うつ病はストレスや環境の変化で発症すると言われてきました。
ところが近年、腸内環境がうつ病や精神疾患に関連していることが明らかになってきました。
こころの病と言われているうつ病と腸がどのような関係があるのでしょうか。
今回の記事では、うつ病と腸の関係と腸内環境を良好に保つための方法について書いていきたいと思います。
この記事の目次
1.健康の鍵を握る「腸のメカニズム」
生命が誕生するとき、受精卵から最初につくられる臓器は腸です。
そのあと栄養を蓄える肝臓や酸素をためる肺が形成され、さまざまな情報を貯める脳が出来上がるとされています。
腸は生きていくうえで大切な臓器のひとつと言えます。
腸は単なる消化吸収する機能だけでなくたくさんの役割があります。
①免疫系~人体最大の免疫器官~
消化管は体の中にありますが、口から肛門まで一つの筒状の臓器のため内側は外界に接しているとされます。
外界からの細菌やウィルスなど病原体と接する場所でもあるため、免疫機能が備わっています。
特に腸は体内の70%の免疫細胞が存在し腸管免疫系という独自の免疫システムが発達しさまざまな病原体から体を守っています。
②内分泌系~ホルモンの分泌~
体がスムーズに動くための神経伝達物質を分泌しています。
腸には、腸内分泌細胞が存在し内分泌器官としての役割を持っています。
神経伝達物質のひとつでもある、セロトニンの生成に深く関わっています。
③神経系~独自した神経ネットワーク~
腸には脳に次いで1億以上の神経細胞があり脳と連携を図りながらも独立して自ら判断を下しています。
腸に病原菌が侵入といった、なんらかの異常があった場合に脳からの指令を待つことなく消化吸収排泄の判断を行い体の健康を維持しています。
④脳腸相関~脳と腸の情報交換~
全身の機能を支配している脳と、体の神経やホルモンの分泌をサポートしている腸はお互いに情報交換を行っています。
これを脳腸相関といいます。
脳と腸の情報交換は腸に備わっている免疫系や内分泌系、神経系を介して行われています。
2.うつ病の人に多い腸内環境
うつ病と腸内環境は、密接な関係があることが最近の研究で示唆されています。
腸内細菌学会では、うつ病患者の腸内細菌にはビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌が少ないといった報告が上がってきています。
特にビフィズス菌の数が少ないと、ストレスホルモンと言われるコルチゾールの分泌が多くなります。
その結果、少しのストレスでも心と体に負担がかかるとされています。
https://bifidus-fund.jp/FAQ/FAQ_25.shtml
うつ病の人で多い症状として、消化管症状を訴える人が多く見られます。
特に下部消化管(小腸・大腸)のトラブルを抱えがちです。
よく見られる症状として下痢や便秘があります。
下痢や便秘や腹痛を繰り返す病気を過敏性腸症候群といいますが、精神疾患のない人の発症率は約1割でしたがうつ病の人は約3割が発症していたという報告もあります。
うつ病の人の腸内環境は、ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌が少ない代わりに悪玉菌と言われる大腸菌やブドウ球菌、ウェルッシュ菌の割合が多くなり腸に炎症を起こすとされています。
腸内環境のバランスが崩れると以下のような影響が現れ、うつ病の発症する原因となるとされています。
①脳腸相関への影響
腸内環境が乱れることで、脳との情報交換がうまくいかず神経伝達物質の分泌が減少する可能性がある。
②セロトニン生成への影響
セロトニンの作用は、気分や感情の調節に重要な役割を果たしています。
セロトニンは腸内で生成されているため腸内環境が乱れることで、セロトニンの分泌が制限され、気分や感情の起伏が激しくなる可能性があります。
③うつ以外の病気の発症の原因にもなる
脳内伝達物質でもあるセロトニンが減少することで、精神疾患だけでなく神経疾患にも影響を及ぼすことが近年の研究で明らかになっています。統合失調症やパーキンソン氏病にも腸内環境が深く関わっているとされています。
3.知っておくと効果的な腸活の知識
腸活という言葉をご存じでしょうか。
私たちの腸内には個人差はあるものの平均して約1000種類の細菌が生息しています。
近年の研究から腸内環境を整えることで、さまざまな病気の改善が見込めるとの報告が上がってきています。
腸活とひとことで言ってもどんなことをすればいいのでしょうか。
ここでは腸活のポイントについてお伝えしていきます。
①たくさんの腸内細菌を保有する
腸内細菌は
・消化吸収を助けて免疫機能をサポートする善玉菌
・増えすぎるとアンモニアや硫化水素なといった有害物質を作り出す悪玉菌
・どちらでもなく優勢な方に見方をする日和見菌
に大きく分類されます。
