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乳がん②-おっぱい以外の症状もある、転移性乳がん

 「がんの転移」という言葉を聞かれた方は多いと思います。がんという病気が広く知られているためでしょう。そして転移と聞くと、落胆される方も多くみられます。乳がんは転移しやすいがんです。しかし生存率が比較的高いがんでもあります。今回は転移性乳がんについてお伝えします。

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この記事の目次

1.転移とは?

1)転移について

 がんの転移とは、がんが最初にできた部分(臓器)からリンパ液や血液の流れに乗って他の臓器に運ばれ、新しいがんができることを転移と言います。例えば乳がんのがん細胞が肺にできることがあります。肺に新しくがんができたのではなく、乳がんの肺転移となります。

2)転移と再発の違い

 よく似た言葉で「再発」があります。再発は、がんと診断された後、手術や抗がん剤などの治療を行い、一旦は小さくなったがんが再び大きくなったり、別の場所にがんができることを言います。

 「転移」はリンパや血液の流れに乗って別の場所へ移動し、がんが増えることです。最初のがんと診断された時、つまり1回目の治療をする前にすでにがんが他の場所に「転移」していることもあります。

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2. 乳がんに転移が多いわけ


1)がんの広がり

 乳がんは母乳が通る管(乳管といいます)の細胞ががん細胞に変化して乳がんとなります。この乳管の中から外に出ないがんは再発リスクも少なく転移もほぼありません。

 しかし、乳がん発見の8割は乳管の外に広がることで発見されます。乳がんが転移しやすいがんといわれている理由です※1

2)乳がんの広がりやすさとリンパ節との関連

 なぜ乳管の外にがんが広がりやすいのでしょう。それは、おっぱいの近くにリンパ節があるからです。リンパ節とはリンパ液が流れる管(リンパ管といいます)を繋ぐ豆のような形のものです。大きさは2~3mmで全身に300~600個あります。リンパ節はリンパ液に入り込んだ細菌やウィルス・がん細胞などの異物をせき止めて取り除く役割があります。しかし、がんが広がると、がん細胞はリンパ液が流れる管に入りリンパ節に転移します。さらに広がると、乳房から遠い場所(肺・骨・肝臓など)に転移する可能性があります。

リンパ節には名前がついています。乳がんが転移するリンパ節は腋窩リンパ節・内胸リンパ節・鎖骨上リンパ節です。一番多いのが腋窩リンパ節で脇の下にあるリンパ節です。

このようにおっぱいの近くにリンパ節があることから、乳がんは転移しやすいがんとなります。

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3)リンパ節以外の転移

転移には他に転移・転移・があります。

・転移:血液の流れに乗って癌細胞が他の場所に転移します。

・転移:種を蒔くようにがん細胞が散らばっていくのでと名前がつけられました。内臓と腹膜、胸膜の隙間に広がります。肺や肝臓への転移から広がるケースが多いといわれています。

・:がんが最初にできた場所から周りの組織に広がり他の場所に移ることです。

3. 乳がんの転移について

1)乳がんの転移場所

 乳がんが転移しやすい場所は、リンパ節・骨・肺・肝臓・脳です。転移した場所により症状は異なります。初期の段階でおっぱいに症状がでず、転移による症状が先にでることもあります。咳や痛みなどなんらかの症状があり、症状が治まらない・もしくは悪化する場合は受診し検査を受ける必要があるでしょう。

2)転移場所別の症状・治療

転移が見られた場合、がんの広がりを抑える治療となります。一般的には抗がん剤治療となりますが、進行や転移の範囲、自覚症状によって治療法は異なります。抗癌剤治療とあわせて転移している場所特有の治療が選択される場合もあります。以下は転移した場所による症状と治療法になります。

※以下の治療法は、がんの広がりや場所、症状など個々により違ってきます。

①リンパ節

症状:

転移した場所、例えば脇の下や首周りのリンパ節に転移すると、しこりが触れることがあります。脇の下のリンパ節に転移すると、リンパ液の流れが滞ったり神経が圧迫されることで、腕のむくみやしびれを自覚することもあります。

治療法:

外科的手術:転移したリンパ節を切除する方法です

放射線治療:リンパ節への転移の数や全身の状態を考慮して選択されます

②骨

症状:

乳がんの転移で最も多い部分となります。約70%の確率と言われています。脊椎・骨盤・肋骨・大腿骨(太もも)などが主な場所です。骨への転移は骨が脆くなるため、骨折や痛みなどの症状が出ます。

