“がん”という言葉を知らない人はいないと思いますが、”がん救急”という言葉を知っている方は少ないのではないでしょうか?別名”オンコロジー・エマージェンシー”といいます。がんを患っている方は多くなっており、ご家族の中でもがん闘病されている方、またご自身が現在闘病されている方もおられるでしょう。がん救急がどういったものなのかをお伝えしていきます。
この記事の目次
1.数字から見る日本のがん
はじめに日本のがんの概要をお伝えします。
日本の全人口は2022年時点で約1億2400万人、がん治療で通院されている人は約1350万人おられます。そしてがんと新たにわかった方は毎年およそ100万人おられます。亡くなった方は約38万人、死亡された方の24%を占めます。日本の死因の第1位であり、1981年の40年間以上もずっと1位のままです。
がんになる方は2人に1人、がんで亡くなる方は3人に1人と言われています。
2.入院日数は短くなっています
①平均在院日数について
もう少し概要説明を続けさせてください。少し退屈かもしれませんが、がん救急というものがなぜ大切かを知るには、国が在宅での療養を進めている現状を知ることも大切になってきます。
平均在院日数というものがあります。どのくらい入院しているかの平均日数のことです。
- 2002年(約20年前) 一般病棟は22.2日
- 2022年 約17日
と短縮してきています。(療養期間が長くなる精神病棟や結核病棟などは省いています)
一般病棟は内科・外科などの病棟で病気や怪我をされた方が回復を目的として入院する病棟です。
おそらく一般的に病院と聞くとイメージするところでしょう。
なぜ平均在院日数の短縮がみられるのでしょうか?これは国の政策によるものです。
高齢化にともない入院日数も長くなりがちですが、短くすることで医療費の軽減を目的としています。
治療は総合病院で行い、回復すれば住み慣れた地域に戻り、かかりつけ医や訪問看護などの介護保険サービスを利用して自宅で療養するという地域医療連携システムが行われています。
②がんの平均在院日数
ではがん治療の平均在院日数はどうでしょうか?
2002年、およそ20年前は約35日でした。しかし少しずつ短縮され今では20日以内となっています。
がん以外の方とあまり変わりませんね。
がんの代表的な3大治療
これらの治療が終了すれば、一旦自宅療養となり、そこから通院や今後の治療によっては再入院となることがあります。自宅での療養期間の方が長くなります。そこでこの「がん救急」のことを知っておく必要があります。
3.がん救急(オンコロジー・エマージェンシー)って?
①がん救急とは
がん救急とは、「がんおよびがんの治療により生命に危機的状況を及ぼす症状」のことです。
症状が出た時には救命の為すみやかに、かかりつけの医師へ連絡するか、救急車を呼ぶ必要があります。
がんで自宅療養されている方は多かれ少なかれ、症状のある方が多いです。その症状には多様性があり様々です。
これは1例ですが例えば、がんによる痛み、抗がん剤治療による食欲不振・吐き気・手足のしびれ、放射線治療による肌荒れ・貧血・口内炎など。この症状もがんや転移の場所、治療内容により様々です。
②緊急の症状に対応することが難しくなっている日本の背景
療養生活を続けていく中でどんな症状の時に病院に行くべきか・緊急に対処しなければいけない時の判断が難しいと思います。
訪問看護や電話相談で相談業務を行っていた時など、“今すぐかかりつけの医師に連絡をするか救急車を呼ぶか”の判断が難しい方がかなりおられました。
それは日本の高齢化により、高齢者だけの世帯・お1人で生活されている方に特に多い印象でした。
また子どもと同居していても、仕事が多忙であまり家にいない方は症状を見過ごしがちなこともあります。
③私自身の経験
私自身、母ががんとなり病院で治療がもう出来ないとなった最期の数ヶ月間を自宅で過ごしました。
その期間、様々な症状がありました。痛みが増したり、排尿が出なくなったり、意識が混濁したりという状態でした。私が看護師なので、この時はこの薬で様子をみよう・もしくは訪問の医者に定期的にきてもらっていたので緊急で連絡しよう、などと対処をしていました。
しかし、家族に医療従事者がいなければその判断も難しいものになるでしょう。
その時にがん救急の症状を知っておけば、事前に把握でき、対処できます。
4.なぜがん救急の状態になるのでしょう
気をつける症状
そしてゆっくりと症状が強くなるのではなく、“突然”起こります。
- なぜ3つの症状が突然起こるのか?
