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看護師がわかりやすく解説!高齢者の救急①救急車を呼ぶ?呼ばない?高齢者が転倒したとき
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胸痛をともなう疾患は、自然に軽快するものや急速に死に至るものまで様々にあります。
一言で「胸痛」と言っても、その原因によって対応も大きく異なります。
特に高齢者は慢性的な疾患により症状が増悪しやすく、訴えも曖昧で判断の見極めが難しい場合があります。
そこで今回は高齢者の「胸痛」を緊急性の高い「深いところの痛み」と緊急性の低い「表面の痛み」に分け、それぞれの対応についてお伝えします。
救急車を呼ぶか、呼ばないかの判断の目安にもなりますので知っておくと安心です。
この記事の目次
胸の深いところの痛みについて
胸の深いところの痛みは、心臓や血管そのものに原因がある場合がほとんどです。
主に、虚血性心疾患として狭心症や心筋梗塞があげられますが、この疾患は心臓の周りをめぐる冠動脈の硬化が進み、狭窄や閉塞が起こることで痛みがあらわれます。
「胸が締め付けられるように痛い」
「胸が重たいような感覚」
といった訴えがある時は、狭心症や心筋梗塞を疑い早急に判断することが必要です。
①心筋梗塞
胸の締め付けや重たい感覚を訴えた場合は主に胸の中央部から胸全体にかけての締め付けや苦しさを指しています。
このような時は、心臓の周りにある冠動脈が詰っているのかもしれないと予測し「狭心症」や「心筋梗塞」を疑います。
この二つの大きな違いは痛みの強さと時間の長さです。
次の図で確認しましょう。
この図のように胸の締め付けや重たい感覚と同時に激しい痛みが襲ってくる場合は心筋梗塞を疑います。
このような激しい痛みが前兆なく突然襲ってくることも多く「えぐられるような激しい痛みと」表現されることもあります。
このような痛みがある時はすぐに救急車を呼びます。
心筋梗塞は胸だけではなく下腹部や胃、背中や左腕に痛みが広がり嘔気や冷汗を伴い次第に意識が薄れていくことがあります。
心筋の細胞は血流が途絶えると20分で壊死が始まりますが、胸痛が起きてから2時間以内に充分な血流が再開できれば後遺症が残らずにすみます。
救急車を待っている間は、衣服を緩めて状態を起こし、呼吸が楽に出来るようにします。
体が冷えないように掛物をかけるようにしましょう。
②狭心症
狭心症は心筋梗塞ほどの痛みはありませんが、胸の締め付けや苦しさが数分~10分程度持続します。
発作が治まるまでは楽な姿勢で安静にします。
狭心症と診断を受けている高齢者は発作に備えて硝酸薬が処方されていることがありますので、保管場所を確認しておくと良いですね。
舌の下に入れてゆっくりと溶かして使用し安静にしていれば発作は治まっていきますが、いつもより症状が長い、症状に違和感がある場合は必ずかかりつけ医を受診するようにしましょう。
②大動脈解離
体の中心を流れる大動脈の内側がはがれてその隙間から血液が流れ込む疾患です。
はがれた直後に胸部の激痛をともない、痛みが背部へと移行していきます。
大動脈は数秒から数十秒で心臓から足側に裂けていくため、痛む場所が変化していきます急性大動脈解離は前兆なく突然胸や背中に激痛が起こり、状態が悪化します。
このように血流が障害されると徐々に意識が消失するため、動かさずにすぐ救急車を呼びます。
③肺血栓塞栓症
肺血栓塞栓症は別名エコノミークラス症候群ともいいます。肺の動脈に血液の塊、血栓が詰まる疾患で、肺の動脈が根元で完全に詰まれば肺に血液が流れず、血液中の酸素濃度が急激に低下します。急な胸の痛み、呼吸困難の後に意識が低下していきます。
このような場合はすぐに救急車を呼びます。
肺塞栓症は長時間座っていることや、足を動かさなくなった状態が続くと、発症することがあります。
高齢になると閉じこもることが多く、下半身を動かす機会も少なくなります。
日頃から座ったままでも下肢を動かすように努め、浮腫が出現して血色が悪くなった時はかかりつけ医に相談するようにしましょう。
④気胸
気胸は肺が何らかの原因で破れて、そこから空気が胸腔に漏れて縮んだ状態です。
息を吸おうとしても肺が広がらないため、胸の痛みや呼吸困難があらわれます。痛みは深呼吸をすると強く痛み、背中に移行する場合があります。
空気がたくさん漏れてしまうと肺がしぼんで心臓が圧迫されるため、血圧も低下し意識がもうろうとなります。
このような強い痛みや呼吸困難の時には救急車を呼びます。
