睡眠時無呼吸症候群という病名は誰もが一度は耳にしたことがあると思います。
しかし、どのような病気かと言われると、良く分からないという方も多いのではないでしょうか。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時の無呼吸が原因で、夜間のいびきや日中の眠気を引き起こす病気です。
いびきや眠気は誰にでもある症状でたいしたことがないと見過ごされがちですが、睡眠時無呼吸症候群はより大きな病気を引き起こす可能性もあるのです。
睡眠時無呼吸症候群を理解することは、症状の治療につながるだけでなく、健康の維持・病気の予防にもつながります。
今回から5回にわたって、睡眠時無呼吸症候群について記事を書いていきます。
1回目は、睡眠時無呼吸症候群の原因と症状について解説します。
この記事の目次
1. 睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何らかの理由で、呼吸が何度も止まる、または浅くなる疾患です。
呼吸が止まって(無呼吸)しばらくすると、苦しくなって目が覚める(中途覚醒)というサイクルを一晩のうちに何度も繰り返します。
無呼吸 | 呼吸が10秒以上停止する状態 |
低呼吸 | 無呼吸ではないけれど、息を吸う深さが浅い呼吸の状態 |
無呼吸と低呼吸が1時間に5回以上あると、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群は息ができない「呼吸障害」と、良質な睡眠がとれない「睡眠障害」という2つの症状をあわせ持っています。
呼吸と睡眠という、人間が生きる上で欠かせない機能が脅かされる深刻な病気です。
我が国には、睡眠時無呼吸症候群の患者は900万人程度いると推計されていますが、診断を受けて適切な治療を受けている人は1割未満なのが現状です。
2. 睡眠時無呼吸症候群のタイプ
睡眠時無呼吸症候群は大きく分けて2つのタイプに分類されます。
(1) 閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea: OSA)
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、無呼吸症候群の中で最も一般的なタイプです。
首や喉の周りの脂肪、扁桃肥大、小さな顎、舌のつけ根の肥大などが原因で、気道が狭くなり睡眠中に呼吸ができなくなります。
その結果、脳が酸素不足を感知して中途覚醒し呼吸を再開します。
この繰り返しが、一晩の間に何度も発生します。
過度な飲酒、喫煙などの生活習慣が影響を与えることも多いと言われています。
(2) 中枢型睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea: CSA)
中枢型睡眠時無呼吸症候群(CSA)は、脳の呼吸をつかさどる中枢が異常を起こし、呼吸を指示するシグナルを送れないことで呼吸が止まります。
気道はふさがっていないので、いびきの症状はありません。
このタイプは閉塞型無呼吸症候群ほど一般的ではありません。心臓病や脳卒中などの基礎疾患が原因で発症することもあり、原因となる病気の治療が必要となります。
3. 睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群の原因は様々で、遺伝的要因や生活習慣も影響することが知られています。
以下に主な原因を紹介します。
(1) 肥満
睡眠時無呼吸症候群の主な原因の一つが肥満です。
肥満になると、首や喉の周りに脂肪がたまり、睡眠中に気道を圧迫しやすくなります。
そのため、気道が狭くなり、呼吸が止まるリスクが高まります。
特に、首周りの脂肪は気道の通り道を直接狭めるため、睡眠時無呼吸症候群を引き起こしやすくなります。
(2) 加齢
年齢を重ねると筋肉が弱くなり、喉や気道周りの筋肉が緩みやすくなります。
これにより、気道が閉塞される可能性が高まります。
特に50歳以上の人は、筋力の低下や脂肪が身体につきやすくなることで睡眠時無呼吸症候群の発症リスクが高いとされています。
(3) 生活習慣
過度のアルコール摂取や喫煙も睡眠時無呼吸症候群のリスクを高める要因となります。アルコールは筋肉の弛緩を助長します。喉の筋肉が緩んで気道を狭くするため、無呼吸が起こりやすくなります。
また、喫煙は気道を刺激し、炎症を引き起こすことで呼吸を妨げる原因となります。
(4) 解剖学的要因
鼻中隔湾曲症や小さい顎、扁桃腺の肥大など、顔や首の解剖学的な構造が原因で睡眠時無呼吸症候群が引き起こされることもあります。
鼻中隔は鼻を左右に隔てる壁の部分です。その部分が強度に曲がることで、空気の通り道が狭くなります。
また、顎が小さい方は大きい方と比べて、喉の周囲の空気の通り道が狭くなります。
このように、解剖学的要因も、睡眠時無呼吸症候群の要因となります。
4. 睡眠時無呼吸症候群の症状
睡眠時無呼吸症候群は、日常生活において様々な症状を引き起こします。
代表的な症状を説明します。
(1) いびき
睡眠中に気道が狭くなることで大きないびきをかきます。
寝ている時にいびきをかくこと自体は異常なことではありません。
しかし、そばにいる人が眠れないほどの異常に大きないびき、突然息が止まって途切れるいびき、いびきの音に強弱がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
(2) 日中の強い眠気
睡眠時無呼吸症候群は、夜間に何度も呼吸が止まることで睡眠の質を著しく低下させます。そのため、十分に寝ているつもりでも深い睡眠が取れず、日中に強い眠気を感じることがあります。
仕事中や運転中に突然居眠りをするほどの強い眠気は注意が必要です。
(3) 集中力や記憶力の低下
質の悪い睡眠は脳の働きにも影響を与えます。睡眠時無呼吸症候群の人は、睡眠不足から、集中力や記憶力の低下、さらには気分の落ち込みや不安感を感じることもあります。
睡眠時無呼吸症候群とうつ病は似ている症状が多いため、うつ病と誤診されることもあります。
(4) 起床時の頭痛
睡眠中の酸素不足が原因で、起床時に頭痛を感じることがあります。
睡眠中に無呼吸が頻繁に発生すると、酸素が十分に体に供給されず、血中の二酸化炭素濃度が上昇し、これが頭痛の原因となるためです。
(5) 頻尿
睡眠時無呼吸症候群の人は、夜間に何度もトイレに行く傾向があります。
無呼吸によって体が何度も覚醒し、交感神経が刺激されその影響で尿の生成が増加するためです。
(6) 喉の渇きや乾燥
睡眠時無呼吸症候群の人は、口呼吸をすることが多いため、起きたときに喉の渇きや口の乾燥を感じることがあります。これにより、喉の違和感や痛みが生じることもあります。
5. まとめ
睡眠時無呼吸症候群の原因と症状を解説しました。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
- いびき
- 日中の強い眠気
- 集中力や記憶力の低下
- 起床時の頭痛
- 頻尿
- 喉の渇きや乾燥
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の呼吸が停止することで、睡眠や生活の質を大きく損なうだけでなく、病気の発症リスクを高める要因にもなります。
しかし、眠っている間に息が止まっているという自覚がないことも多くあります。
自覚がなくても無呼吸や低呼吸状態になると脳や身体に酸素が送られず、毎日眠っている間も呼吸困難な状態になっています。
多くの人が睡眠時無呼吸症候群の潜在患者である可能性があります。
この記事の内容が、自分自身の体調や身近な人の症状に気が付くきっかけになれば幸いです。
次回は、睡眠時無呼吸症候群のリスクと合併症について説明します。
<参考文献>
■末松義弘(2023)『いびき、無呼吸症候群に殺されない27の方法』中央精版印刷株式会社
■白濱龍太郎(2019)『こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群』株式会社日東書院本社
■宮崎泰成、秀松雅之(2018)『いびき!?眠気!?睡眠時無呼吸症を疑ったら 周辺疾患も含めた、検査、診断から治療法までの診療の実践』株式会社羊土社
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。