4回にわたり、保険外訪問看護の実際の利用例をご紹介します。第2回目は、家族の介護が昼も夜も続き、疲労困憊・・そんな場面での保険外訪問看護の活用例です。介護に昼夜の区別はありません。夜間のトイレ介助、吸引対応、認知症の徘徊など、朝を迎えるころにはもう限界。日中の仕事や家事、通院同行など重なれば、心も体も休まる暇がありません。専門職が付き添い対応してくれる、それだけで介護する人の心と体が休まる、そんなケースをご紹介します。
この記事の目次
1.介護は24時間365日続く
ご病気や重症度によって違いはありますが、介護は24時間365日昼も夜も関係なく続きます。今まさに介護をしている方、あるいはかつて介護経験をされた方であれば、その大変さを思い浮かべることができるのではないでしょうか。
一方で、介護経験のない方には、少し想像しづらいかもしれません。「訪問看護や介護が来てくれるでしょう?デイサービスみたいな施設もあるのに、何がそんなに大変なの?」こんな風に感じるかもしれません。
そこでまずどんな方が、夜間も介護を必要とするのかを、いくつか例を挙げながら紹介したいと思います。
1.難病で夜間も医療処置が必要
難病とは根本的な治療がまだ確立されていない病気のことを指します。その中には、数年かけて徐々に体が動かなくなっていく病気があります。夜間にも対応が必要になる難病として、パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症・重症筋無力症などがあります。症状が進行すると、夜間に吸引(痰が自分で出せず医療機器で取り除く処置)が必要になるケースも少なくありません。
2.認知症で夜間の徘徊が何度もある
認知症が進行すると、昼夜問わず徘徊が始まる方がいます。昼はデイサービスで過ごせても、夜間の見守りまでは対応できません。結果的に家族が対応することになり、精神的・身体的な負担は非常に大きくなります。
3.施設入所までの待機時間の付き添い
上記例を読まれ、人によっては「施設に入ればよいのでは?」と思われる方もいるかもしれません。もちろん施設入所も選択肢の1つです。例えば、要介護3以上で入所できる特別養護老人ホームでは、地域性がありますが、数ヶ月〜年単位の待機時間が生じる場合もあります※1。その待機時間をどう乗り切るかは、在宅介護における大きな課題の1つです。
このように、昼夜問わず介護が続く大変さが、少しでもイメージできたのではないでしょうか。では、現状の介護保険サービスでどこまでサポートが可能なのでしょうか。
2.介護サービスは日中だけ?
現状の介護保険サービスでも夜間対応可能なサービスがあります。主に利用されている、訪問看護のオンコール対応、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の3つをご紹介します。
1.訪問看護のオンコール対応
急な体調変化があったとき、定期訪問している訪問看護事業所の看護師が夜間・土日祝も対応します。専用の連絡先に電話をすると当番の看護師が対応します。ただし通常は1人の看護師が対応しており、他の利用者宅の訪問と重なると時間がかかる場合もあります。
2.夜間対応型訪問介護
夜間の18時〜8時の間に定期的もしくは臨時で訪問し、排泄介助や口腔ケアなどの介護サービスが受けられます。吸引などの医療的ケアは所定の研修を終了した介護職員が一部対応可能です。臨時のコールにも対応できます。
3.定期巡回・随時対応型訪問介護看護
24時間365日、介護と看護が一体となり定期・臨時両方対応可能なサービスです。毎月一定の利用料金でサービスが受けられますが、「好きな時に好きなだけ受けられるサービス」ではなく、必要に応じて適切な回数・内容で調整されます。しかしサービスを提供している事業所は訪問看護や介護事業所に比べて少なく※2、現状は訪問看護・介護サービス利用者が多い状況です。
このように夜間の介護サービスや急な体調変化時に対応できる公的サポート体制があります。まずは公的サービスの利用を第一選択として考えられるといいでしょう。では次に保険外訪問看護の夜間対応とどう違うのかをお伝えします。
3.公的サービスと保険外看護サービスの(夜間)対応の違い
一番の違いは『時間の制約がない』という点です。介護保険サービスは要介護度によって使用できる保険点数に上限があるため、訪問時間に制限があり、必要な処置を例えば30分や1時間以内で行います。