- どういった時におこるのか?
- 何が考えられるのか?
については次回からの記事で詳細をお話ししていこうと思います。
本記事ではなぜがんの方がこのような特殊な状況になるのか、についてお話ししたいと思います。
がん救急の原因は3つありますのでこれから説明致します。
①進行したがん自体が引き起こす
がんの腫瘍自体による作用となります。
例えば胃や腸など消化菅の出血があげられます。腫瘍から出血したり、がんの進行により胃や腸から出血が起こります。この時突然、激痛が起きたり、出血量が多いと意識障害が見られたりします。
②がん治療自体によって引き起こされる症状
がんの治療には代表的な3大治療があるとお伝えしました。①手術②抗がん剤③放射線治療です。
このどれもが体にとって負担となる部分があります。
このことを「侵襲」といいます。治療はがんの完治、もしくは進行を抑えるために必要ですが、どうしても体に与える負担は0ではありません。
例えば抗がん剤の副作用で嘔吐や下痢が生じれば、電解質つまり血液成分のミネラルやカリウムなどのバランスが崩れ意識障害のリスクがあります。
③免疫力の低下による症状
また病棟で手術後や抗がん剤治療を受けられた患者様を担当していて感じることは免疫力の低下が著しく、そのため他の症状を引き起こしたり、元々持っている病気の悪化で、生命の危機的状況に陥る方が多くおられます。抗がん剤治療で血液の一種である「好中球」という成分が少なくなります。好中球は外からの菌から体を守ってくれる役割があります。この好中球が下がると高熱が出たり、重篤な肺炎など感染症にかかりやすくなります。
がん罹患数は60歳以上から増加します。上記①〜③に加え高齢であることが、更に症状悪化のリスクにつながります。
それは、高齢者はもともと様々な病気を持っておられる方が多いからです。
糖尿病や肺の病気(COPD、間質性肺炎、結核)心臓(狭心症、弁膜症)などで更に症状が重症化する方も少なくありません。
5.がん治療をどこまで受けられるのか
これは人生をどう生きるのか最後どうありたいのか、いつかこのことを考える必要がでてくるでしょう。がんは他の病気とは異なる部分があります。それは人生の最後をどう過ごしたいのか、そしてその準備をする期間がある程度残されています。私も母ががんで病院での治療が限界を迎えた時、母と話し合いをしました。そして自宅で最期まで過ごすということを選びました。
強く出てくるであろう症状に関しては薬で緩和して、できるだけ楽に過ごせるよう訪問専門の医師に来てもらっていました。家やお金のこと・お葬式のことも一緒に考え決めました。症状が強く出た時どこまで救急対応するのか、それとも緩和といって症状を和らげ、できるだけ最後は穏やかに過ごすのか、本人・家族・医療従事者とともに考え、線引きする必要があると考えます。
人生の最期の時にどういったことを決めておくのか、その準備などは最後の5記事目でお伝えします。
しかしまだその時期ではない時は、適切に対処する必要があるでしょう。
6.まとめ
日本の高齢化社会が背景にあり在宅療養期間は長くなっています。
しかし、がん救急と呼ばれる、「緊急の症状について」「なぜ対応しなければならないのか?」が知識としてあれば対応ができるかと思います。
次回の記事はがん救急の3大症状の1つ「突然の痛み」についてお伝えします。
参照:
公益財団法人 がん研究振興財団. がんの統計2023. 2023
総務省統計局. 日本の人口. 2023年
厚生労働省. 国民生活基礎調査 2022年(令和4年) ※最新
厚生労働省. 医療施設(動態)調査・病院報告の概況. 令和4年(2022)
一般社団法人日本がん看護学会. 「オンコロジックエマージェンシー―病棟・外来での早期発見と帰宅後の電話サポート (がん看護実践ガイド)」 監修:森文子 編集:大矢綾、佐藤哲文. 2016年
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」