静岡県熱海市と聞くと、観光地で賑わっているというイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。
賑わう熱海の駅周辺から約1キロしか離れていない伊豆山(いずさん)という場所で2021年7月3日(土)大規模な土石流災害が発生しました。
私は伊豆山にて夫婦で介護タクシーの会社を運営しています。
土石流発生直後、伊豆山にある弊社の建物の場所から20m先の家々が土石流に流されていく光景を目の当たりにしました。
消防団、町内会の方、その場に居合わせた方々と協力して、逃げ遅れていた近隣の高齢者の家を回り、避難誘導をし、歩行困難な方を車椅子に乗せて高台まで移動、避難所への移送などを行いました。
熱海伊豆山土石流災害から2年半。この間にも全国各地で地震や台風、大雨などで大きな災害が起きています。そのニュースを見ると、災害後の自分たちが過ごしてきた月日が走馬灯のように思い出されます。
夫婦で熱海に移住し事業を営む私達は、この災害を経験した事から防災や災害時の避難について、地域の人々との関わりやコミュニティの場創りについてなど積極的に向き合ってきました。
第1回目では、近年の熱海で起こった過去の災害を教訓にどんな備えをしてきたか、このことが、私が経験した熱海の土石流災害後にどのように役立っていったのかをお伝えします。
この記事の目次
1.近年の熱海市での災害を教訓に取り組んできたこと
(1)台風による災害での影響、活動を振り返る
私が熱海市に移住し事業を開始したのは2013年です。
海沿いにある熱海市は近年、台風などの影響を大きく受けています。
2018年7月末、台風12号直撃にて、海に面したホテルのレストランのガラスが高波被害にて破損。
また、海沿いの道路が高波被害で1か月通行止め。
これにより、1本の道路が利用できないことで観光客が多くなる夏の熱海の街は毎日、大渋滞でした。
2019年10月中旬、台風19号直撃。
隣町の山沿いの道路では土砂崩れも起き、その影響で私たちの会社のある伊豆山を含む市内の一部の地域で断水9日間。
仕事の合間に、近隣住民とともに給水活動を支援したり、通院などで対応させていただいた利用者様の自宅が断水していないか、飲料水はあるかなどを確認し、担当のケアマネジャーに報告し、情報を共有していきました。
(2)過去の災害経験から見直した備え
この2つの災害後に見直したことがあります。
・優先順位を考え、スケジュールを再調整する。
例えば、台風直撃という日に通院の方には数日前から連絡を取り、病院に相談してもらい、通院日の変更、電話診療で薬の処方をしていただけるのかなど検討していただくようにしています。
・車のガソリンは半分を目安に給油し、満タンにしています。
・会社用電話をスマートフォンに統一し利用者情報をクラウドで保管、社内で共有できるよう設定し、スケジュール管理、精算もできるようにしました。
・会社の固定電話はNTTボイスワープ転送機能を利用し、スマートフォンに転送するように設定。
・静岡県で推奨している「シズケアかけはし」というITツールを使い、行政・医療・看護・介護の事業所間で災害時に情報共有できるようにしました。
・私個人としては、私は普段は1dayのコンタクトレンズを使っていますが、予備のコンタクトレンズと眼鏡はかばんに必ず入れています。また、ポリタンクに水を入れて断水に備えています。
(3)防災への意識は高かった
過去の台風での災害や、2011年3月に発災した東日本大震災からの教訓から、南海トラフ地震に備え、海沿いにある熱海市では、地震が来たら津波を警戒し、山のほうに逃げるという防災訓練は今までも積極的にされていました。
熱海市は、山から海に向かって、すり鉢状の地形となっている事から坂や階段が多い街です。
熱海市との防災訓練とは別に、海から5分で車椅子やベビーカーを押しながら、どこまで上に逃げられるか、という地震後に津波警報が出たという想定で防災訓練をしたこともあります。
消防団の歴史も長く、「自分の地域は自分たちで守る」という意識が高い住民が多いと感じます。
