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睡眠時無呼吸症候群のリスクと合併症:放置するとどうなる?

前回の記事では、睡眠時無呼吸症候群の原因と症状を解説しました。睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療を行わずに放置すると、さまざまな健康リスクや深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
今回は、睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症、睡眠時無呼吸症候群を放置した場合にどのような影響があるかを詳しく解説します。

この記事の目次

1.睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症

睡眠時無呼吸症候群は、夜間睡眠中の呼吸の停止や低下を繰り返すことで体に大きな負担がかかります。これにより、心臓血管系やホルモン分泌や、精神面にも深刻な影響を及ぼすことがあります。以下に、睡眠時無呼吸症候群が引き起こす主な合併症を紹介します。

(1)高血圧


睡眠時無呼吸症候群は、高血圧を引き起こす大きな原因の一つとされています。夜間睡眠中に何度も呼吸が止まり、酸素不足が繰り返されると、心臓は心拍数を増やし、血液をより多く送りだそうとします。心拍数が速く、血液を送り出す力が強くなると血圧が上昇します。
この影響は夜間だけでなく、日中の血圧にも及び、高血圧が慢性的に続くようになります。睡眠時無呼吸症候群の患者さんの中に、高血圧を認める人が多く、高血圧の指摘されている人の中に無呼吸症候群を認める人が多いと言われています。

(2)心臓疾患


睡眠時無呼吸症候群により、高血圧が慢性的に続くと心臓への負担が増加し心不全や不整脈など心臓疾患のリスクを高めます。
また、無呼吸時に血圧や心拍数が急激に変動することで、心臓発作や狭心症、不整脈のリスクも増大させます。夜間の突然死の原因としても、睡眠時無呼吸症候群が関与していることが指摘されています。

(3)脳卒中


脳卒中は、脳の血管が突然出血または閉塞する病気です。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などを指します。
睡眠時無呼吸症候群によって繰り返される酸素不足は血管内の炎症を引き起こし、血管が狭くなる動脈硬化を進行させます。動脈硬化が進行すると、脳の血流が遮断されやすくなり、脳卒中を引き起こす可能性が高まります。
また、脳出血のほとんどは高血圧が原因とされています。無呼吸による血圧の上昇が脳への負担を大きくして、脳出血の危険も増します。

(4)糖尿病


睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は深い関連性があります。1日のうち、インスリンや新陳代謝を活性化させるホルモンが最も分泌されるのは睡眠中です。無呼吸により睡眠が断続的に中断されるとインスリンの分泌やインスリン感受性(インスリンの利き具合)が低下し、血糖値がコントロールしづらくなります。これにより、糖尿病のリスクが上昇します。
実際、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは糖尿病を発症する可能性が健康な人の2~3倍高いとされています。また、既に糖尿病を持つ人にとっても、無呼吸症候群は病状を悪化させる要因となります。

(5)認知機能の低下とアルツハイマー病


睡眠時無呼吸症候群がある人は、早い時期から記憶障害や思考の衰退が始まるリスクが高いと言われています。認知症の種類の1つであるアルツハイマー病は、脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質が溜まることが発症の原因の1つとされています。アミロイドβは健康な人でも産生されますが、睡眠時に脳からアミロイドβを排出することで貯留を防ぐシステムがあります。睡眠時無呼吸症候群により睡眠がさまたげられると、脳が十分に休息できず、排出機能が衰えることで認知症の発症のリスクが高まる可能性があります。

2.睡眠時無呼吸症候群を放置することの影響

睡眠時無呼吸症候群を放置すると、上記のような合併症のリスクが増大するだけでなく、生活の質(QOL)が大きく低下します。放置した場合に起こり得る具体的な影響について見ていきましょう。

(1)日中の生活への影響


睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質が低下することで日中の眠気や疲労感を引き起こします。
特に、運転中に眠気を感じることは、重大な交通事故を引き起こすリスクが高く、非常に危険です。睡眠時無呼吸症候群は、交通事故の発生率を著しく高める要因としても注目されています。
重大な事故に至らずとも、集中力の欠如やミスが増え、仕事や学業のパフォーマンスが低下する可能性があります。

(2)社会的な影響


睡眠不足によるイライラや気分の変動は、人間関係にも悪影響を及ぼします。家庭内のトラブルや職場でのストレスが増加し、社会生活に支障をきたすことがあるでしょう。
特にパートナーがいる場合、夜間の大きないびきや呼吸の止まる音は相手にもストレスを与え、関係性が悪化する原因にもなります。

(3)身体的な健康への長期的なダメージ


無呼吸症候群を放置することで心臓疾患や脳卒中、糖尿病といった深刻な合併症が発生しやすくなり、最悪の場合は生命を脅かすことがあります。一度発症すると、治療や管理が難しく、健康状態が急激に悪化することもあります。

(4)精神面への影響


睡眠の質の低下による日中の眠気や疲労感は精神面への影響も与えます。自分自身の意思と関係なく、強い眠気に襲われ仕事などに影響が出ることにストレスを感じることもあるでしょう。夜、早く寝るなど自分なりの対策をしても、睡眠時の無呼吸が改善されなければ根本的な解決にはなりません。原因不明の身体の変調は精神的な負担につながります。
また、睡眠時無呼吸症候群の症状はうつ病の症状とも似ていると言われています。睡眠時無呼吸症候群により、抑うつ症状が出ることもあります。

3.まとめ

睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症と放置した場合の影響について解説しました。

睡眠時無呼吸症候群が引き起こす主な合併症は以下の5つです。

  • 高血圧
  • 心臓疾患
  • 脳卒中
  • 糖尿病
  • 認知機能の低下、アルツハイマー病

睡眠時無呼吸症候群を放置することにより、以下のような影響があります。

  • 日中の生活への影響
  • 社会的な問題への影響
  • 身体的な健康への長期的なダメージ
  • 精神面への影響


睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきや日中の眠気だけではなく、長期的には心臓疾患や脳血管疾患など深刻な健康問題を引き起こす可能性のある疾患です。また、引き起こされる合併症同士も関連が強く、1つの疾患があることで次々と身体の不調が引き起こされる可能性もあります。

そのため、睡眠時無呼吸症候群を放置することは、生活の質を大きく損ない、社会的、精神的な問題ともつながります。早期発見・早期治療を心がけ、症状を放置しないことが大切です。
では、そのためにどのような検査や治療が行われているのでしょうか。次回は、睡眠時無呼吸症候群の診断や治療について解説します。

<参考文献>

  1. 末松義弘(2023)『いびき、無呼吸症候群に殺されない27の方法』中央精版印刷株式会社
  2. 白濱龍太郎(2019)『こんなに怖い 図解 睡眠時無呼吸症候群』株式会社日東書院本社
  3. 宮崎泰成、秀松雅之(2018)『いびき!?眠気!?睡眠時無呼吸症を疑ったら 周辺疾患も含めた、検査、診断から治療法までの診療の実践』株式会社羊土社

この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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