人気司法書士の村山澄江先生が実際に対応したトラブルケースをモデルに、解決法のヒントをお届けします。
※実際に登場する人物・所属・家族関係などはすべて架空のものです。
「もし知的障害のある娘より先に自分が亡くなったら、娘は自分の貯金を管理できないため、不安です」
自分が高齢になり、知的障害のある娘を残して逝くのが不安…
これは、60代の知的障害のある娘を持つ、80代の母親Bさんからの相談でした。
80代ということもあり、自分がもし娘より先に死んでしまったらと不安になったことがきっかけでした。
「普段、娘の世話をしているのですが、私はもう高齢になってきたので、娘より先に亡くなった後のことが不安なんです。娘名義の通帳に貯金もしてきたのですが、娘本人は自分で管理することはできないと思いますので、今のうちに何か手を打っておきたいんです」と依頼者。
娘さんは障害者の作業場で、簡単な組み立て作業をしたり、製品をつくったりする仕事をして働いていますが、給料は少しばかり。
また生活でできることといえば、食事は自分で食べることはできるものの、自分で作ることはできないレベル。医師の言葉を借りると、本人と話すときは「小学生」だと思ってわかりやすく伝えてくださいとのこと。
そんな娘名義の預金額は、障害年金等を合わせれば3,000万円以上。
これも、母親であるBさんが毎日つつましい生活をして、必死に切り詰めて積み上げた成果でした。
「保佐人」をつけて娘の財産管理を
母親のBさんからの依頼を受け、娘さんに保佐人をつけることにしました。
保佐人の候補者は、後見人と同じく、専門職である司法書士や弁護士、社会福祉士などのほか、親族がなることもあります。
このうち、今回は司法書士を候補者として申立てをし、家庭裁判所に保佐人として選定されました。
そして母親と連携を取りながら、保佐人として娘さんの貯金をはじめとした財産管理を行いました。
後見や補助ではなく、保佐となった理由は、医師による診断書で「保佐」に〇がついていたためです。
後見、保佐、補助等の判断基準は医師の診断書によるものです。
おそらく、すべてを手助けしないと生活できないレベルではなかったため、保佐になったのかと思われます。
保佐人がつくと、被保佐人(保佐人のサポートを受ける本人)は預貯金の払い戻しを受けたり、お金を貸したり、借金をしたり、何かの契約をしたりするなどの際には、必ず保佐人の同意を取らなければなりません。
保佐人をつけることで、母親が必死に貯めた大きな貯金を無事に管理することができました。
最終的に、娘さんは母親より先に亡くなりました。
一般的に、障害のある方は寿命が長くないことが多いそうです。
また、後日談となりますが、娘さん亡き後、お世話をする相手がいなくなってしまったこともあったのか、母親の認知機能が落ちてしまい、母親についても後見制度を利用することとなりました。
人から頼られる、人を守り・お世話をするということが、その人にとって大きな支えとなっているのだと実感した事例でした。
もし、毎日そばで気にかけている家族で、自分の財産を守ることがむずかしい方がいるなら、司法書士に相談してみるのもいいかもしれませんね。
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解説してくれたのは司法書士 村山澄江先生
村山澄江(むらやますみえ) 先生 プロフィール
民事信託・成年後見の専門家、司法書士
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
簡裁訴訟代理関係業務認定会員
1979年名古屋生まれ。早稲田大学卒業。
2003年司法書士試験合格。
成年後見の相談者数300件以上。
民事信託と成年後見の専門家として全国でセミナー等行っている。