しかし保険外看護サービスは時間の制約がありません。難病で夜間何度も吸引が必要な方には、夜通し付き添い対応が可能です。認知症の夜中の徘徊への対応も可能です。その間ご家族も休むことができます。
次に、私が実際に夜間付き添いを行った事例をご紹介します。
4.【実例】夜間、寝たきりの方に付き添ったケース(医療処置あり)
私が担当した方は以下のような利用者でした。
【ご本人】
- 90歳代男性
- パーキンソン病により寝たきり、会話不可
- 夜間に吸引が数回必要
- 胃瘻(口から食事がとれないため、お腹から管を直接胃に入れ栄養食を入れる)より注入食で栄養食や薬を摂取
【生活環境】
- 日中:デイサービス
- 夜間:遠方(車で片道1時間)の娘が毎晩、通い介護中
【移動】
【排泄】
【自宅で必要な介護】
- ベッド上での体の向きの調整(自己体交マット使用中)
- 食事・内服注入(夕のみ、朝はデイサービス)
- 吸引(夜間2〜3回)
- 体温調節:自己調節困難のため、適宜掛け物やエアコンで調整必要
【依頼内容】
【利用サービス・医療機器】
- デイサービス毎日利用(9時〜17時)
- 吸引機、在宅酸素導入中(吸引時に一時的に酸素不足になるため)
- 介護用ベッド・自己体交マット導入中
※登場する人物・状況は実際の事例をもとに構成していますが、特定を避けるために一部内容を変更しています。
5.看護師が行った具体的な支援内容
上記のご利用者様に対して、私が保険外訪問看護の夜間付き添いサービスとして実施した支援内容です。
【訪問前日】ご自宅内の確認(事前情報あり)
実際に訪問し、娘様より情報を直接確認する。
- 利用者の病態、介護状況
- 吸引機・在宅酸素などの取り扱い方法(メーカーにより多少操作方法が異なるため)
- 各物品の配置場所(吸引チューブ・注入セット・オムツ・ゴミの廃棄場所など)
- 翌日のデイサービスへの持参物品の確認(薬・服・靴などの確認)
- 緊急時の連絡先(娘様・かかりつけ医院)の確認
事前に情報をいただいているが、実際の介護状況や機器の動作など確認をさせていただき、安全性を担保した。
【訪問時間】
デイサービス送迎に合わせた18時〜翌朝8時
【自宅訪問直後】デイサービスから帰宅の受け入れ
・お迎えの準備
・デイ送迎スタッフと連携しベッドへ移乗介助
・デイでの様子の申し送りを受ける
・帰宅後の体調確認(体温、血圧、痰の状態など)
【胃瘻からの注入】
・指定された物品を用いて、注入食、その後の内服注入
【ナイトケア】就寝前のケア
・口腔ケア、洗面(ホットタオル)
・排泄の確認
・皮膚状態確認
【就寝の見守り】
・体温調節が難しいため、適宜掛け物やエアコンで室温調整
・痰や便失禁の有無を適宜確認、必要時吸引実施
【モーニングケア】起床後のケア
・体温、血圧測定などで体調確認
・口腔ケア、洗面(ホットタオル)、吸引
・オムツの状態確認
・デイサービス送迎の物品最終確認
【デイサービスへ】送迎補助
・デイ職員と送迎車へ移乗介助
【デイサービス送迎後】
・部屋内の片付け(物品の片付け)
・吸引機、在宅酸素など医療機器の電源など確認
・ベッド周囲の整理(デイから帰宅後、安全にベッドに戻れるように)
・申し送りノートに夜間の状態を報告
・退室
このように、夜間の付き添いサービスは、利用者が安全に過ごせるよう支援します。事前の情報確認では、起こりうるリスクを想定しながら利用者の体調や生活状況を把握します。こうした支援は、専門的な視点と経験を活かした関わりが必要となります。
6.まとめ
保険外訪問看護の夜間付き添いサービスは、利用者が安全に夜間ご自宅で過ごすための支援であると同時に、介護を担う家族が精神的・身体的に安らげる時間を確保するためのサービスでもあります。24時間365日介護は続きます。だからこそ、無理のない介護を続けるため、保険内・保険外のサービスを上手に組み合わせて、活用していただきたいと思います。利用者のサービスだけではなく、家族をも含めた『生活全体への支援』と言えるでしょう。
参照データ
※1 “特別養護老人ホームの入所申込者の実態把握に関する調査結果” | 一般財団法人日本総合研究所 2020.3
※2 令和4年介護サービス施設・事業所調査の概況/厚生労働省
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」