頭痛に関する本記事は今回で最終回となりました。過去の記事では、頭痛はよくある身近な症状が故に未治療の場合が多いことや、頭痛には種類がありそれぞれにあった治療法があること、痛みのせいで寝込んでしまい、学校や会社を休まざるを得ない重症なものまでさまざまあることをお伝えさせて頂きました。
今回の記事では、頭痛に悩む人々がより快適で充実した生活を送るための環境や支援体制を整えるために知ってほしいことをまとめました。
この記事の目次
1、頭痛のある方に優しい未来とは?
「頭痛のある方に優しい未来」とは、頭痛に悩む人々がより快適で充実した生活を送るための環境や支援体制を整えることを指します。しかし、その支援体制を阻む2つの要因があります。
①患者さん側の原因
・「ただの頭痛」と、片頭痛や緊張型頭痛などの病気があることや、それに対する治療法があることを知らない。
・「頭痛くらいで」と、医療機関の受診を大げさと感じている、頭痛専門外来での受診があることを知らない。
②医療側の原因
・頭部検査で、くも膜下出血や脳出血などの、脳の怖い病気がないとわかったら安心してしまう
・片頭痛や緊張型頭痛に対する標準治療法(頭痛専門医)があることを知らないため、鎮痛剤の処方を継続し経過観察をしてしまう。
頭痛の診療ガイドライン2021によると、上記のような背景により片頭痛患者の70%が医療機関を受診したことがない、頭痛の認知度はいまだに低く、「頭痛は医学的に治療すべき疾患」と考えている人が少ないようです。
2、手軽に購入出来る、痛み止めの注意点
頭痛が月に2回以下や日常生活に支障はない軽症の方は、まず市販の消炎鎮痛剤(ロキソニン、イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)を購入し、内服するケースがほとんどです。テレビCMでも広告としてよく目にしますし、頭痛を自覚した方は、手軽にドラッグストアで入手出来る痛み止めを使用しているケースが多いと言われています。他には、風邪の時に処方された解熱鎮痛剤を内服するといったケースです。
しかし、市販薬を飲み続けている方には知っておいてほしいことがあります。3ヶ月以上に渡り継続する頭痛、1ヶ月に10日以上も鎮痛剤を飲んでいるなどの場合、薬物使用過多による頭痛(MOH:Medical Overuse Headacke)になっている可能性があります。
痛みに対する不安から薬を早めに飲んだり、頭痛がないのに定期的に薬を飲んだりすることで薬の効果が弱くなり、さらに頭痛がひどくなり薬を飲む、という悪循環に陥ってしまいます。
MOHは、一旦市販薬の内服を中止することでその4割以上は改善されます。そのため、まずは「飲み過ぎていることを自覚する」ことが大切です。
上記のような状態になっているかもしれない、と自覚された方は、早めに頭痛専門医に相談してください。
3、頭痛が影響する精神疾患
片頭痛や緊張型頭痛に影響しやすい精神疾患として、抑うつ(よくうつ)状態や薬物依存、不安神経症などがあります。いずれも「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが不足した結果です。
あまり知られていませんが、片頭痛をお持ちの方が1年の間にうつ病を患う割合は約9%、一生の間だと18〜40%程度と報告されています。それは、片頭痛の方がうつ病を患う確率でいうと、片頭痛がない人と比べて2〜4倍、パニック障害は約4倍で、特に前兆のある片頭痛(目の前がチカチカする、手足が痺れるなど)に伴いやすいと言われています。慢性的に痛みを持つことによって、予定を立てて出かけることに不安を覚えたり、「なぜ自分だけが頭痛に苦しめられるのだろう」「頭痛で仕事を休んでしまって、人に迷惑をかけている」と自己否定や罪悪感を覚えたり、社会や人と距離を置きがちになっていくようです。
頭痛に精神疾患が合併することによりさらに慢性化し、最悪の場合自殺のリスクが高まってしまいます。
4、相談すること、つながりをつくること
1)悩まずに、相談する
頭痛のある方の多くは家事育児、仕事に忙しい20代〜40代の女性が6割以上であり、受診の時間が取れない、何科に受診していいかわからないという現状があります。今はオンライン診療も増えていますので、活用すると良いでしょう。
どこを受診していいのかわからない方は、以下から日本全国の頭痛専門医を調べることができます。
頭痛に悩む方のためのWebサイト
日本頭痛学会ホームページ「市民・患者さんへ」
医療機関側の問題として、頭痛患者数に対して診察できる頭痛専門医が圧倒的に不足していることが挙げられます。頭痛外来の設置や、頭痛専門医の育成はこれからの社会課題です。
2)繋がりを持つこと
まず、「頭痛とは何か」ということを、インターネットなどを活用してご自身で理解を深めることも有効な手段です。また、患者間でのコミュニケーションを図る場として、例えばSNSによるオンラインコミュニティは、自宅から気軽に参加できます。「頭痛に悩まされているのは、一人ではない」と気持ちが持て気持ちを打ち明けられる、相談できる手段のひとつです。
頭痛医療を促進する患者と医療従事者の会(JPAC)
5、まとめ
頭痛トリセツとして、全5回をお届けさせて頂きました。頭痛によって日常生活に支障が出ている方々が前向きな未来を築くためには、ご本人だけでなく医療機関や社会全体での取り組みが必要です。ご家族や友人、会社によるサポート、医療機関の対応力向上、社会全体での理解や支援が少しでも向上していくことが大切ではないかと感じます。
頭痛がある方もない方も、頭痛で苦しむ患者さんが安心して生活できる社会を目指して共に歩んでいきましょう!
【参考資料】
1)「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会(編)、頭痛の診療ガイドライン2021.医学書院:2021
2)非専門医が知っておきたい片頭痛診療の最前線(寄稿 柴田護) 医学書院
この記事を書いた人
看護師:工藤 巳知子
北海道出身、看護師歴21年。
新卒で一般病棟勤務中、急変対応の経験不足を痛感したため手術室・救急外来へ部署移動。
上京後は大学病院の高度救命救急センター、民間病院の集中治療室(ICU /CCU)で12年。
その後、命を救う現場から病院と在宅を結ぶ訪問看護ステーションへ転向。営業やマネジメント、国際医療搬送を経験。
21年間、脳神経外科領域に関わり、現在は開業メンバーとして脳神経外科のクリニックに勤務中。
脳と意識、こころの探求を学びながら、フリーランスナースとして活動中。