以前は気胸というと痩せて若い男性特有の疾患と考えられていましたが、最近では高齢者の発症も増加しています。
これは、何らかの合併症として発症することを意味しますが、長期間の喫煙による肺気腫、肺の組織が硬くなる肺線維症や間質性肺炎がその原因とされています。
喫煙を続けているとたばこの有害物質による刺激で起動や肺が慢性的な炎症を引き起こしてしまいます。
長年喫煙しているかたは、このような事態になることを予測し、定期的に受診することをお勧めします。
胸の浅いところの痛みについて
一般に短時間で治まる胸の痛みは表面の皮膚や筋肉痛である場合がほとんどです。
しかし、風邪をひき咳が長く続くと、心臓に近い筋肉や神経という深いところの痛みに変わります。
このような場合も含め、じっとしている時よりも体を動かした瞬間、指で押した時、衣服が擦れた時などに痛みを感じる時は胸の浅いところに原因があります。
この時の痛みは緊急性としては低いのですが、症状が悪化しないように受診のタイミングを見極める必要があります。
最近増えている胸痛として次の二つを説明します。
①帯状疱疹
最近増えている高齢者の胸痛として帯状疱疹があります。
帯状疱疹は肋間神経痛といわれることもあり、その名の通り片方の肋間神経にそって帯状に発疹ができます。
発疹は水ぶくれをともない、ピリピリ、チクチクと刺すような痛みが出現します。
痛みは徐々に強くなり、夜も眠れないような激しい痛みになる場合もあります。
帯状疱疹は水ぼうそうと同じウイルスが原因ですが、私たち大人の90%以上の体内に潜んでいます。加齢やストレスで免疫機能が低下すると、潜んでいたウイルスが活性して帯状疱疹となります。
80歳までに3人に1人が発症するといわれていますが、私の勤務する介護施設でも入所して間もない高齢者が発症することが多くありました。
肋骨付近の胸や下腹部にできる発疹は肌着に触れるとさらに痛みが増すためとても痛くてつらいのですが、救急車を呼ぶほどではありません。
症状を見つけたら早めにかかりつけ医を受診することで治療が開始され、症状も軽くてすみます。
また、帯状疱疹を予防するワクチンもあるため受診の際に医師に相談してみると良いでしょう。
②筋肉痛
肋骨を押して痛む時は筋肉痛の可能性があります。
長引く咳、普段動かさない筋肉を刺激した時に痛みとして現れますが、数日で治まることがほとんどなので経過をみていくと良いでしょう。
ただし、痛みが強くなった、内出血の痕がある、呼吸する時に強い痛みがある場合などは骨折している可能性もあります。
このような場合は経過を見ずに受診するようにしましょう。
まとめ
深いところで感じる胸の痛みは心臓に直結しているため、重篤な症状になる場合が多く緊急性をともなう場合がほとんどです。
・急に襲われる激しい痛み
・痛みが治まらない、腹部や首、背中などに移行する
・冷や汗や顔面蒼白、意識低下
このような状態は緊急事態であると判断してすぐに救急車を呼ぶようにしましょう。
また、緊急性のない場合でもかかりつけ医を受診することで、症状を軽くすませることができます。
高齢者が胸の痛みを訴える時には、上手く症状を伝えなれない場合もありますが、症状から予測できると判断に役立つと思います。
すべての高齢者が最適な医療を受けるために知っておくと安心ですね。
次回は高齢者の腹痛についてお伝えします。
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この記事を書いた人
福井三賀子
<プロフィール>
小児内科、外科、整形外科の外来と病棟勤務で看護の基本を学ぶ。
同病院の夜間救急ではアルコール中毒、火傷、外傷性ショックや吐血、脳疾患など多くの救急医療を経験。
結婚後は介護保険サービス事業所で勤務しながらケアマネジャーの資格を取得。6年間在宅支援をするなかで、利用者の緊急事態に家族の立ち場で関わる。
在宅支援をしている時に、介護者である娘や妻の介護によるストレスが社会的な問題に発展していることに気づき、心の仕組みついて学びを深めると同時に更年期の女性について探求を始める。
現在は施設看護師として入居者の健康維持に努めながら50代女性対象の執筆活動やお話会、講座を開講している。
<経歴>
看護師経験20年。
外来、病棟(小児・内科・外科・整形・救急外来)
介護保険(デイサービス・訪問入浴・訪問看護・老人保健施設・特別養護老人ホーム)
介護支援専門員6年
<資格>
看護師/NLPマスタープロテクショナー/プロコミニュケーター
<活動>
講座「更年期は黄金期」
ブログ「幸せな更年期への道のり」
メルマガ「50代女性が自律するためのブログ」
スタンドFMラジオ「幸せな更年期への道のり」