https://kenko.sl-creations.co.jp/column/column9.htmlより引用
ストレス社会である現代は、うつ病以外の人でも腸内細菌を保有する種類が減ってきているという報告もあります。
個人的には、意識的に腸内環境を整える取り組みが必要と感じています。
②菌を取り入れる~善玉菌を含むものを取り入れる~
前述のように腸内には大きく分けて3つの菌が存在します。
特に、日和見菌は腸内環境に大きく影響するため善玉菌にも悪玉菌になりえる重要な存在です。
善玉菌が優位になるようビフィズス菌や乳酸菌を取り入れることが腸活のポイントになります。
ビフィズス菌や乳酸菌を含む食品はたくさんありますが、日本人の体質に合うものは昔から私たちが身近に食べている漬物や味噌などの発酵食品です。
他にも、納豆や甘酒などの発酵食品は日本人の身体に馴染みが深く腸内環境を整えてくれるため積極的に取り入れることをおすすめします。
③菌を育てる~善玉菌のエサとなる食べ物を摂る~
善玉菌を増やし健康的な腸内環境を維持するためには善玉菌を摂るだけでなく、腸内にいる善玉菌を活性化させる必要があります。
水溶性食物繊維をたっぷり摂る
水溶性食物繊維は腸内で発酵し短鎖脂肪酸となり、善玉菌のエネルギー源になります。
善玉菌のエネルギー源が豊富にあることで善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌が活性化していき腸内環境と整えていきます。
水溶性食物繊維が多く含まれる代表的な食べ物は次のようなものが挙げられます。
果物:リンゴ・バナナ・オレンジ
野菜:ゴボウ、アスパラガス、キャベツ
豆類:大豆製品(豆腐・納豆・豆乳など)、レンズ豆、黒豆
穀物:オーツ麦、大麦、玄米、冷やご飯
④菌の邪魔をしない~悪玉菌を増やすような食べ物や習慣を避ける~
健康的な腸内環境を維持するためには、善玉菌を積極的に摂るだけでなく菌の活動を邪魔しないことがとても重要です。
砂糖や人工甘味料を控える
過剰な甘味料の摂取は腸内の悪玉菌が増殖を促し、腸内環境を乱す可能性があります。
また、一部の人工甘味料が腸内環境に悪影響を与える可能性を唱えている研究データも存在します。
もともと甘いものが好きで砂糖や甘味料が手放せない場合はオリゴ糖や、はちみつへ切り替えてみることをおすすめします。
小麦粉・乳製品を控える
特定のアレルギーを持つ人にとって小麦粉や乳製品を過剰に摂取することで炎症を引き起こし善玉菌の活動に影響を及ぼす可能性があります。
アルコールを控える
過剰なアルコールの摂取は腸の粘膜を傷つけ、腸内環境のバランスを崩す可能性があります。
飲み会などでアルコールを多量に飲んだ翌日に便が緩い、下痢になるなどの傾向がある人は要注意です。
カフェインを含む飲み物を控える
コーヒーや紅茶はホッとしたいときに飲みたくなるものです。
適量ではリラックス効果やリフレッシュ効果が期待できますが、過剰に摂取すると腸の蠕動運動を刺激しやすく腸内環境を崩すきっかけとなる可能性があります。
特に、善玉菌となる発酵食品や善玉菌のエネルギー源となる食物繊維を摂った後は避けましょう。
4.まとめ
うつ病と腸内環境の関係について近年注目を集めていますが、まだまだ明らかになっていないこともたくさんあります。
腸内環境は
・栄養の吸収
・免疫系の調節
・脳腸相関
・セロトニンなどの伝達物質の生成
など私たちの日々の生活に加え、心身の健康に影響する役割を担っています。
病気になって薬にたよるだけでなく、自分自身で身体と向き合って取り組んでいくことが病気の改善や予防につながるのではないでしょうか。
引用・参考文献
①公益財団法人 腸内細菌学会
②朝日新聞Reライフネット
③ヤクルト中央研究所 脳腸相関②脳と対話する腸
④SL Creations 腸内環境がメンタルも左右する
この記事を書いた人
大竹 加代子
大阪在住。身内の死をきっかけに、よりよい生き方を社会に広めたいと思い看護師となる。
整形外科・外科・脳外科・内科・循環器の急性期病棟を経て、回復期リハビリテーション病棟・地域包括ケア病棟へ勤務・現在に至る。
現役看護師として医療に携わる一方、こころの健康が身体の健康に及ぼす影響を実感し、こころと身体の健康を取り扱う看護師Wellnessナースとしてメンタルケア・認知科学の学びをすすめながら、適応障害の人のための電話相談やセミナー開催に向け取り組んでいる。
《経歴》
看護師歴25年
プロコミュニケーター
NLPマスタープラクティショナー
一般社団法人 日本ナースオーブ所属 Wellnessナース
保険外訪問看護 看取り対話師
《執筆》
株式会社 ELAN 様
看護師が解説!高齢者の骨折予防
看護師監修 介護側の食事指導
note 女性の適応障害に適応するブログ
《講座》
Wellnessチャートで賢くやせる/ウェルネス講座