が出てこない。
年齢を重ねると物忘れが増える。
そんなイメージでしょうか。

家の鍵をどこに置いたか分からなくなって探し回る。
顔は思い出せるのに、名前がどうしても思い出せない。
私は、そんなことが頻繁にあります。

まずは、「物忘れ」という言葉の意味を改めて確認していきましょう。

「物忘れ」という言葉は、記憶力が低下し、情報や経験を忘れることを指します。
つまり、過去に学んだことや経験したこと、あるいは日常生活での出来事や情報などを覚えておく能力が低下することで物忘れは起こります。

物忘れは誰にでも起こる可能性があり、加齢やストレス、睡眠不足、情報の過多などが物忘れの原因と言われています。

記憶の仕組みと種類

物忘れは記憶力の低下によって起こります。

では、私たちはどのようにして物事を記憶しているのでしょうか。記憶の仕組みと記憶の種類を説明します。

記憶の仕組み

記憶は、「記銘(きめい)・保持・想起(そうき)」という3つの脳内の過程から成り立っています。

加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは?看護師がわかりやすく解説!認知症と物忘れ②

ものごとを覚える「記銘(きめい)」

目や耳を通して入ってきた情報は脳の中で神経信号として処理されます。その後、脳内の記憶をつかさどる箇所である海馬に一時的に保管されます。

覚えた情報をとどめる「保持」

記銘された情報が、繰り返し学習し強化される、または感情的に重要だと認識されることで、海馬から大脳皮質に移行し保管されます。
大脳皮質は脳を覆う表層部分全体を指し、思考の中枢です。

記憶の保持の過程で重要になるのが睡眠です。睡眠中に脳は記憶を整理し、不要な情報を削除する作業を行います。

現代人が1日に受け取る情報量はとても多く、平安時代の一生分江戸時代の一年分といわれています。

膨大な情報の中から必要な情報を整理するためには、睡眠が欠かせません。

必要時に情報を引き出す「想起(そうき)」

保持している情報を外部からの刺激をきっかけに思い出すことを想起といいます。

想起にも脳内の様々な分野が関わっていると言われていますが、記銘・保持と比べて、まだあまり仕組みは明らかになっていません。

以上が、記憶に関連する脳の主な仕組みです。

記憶の種類

次に、記憶の種類について説明します。

記憶は保持時間によって、短期記憶と長期記憶に分けられます。
また、内容によって陳述記憶と非陳述記憶に分類されます。

この種類によって、脳の中のどの部分で記憶が保持されるかなどが異なります。

①時間による分類

短期記憶
一時的に海馬で保管される数秒から数分間の短い時間の情報。

長期記憶
海馬から大脳皮質に送られた情報。数日~数十年前の情報。

②内容による分類

陳述記憶
過去の体験などを言語やイメージによって表現できる記憶で、言葉の意味や一般知識など学習して得た記憶。

非陳述記憶
手続き記憶ともよばれ、自転車に乗る、泳ぐといった体で覚える動作や技能の記憶。

私たちは無意識のうちに記憶を時間や内容によって分類しています。そして記銘・保持・想起という複雑な過程を経て物事を覚え、思い出しているのです。

物忘れ症状は、記憶に関する脳の仕組みが障害を受ける、または機能が低下することで生じます。

加齢による物忘れと認知症による物忘れの違い

では、加齢による物忘れと認知症による物忘れはどのように違うのでしょうか。

認知症の多くは物忘れから始まりますが、老化による物忘れとは原因と症状、進行の仕方など多くの点で違いがあります。それぞれ説明していきます。

加齢による物忘れ

原因

加齢による物忘れは、一般的に脳の機能の自然な変化によって起こります。

具体的には脳の神経細胞やシナプス(神経細胞同士をつなぐ結合部)の損傷が起こることで、記銘して保持した情報をうまく想起できないという状況です。
ストレスや睡眠不足も脳の血流や栄養の供給減少の原因となるため、物忘れを引き起こす可能性があります

症状

加齢による物忘れは、体験した出来事の一部を忘れるもので出来事そのものは覚えています。
ヒントがあれば思い出せることが多く、忘れてしまったという自覚もあります。

例えば「約束をした日程を忘れてしまう」という場合では、「約束をしたこと」自体は覚えていて、「約束をした日程を忘れている」という事実に対しては自覚があります。
このように体験の一部を忘れることが加齢による物忘れの症状です。

進行の仕方

加齢による物忘れは一般的にゆるやかに進行します。
歳を重ねるごとに変化が現れ、症状が徐々に悪化することがありますが、急速な悪化はあまり見られません

認知症による物忘れ

原因

認知症は、脳の異常や損傷によって、日常生活や社会生活に支障をきたす状態です。
認知症の種類や原因については、連載1回目の記事「認知症の種類と原因」で詳しく述べています。

認知症では、記銘を司る海馬が障害されることで新しいことを覚えることができず、記憶の保持も想起もできません。

症状

認知症による物忘れは、体験したこと自体を忘れてしまうことが特徴です。
「人と約束したことを忘れてしまう」という場合では、「約束をした」という体験自体を覚えておくことができません。そのため、周囲との話がかみ合わず、混乱を生み出す可能性があります。

また、長期記憶である昔のことは覚えているけれど、短期記憶が障害され、つい最近のことを忘れてしまう。言葉の意味などの陳述記憶は忘れても、昔から行っていたこと(非陳述記憶)は問題なく継続できることも認知症による物忘れの特徴です。

進行の仕方

認知症は進行性があり、時間とともに症状が悪化していきます。

初期のころは軽度の記憶障害から始まります。徐々に日時や場所を把握する能力や文字を理解する能力、日常生活を送るための能力が失われていきます。最終的には、生活を送るために介護が必要な状態に進行することもあります。

以上のように、加齢による物忘れと認知症による物忘れは、原因や症状、進行の仕方が異なります。

加齢に伴う物忘れは一般的な現象であり、日常生活に大きな支障をきたすことはありませんが、認知症は進行の程度によって、本人と家族や周囲の人に大きな負担をもたらすことがあります。

まとめ

加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは?看護師がわかりやすく解説!認知症と物忘れ②

記憶の仕組みと種類、加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いを説明しました
加齢による物忘れと認知症による物忘れは、原因や症状、進行の仕方が異なります。

認知症はある日突然なるものではありません。神経細胞の変性が徐々に進行することで発症します。

物忘れがあっても一般的な認知機能は問題がなく、日常生活に支障のない状態を軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)と呼びます。

軽度認知障害と診断されても全員が認知症を発症するわけではありませんが、年間で10~15%が認知症に移行すると言われています。

一方で、軽度認知障害の状態から認知機能が回復し、検査で正常と判定されるようになる人もいます。
それは、脳の可塑性(回復力)により、神経細胞が再生するためと言われています。

近年では、認知機能改善薬の開発も進められ、軽度認知障害の時点で、早期診断・早期治療を行うことが重要視されています。

物忘れが増えてきて気になったときや、物忘れが増えていることを周りから指摘されたときは、ご自身でどのような物忘れをしているのか、振り返ってみるのはいかがでしょうか。

認知症の初期症状かもしれないと気になるときには、なるべく早めに受診することをおすすめします。この記事が、物忘れについて考えるきっかけになれば幸いです。

次回は、物忘れが気になった時の検査について説明します。


この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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