私たちは眠ることなく生きていくことはできません。心身ともに健康で暮らすために不可欠な睡眠ですが、なぜ睡眠が必要なのかについてはあまり知られていないのではないでしょうか。
睡眠時間をはじめ睡眠の取り方には個人差がありますが、日本人は他の国に比べ特に睡眠時間が少ないと言われています。
最近では睡眠負債という言葉も用いられるようになりました。
みなさんは睡眠負債という言葉を耳にされたことがありますか。
この記事の目次
1.睡眠負債とは
睡眠負債とは、毎日の睡眠不足が借金のように積み重なって大きく膨れ上がり、心身の健康に影響を及ぼしている状態のことを言います。
日本では2017年の流行語大賞ベストテンに入り、広く知られるようになりました。
本来睡眠は予め余分にため込むことができません。
忙しい平日のために、休日寝だめをしているから大丈夫、と思っている方があるかも知れませんが、実のところ睡眠の貯蓄ではなく負債返済をしているだけなのです。
また、睡眠負債が増えると瞬間的な居眠りをすることがあります。
これは、数秒から10秒程度の非常に短い睡眠で、マイクロスリープと言います。
自覚がないために運転中や危険な作業中であれば大事故に繋がる可能性があります。
2.日本人の睡眠の実情
日本人の睡眠時間はどの程度なのでしょう。
OECD(経済協力開発機構)がまとめたデータの中に、睡眠に関するものがあります。
2021年の結果によると、日本人の一日平均睡眠時間は442分(7時間22分)でした。
これは調査された33カ国中で最も少ない時間となっていました。
最も長かった国は南アフリカの553分(9時間13分)で、その差はなんと1時間46分もあります。
この調査では、男女別のデータもあります。
日本人男性は448分(7時間28分)、女性は435分(7時間15分)でした。
日本人女性は世界で一番睡眠時間が少ないのです。
ちなみに多くの国で睡眠時間は、女性より男性の方が短い傾向にありました。
睡眠不足では、日中の仕事効率が低下します。
日本人の睡眠不足に伴う経済損失は、年間およそ15兆円であるという試算があります。
国民1人あたりのGDP(国内総生産)と睡眠の関係をみると、
睡眠が十分とれている国ほど生産性が高く、睡眠不足の国は低い
傾向になっています。
3.睡眠の効果
心身を休息させることにより私たちの健康を保っている睡眠には、具体的にどんな効果があるのでしょう。
1. 疲労の回復
心身の疲れを取り除きながら、傷ついた細胞の修復をしています。
これは成長ホルモンの働きによるものです。
成長ホルモンは小児期には心身の成長を促しますが、成人期以降では細胞の修復や老化の進行を抑制します。
成長ホルモンは、眠りはじめて約30分後の最も深い睡眠の間に多く分泌されやすく、時間帯では午後10時から午前2時ごろと言われています。
夜勤明けや夜更かしの後に、お肌の調子が悪くなった経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
5時間未満の睡眠の人は、8時間睡眠の人に比べ感染症にかかりやすく、風邪をこじらせるリスクが1.4倍高くなると言う報告もあるようです。
他にも、生活習慣病や循環器疾患、うつ病や認知症など、ありとあらゆる疾患のリスク要因になります。
加えて、睡眠不足が続くとコミュニケーション能力や理解力が低下します。
些細なことでイライラする機会が増えると、ストレスが増加します。
ストレスが増えるとコルチゾールというホルモンの分泌量が増えますが、ストレスが続くと次第に出にくくなります。その結果、免疫力が落ちて疲れやすくなります。
疲れているのに眠れないなどの症状が出現することもあります。
2. 作業効率の向上
睡眠不足が脳に与える影響は大きく、徹夜したときの脳の状態はビールの中瓶を3本飲んだときと同等と言われています。
徹夜をしなくても睡眠不足が続けば、徹夜したときと同じ状態になります。
そのため集中力がなくなり、仕事や学習効率が低下します。
睡眠中に脳では記憶の整理・定着を行うため、良質な睡眠では記憶力が高まります。
記憶にはいくつかの種類がありますが、自転車の乗り方など身体が覚える技能の記憶にも睡眠は影響しています。
運動や楽器の演奏などでも、十分な練習の後によく眠ることで技術が定着し、上達に繋がることがあるようです。
さらに十分な睡眠は、洞察力や創造性の向上にも繋がります。
4.睡眠時間について
では、一体どれぐらい眠ればよいのでしょう。
必要な睡眠時間の量は、年齢と共に変化します。
生まれたての赤ちゃんは一日の多くを眠って過ごし、幼児もたっぷり昼寝をします。
これは、身体の成長・発達のために多くの睡眠を必要としているからです。
思春期を過ぎる頃から睡眠時間は短くなります。
夜間の睡眠時間を、脳波の測定により正確に調査した研究で、25歳で約7時間、45歳で約6時間半でした。
65歳では約6時間になり、成人後20年毎に30分程度の割合で減少しています。
その他にも、睡眠時間は季節によって変わります。
一般に秋から冬にかけて長くなり、春から夏にかけて短くなる傾向にあります。
これには日照時間の影響が関わっていますが、私たちの体内時計は光によって調節されているためです。
1. 睡眠のタイプ
個人が1日の中で、どの時間帯に最も活動的になるかを示した特性のことをクロノタイプと言います。
朝方、夜型などと言われているもので、これは遺伝子によって決まっています。
朝方 | 午前5~6時に目覚め、午後10時過ぎに眠くなる |
中間型 | 午前6~8時に目覚め、午後11時過ぎに眠くなる |
夜型 | 午前8時以降に目覚め、夜中の午前1時頃に眠くなる |
クロノタイプ診断はこちらでできます 【診断】
タイプの違いは体内時計の周期にあります。
人の体内時間は24時間と一致しないために、朝起きたら太陽の光を浴びて体内時計をリセットすることが重要です。
クロノタイプは、睡眠時間と同様に年齢によっても変化し、
40歳台になると朝型にシフトするのが一般的です。
2. 自分に適した睡眠時間を見つけよう
今の自分に最適な睡眠時間を見つけるには、就寝時間を毎日30分早める方法があります。
これは休日に寝だめをしないことが前提です。
2~3日試して身体の調子が良ければ、さらに寝る時間を15分早めてみます。
最もスッキリ起きられた時間が、本来必要とする睡眠時間です。
連続して4日以上の休みが取れるときには、目覚まし時計をかけずに自然に起きることを試してみる方法もあります。
徐々に睡眠時間が短くなり、4日目頃には二度寝ができなくなります。
その日眠った時間が、最適な睡眠時間となります。
いずれの方法にしても、実施した睡眠時間や体調の記録など気付いたことをメモしておくと良いでしょう。
5. まとめ
健康のために大切な睡眠ですが、忙しい毎日の中でついつい疎かになりがちです。
自分自身の睡眠に満足できているのか、この記事をきっかけに今一度振り返り、どんな眠りを求めているのかについても考えてみてはいかがでしょうか。
引用・参考資料
◆厚生労働省健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)
◆科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
◆柳沢正史、快眠法の前に今さら聞けない睡眠の超基本、朝日新聞出版、2024
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この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。