ハザードマップを見て、地震後に津波がくるという想定や大雨で土砂崩れが起こる可能性があるということは意識付いていても、熱海土石流災害のように、山のてっぺんから2キロ以上も下流の漁港にまるで津波のような土石流が流れていくとは想定外だったと思います。
2.熱海土石流災害を振り返る
(1)発災前の弊社と近隣住民の関係
発災1年前の2020年5月に同じ伊豆山ですが、現在の場所に事務所を移転しました。
会社として町内会には入っていましたが、御挨拶は毎日するけど名前はわからない、どこに住んでいるかはわからないという方も多くいました。
普段、仕事で、外に出ていることが多かったため、積極的な近隣住民とのかかわりはこの時点ではありませんでした。
(2)発災数日前から前日の状況
2021年から頻繁に耳にした線状降水帯。
この影響は熱海市にも頻繁にあり、6月頃から、突然のゲリラ的な大雨や何日も降り続ける大雨が多くなりました。
特に発災数日前からは山沿いの道路を運転していると滝のような雨水が山から流れていた場所が数か所あり、大きな水溜まりや道路脇が小川の急流のようになっていました。
海沿いの道路も土砂崩れで通行止め、隣町では大きな川が氾濫し、住宅や店舗が床上浸水するなど被害が出ていました。
また、発災前日には伊豆山から離れている市内の線路下の斜面が崩れ電車が運休、道路も一部が通行止めになるなど、さまざまな影響がありました。
私たちは、過去の災害経験から見直した備えを参考にし、市外に住む社員を早めに帰宅してもらい、翌日のスケジュールを調整し、利用者様に日時変更の提案をし、安全に通院などの送迎ができるように検討しました。
7/3(土)は社員は公休。
通常なら1名対応で可能な方もいましたが、大雨は続く予報だったため、前日の時点で、安全考慮し、なるべく1台で2名行動というスケジュールに調整しました。
3.まとめ
今回、熱海土石流災害での私の経験を書かせていただくにあたり、その前に起きた2つの災害での経験や教訓が、熱海土石流災害の時にとても役立ちました。
災害はいつどこで起きるかわかりません。各地で起きた災害のニュースを見るたびに、
・熱海市で同じような災害があったらどうするか
・外出先で災害にあったらどのように動くか
・災害時に周りの方とどのように連携していくか
など、「自分事」として、日頃から考えることが多いです。
災害について、時折、「自分事」として命を守る行動を考えていただくきっかけになれれば幸いです。
第二回目では、熱海土石流災害 私の経験②前編として、発災当日からその後の活動、自分たちの身体状況や気持ちの変化などをお伝えします。
次の記事
看護師が体験した熱海土石流災害②私の経験-前編-
2021年7月3日(土)静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)という場所で大規模な土石流災害が発生しました。 発生直後、伊豆山にある弊社の建物の場所から20m先の家々が土石流…
この記事を書いた人
河瀨愛美
大学病院やがん専門病院、老人ホーム、派遣ナースなど、さまざまな分野で約18年、看護師の経験を積む。2013年、夫婦で静岡県熱海市に移住し、福祉限定タクシー・訪問介護事業、患者等搬送事業を開業。
普通二種免許を取得しナースドライバーも行う。
2015年、全国訪問ボランティアナースの会 81か所目となる「キャンナス熱海」を発会し、「デキルことをデキル範囲で」をモットーに本業と組み合わせながら、家族介護支援や旅行時のサポートなどで活動中。
<経歴>
看護師経験18年。
大学病院(外科、耳鼻科、泌尿器科、皮膚科等)、がん専門病院(消化器外科、呼吸器外科、婦人科、乳腺科)、地域密着病院(病棟、外来)、医療療養型病院(難病や脳血管疾患、呼吸器装着しておられる方など)、老人ホーム、派遣ナース(巡回入浴、デイサービス、在宅看護、イベント救護など)で18年間の臨床経験を積む。
<資格>
看護師/普通二種免許/医療的ケア教員講習会修了者/防災危機管理者/静岡県女性防災リーダー修了者
<活動>
ブログ「熱海 看護師もいる介護タクシー伊豆おはなのブログ」
<執筆>
看護のベンチャービジネスを創る挑戦者たち,第5回看護×旅行,旅行をサポートし生きる力を引き出すナースドライバー,メジカルフレンド社,看護展望2022-5,P.70~P.74