脊椎に転移すると「脊髄圧迫症候群」による症状として、筋力が落ちたり、尿や便の調整が難しくなる・背中が痛くなるなどがあります。

治療法:

放射線治療:部分的な痛みを抑えるため、転移によって骨が脆くなり骨折しやすくなっているのでこの治療法が選択されることもあります。

③肝臓

症状:

肝臓も転移が起こりやすい場所になります。約50%の確率と言われています。肝臓は血液の流れがとても多い場所なので、がん細胞が定着しやすい臓器です。症状は現れにくいですが、進行すると黄疸(皮膚や眼球が黄色くなる)、腹水(横隔膜の下には胃や膀胱などが収まっている空洞がありその空洞に水が溜まります)食欲が落ちるなどの症状がでます。

治療法:

アブレーション:

皮膚に針を刺し、超音波をあて腫瘍を死滅させる方法です。肝臓の機能が保たれていることや、がんの大きさが3cm以内かつ3個以下など条件がありますが、体へかかる負担が手術より少ないというメリットがあります。

手術:

症状や全身状態で肝臓にがんが移った一部分を切除することがあります。

④肺

症状:

肺は乳がんから転移しやすい臓器になります。咳・息切れ・胸の痛みなどの症状がでます。症状が出ないこともあり、定期的な検査(レントゲンなど)で発見されることが多いです。

治療法:

手術・放射線治療:転移の部位が一部分の場合に選択される治療法です。

⑤脳

症状:

脳への転移は乳がん転移の5~15%に見られます。頭痛・吐き気・手足が動かしにくくなることがあります。

治療法:

放射線治療:がん細胞の広がりを抑える目的で選択される治療法です。

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4.予防について

1)他のがんとの生存率の比較

 これまでの記事を読まれた方はおそらくあまりいいイメージを持てないかと思います。しかし、他のがんと比較すると転移性乳がんの予後は比較的長いと言えます。乳がんのステージ4(肝臓や骨など他の臓器に転移している状態)で5年生存率は約40%です※2胃がん・子宮頸がん・直腸がんなどはいずれも10%台です※3

2)治療後の定期受診の必要性

最初の治療(手術や抗癌剤治療など)後は定期受診があります。半年〜1年毎に診察をうけ、転移や再発を確認してもらうことはとても大切です。

3)予防につながる生活習慣3つ

 ①食生活

 ②嗜好品

 ③運動

生活習慣を整えることも予防につながります。 整えられる生活習慣3つをお伝えします。

1.食生活

「乳がんの早期発見はセルフチェックが有効!」の” 2.乳がんのリスク因子について”でも少し書きましたが、肥満は再発のリスクになります。適正体重を保つように心がけましょう。ただし抗癌剤の種類によっては体がむくみ体重が増えることもあります。体重が増えたことが治療によるものか食事など日常生活によるものか、見極めが必要です。

2.嗜好品

飲酒や喫煙はがん発生のリスクを高くすると研究結果が出ています。

飲酒について、愛知県がんセンターがん予防研究分野が8つの研究機関と共同で14年間の追跡調査を15万164人対象に行われました。まったく飲酒しない人と比較して最も頻度の高い飲酒者のグループで1.37倍、乳がんの罹患リスクが高くなりました※4

喫煙に関しては、岐阜大学が16万6,611人に対して疫学調査を行い、非喫煙者に対して喫煙者の乳がん発症率は高いという研究結果が出ています※5

3.運動

 運動は肥満の解消・免疫機能を強くする役割があります。継続的に治療されている方は治療による副作用がある方もおられるでしょう。できる範囲の運動(散歩やストレッチなど)は効果的と言われていますので、できる範囲で心がけてみるといいでしょう※6

5.まとめ

 今回は転移性乳がんについての内容でした。おっぱい以外の症状・治療・生存率、そして予防についてお伝えしました。次回は初期診断から手術までの流れについてお伝えします。

 

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参照

1 がん情報サービス 乳がん 治療

2 がん情報サービス 乳がん実測生存率

3 『全がん協生存率調査』全国がんセンター協議会

4 日本におけるアルコール摂取と乳がんリスク:8つの集団ベースのコホート研究の統合分析 2021年 愛知県がん研究センター

5 日本における能動喫煙および受動喫煙と乳がん:9つの人口ベースコホート研究の統合分析 岐阜大学 和田 恵子氏

6 がん情報サービス がんの発生要因

参考

乳がんのことがよくわかる本 監修:聖路加国際病院乳腺外科部長ブレストセンター長、山内英子 2018年,講談社


この記事を書いた人

看護師山川さちえ

山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」

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