
ドライマウスをご存じですか。唾液の分泌量が減少して、口の中が渇く病気です。病気や薬の影響をはじめ様々な原因がありますが2010年頃から急増し、2022年時点で約800万人がドライマウスであると言われています。予備軍を含むと約3000万人と推定されるそうです。女性に多く、現代病と言われるようになりました。もはや他人事ではありません。そこで、ドライマウスについて詳しくお伝えします。
この記事の目次
1.唾液のはたらき
ドライマウスは唾液が減少することで発生しますが、唾液にはどんな働きがあるのでしょう。
唾液は口腔内にある唾液腺から分泌されています。成人の1日の分泌量は1.0~1.5Lです。
唾液には多くの働きがありますが、特に食べる・話すことへの影響が大きく、ドライマウスがオーラルフレイルからフレイルへと進行する可能性があります。
①口の中を清潔に保つ
口の中が乾燥すると汚れが付着しやすく、細菌が繁殖して口臭、虫歯・歯槽膿漏の原因になります。また、粘膜が傷つき口内炎ができやすくなります。
唾液で口の中が潤うと、食べかすが洗い流され汚れはつきにくくなります。
抗菌成分も含まれているため、細菌やウイルスの増殖を抑制し感染予防の働きもあります。
②虫歯を防ぐ
唾液は食事によるpHの傾きを修正するとともに、歯のエナメル質の再石灰化を促すことで虫歯を防ぎます。
虫歯予防だけでなく組織修復の働きもあります。口内炎が自然に治るのもそのためです。
子どもの頃「ケガをしたときにツバをつけておけば治る」と聞かれたことがあるかも知れませんね。
③食べることを助ける
噛むことで唾液分泌は盛んになります。
食べ物が唾液と混ざり合うことで、飲み込みがスムーズになります。
その他にも、舌に味覚を届ける、唾液中に含まれる消化酵素アミラーゼがデンプンを分解し消化を助ける働きがあります。
また義歯を使用している人にとっては、義歯を粘膜に吸着させる安定剤の働きがあります。
④話すことを助ける
口腔内が乾燥しパサパサな状態では声がかすれ口や舌は滑らかに動かず、上手く話すことができません。滑舌に唾液は不可欠なのです。
2.ドライマウスの症状
ドライマウスの主な症状は、口の渇きです。
その影響として、口臭、口の粘つきやパサつき、舌の痛みが出現します。食べ物を噛んでも口の中で上手くまとめられないために、飲み込みにくくなります。
高齢者では誤嚥しやすい状態になり、その後誤嚥性肺炎に繋がる危険性があります。
3.ドライマウスの原因
①加齢による影響
加齢による唾液腺の萎縮などで唾液分泌が減少します。加えて、歯周病、義歯が合わない、口周囲の筋肉の衰え、認知症の影響などにより、よく噛んで食べることが難しくなります。
噛む機会が減少すると唾液腺の刺激が少なくなり唾液分泌は減少します。
高齢者の一人暮らしによる、孤独感やうつ傾向なども唾液分泌の減少に影響しています。
②病気によるもの
ドライマウスに影響する病気として、糖尿病や腎不全、自己免疫疾患である難病のシェーグレン症候群などがあります。
③内服薬によるもの
ドライマウスに影響する内服薬には、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗アレルギー薬、利尿剤、高パーキンソン病薬などがあります。
5種類以上の薬剤を服用している人は、そうでない人に比べドライマウスを発症するリスクは著しく高まると言われています。

④生活習慣によるもの
ストレスや疲労の蓄積は自律神経を乱します。ストレスで緊張状態が強いと交感神経が優位になるため唾液分泌が抑制されます。
また、現代人はファストフードをはじめ軟らかい食品を食べる機会が増えました。
そのため噛む時間が短くなり、噛むための筋肉の筋力低下に繋がっています。
唾液分泌は噛むことで筋肉が活動し唾液腺を刺激することで促されます。あまり噛まない食生活は、噛む・飲むための筋肉を衰えさせるだけでなく唾液分泌にも影響するのです。
4.ドライマウスの予防法
ドライマウスを予防するためにどんな方法があるでしょう。
①よく噛む
私自身がそうなのですが、忙しいと数口噛んで飲み込んでいることがあります。
十分に咀嚼しないまま飲み込むと胃に負担をかけるため、よく噛むことが大切です。
どこかで耳にされたことがあるかも知れませんが「1口30回噛む」を心掛けたいものです。また、食べ物を口に入れる際には、嚥下して口の中が空っぽの状態にしてからにしましょう。
このような習慣はなかなか変えられないので、できるだけ若い時期から身につけておきたいものです。
ガムを噛むことも有効です。

②生活習慣の見直し
十分な休息をとり、規則正しい生活習慣を心掛けましょう。
ストレスをためないようにして、自律神経のバランスを整えます。
喫煙や飲酒もドライマウスの原因になりますので、可能なら禁煙し、深酒は控えましょう。日常的にこまめに水分摂取を行うことも大切です。
口呼吸でもドライマウスは起るため、鼻での呼吸を意識しましょう。
マスクをつけるのも有効です。
③唾液腺を促すマッサージ
唾液腺を刺激するマッサージがあります。
先ずは両手を頬に当て、円を描くように動かします。次に左右の耳の付け根から顎にかけ親指で指圧します。最後は顎の奥、軟らかい部分を左右の親指で押し上げます。
イラストを参考にやってみて下さい。
レモンや梅干しなど酸っぱい物をイメージするだけでも唾液分泌は促されます。

④口腔保湿剤の使用
口腔保湿剤は人口唾液とも呼ばれ、口の中の水分量を保ちドライマウスの症状を緩和してくれます。
スプレータイプ、ジェルタイプ、マウスウオッシュがあり目的に応じて使い分けます。
スプレータイプは、素早く保湿剤を口腔内に広げることができます。
携帯用スプレー容器に入れれば、仕事や外出中に乾燥を感じた時サッと使用でき、大変便利です。
ジェルタイプは口腔内に薄くのばしてしようします。
スプレータイプより持続性があります。
マウスウォッシュタイプはうがいをするとき使います。
口の中に満遍なく保湿剤を行き渡らせることができます。
5.まとめ
ドライマウスは、日々の生活習慣を整えることで改善が期待できます。特に食事をする時、「よく噛むこと」をほんの少し意識するだけで、唾液分泌は変わります。いつまでも大切な人との会話や食事を楽しむことができるよう、今から実戦してみて下さい。前述の病気がある方、内服薬を飲まれている方で「ドライマウスかも?」と感じたら、早めに医師に相談して改善策を考えてみて下さい。
引用参考資料
阪井丘芳:唾液と口腔機能の関わり日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(2):675-680 テーマパーク8020
オーラルヘルスオンライン(公益社団法人神奈川県歯科医師会)
この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。