食事中に「飲み込みにくい」と感じることはありませんか?
「疲れているからかな」「年齢せいかも」と思っていても、その小さな変化が、嚥下(えんげ)=飲み込む力の低下のサインである場合もあります。
前回の記事では、嚥下の仕組みを5つのステップで解説しました。
食べ物が安全に胃まで届くには多くの筋肉と神経が連動して働くことが必要です。そして加齢によってその一部が少しずつ衰えていくことを紹介しました。
嚥下機能は少しずつ変化していくため、気づかないうちに進行していることもあります。
今回は、嚥下障害のサインを早めに見つけるためのポイントと、気づいたときにどう行動すればよいかを紹介します。
この記事の目次
1.「飲み込みにくい」は気のせい?
食べているときに「なんとなく飲み込みにくい」と感じる瞬間は誰にでもあります。
一時的なむせや違和感であれば、体調や疲労によるものかもしれません。
ただし、次のような変化が続く場合は要注意です。
- 食事のたびにむせる
- 特定の食べ物(汁物やごはんなど)でむせやすい
- 食事のペースが遅くなり、時間がかかるようになった
- 一口を何回かに分けて飲むようになった気がする
嚥下機能は少しずつ低下していくため、「気のせい」と思っているうちに機能の低下が進行することがあります。
特に、「むせることが怖くて食べる量が減る」ような状態は、栄養不足や筋力低下の原因にもなります。
「ちょっと変だな」と感じたときが対策を始めるチャンスです。
2.こんな変化があったら要注意 ― 嚥下障害のサイン
嚥下障害のサインは、食事中だけでなく日常生活の中にもあらわれます。
下記のチェックリストを参考に、ご自身やご家族の様子を見てみましょう。
食事中のサイン
- 水分やお茶でむせやすくなった
- ご飯粒や薬がのどに残る感じがする
- 食事に時間がかかるようになった
- 柔らかい食べものばかり選ぶようになった
食後・日常のサイン
- 食後に痰が増える、声がかすれる
- 食後に咳き込む
- 食後に熱が出ることがある
- 体重が減ってきた
家族が気づきやすいサイン
- 食事中に静かになる(飲み込みに集中している)
- 食器に食べ残しが増えた
- 食べることを避けるようになった
これらは、のどや舌の筋肉、反射のタイミング、唾液の量など、嚥下に関わる機能が少しずつ変化しているサインです。
気がついた時点で対応することが大切です。
3.なぜ早めの気づきが大切なの?
嚥下機能は、筋肉と神経の連携で成り立っています。
そのため、年齢による衰えがあっても、リハビリや生活習慣の工夫で改善できることがあります。
たとえば、嚥下機能が低下すると次のような悪循環が起こりやすくなります。
むせる → 食事量が減る → 栄養・筋力が低下 → さらにむせやすくなる
変化に早期に気が付き、対応することで、この流れを断ち切ることができます。
前回の記事でお伝えしたように、嚥下は反射だけでなく意識的な動きも関わる複雑な働きです。
どこか一部の機能が弱くなっていてもすぐには気づきませんが、「飲み込みにくい」「むせやすい」という変化は、筋肉や反射のバランスが崩れはじめたサインが現れたとも言うことができます。
体の変化を早めにキャッチし、必要に応じて専門職に相談することが、嚥下機能を長く保つ第一歩です。
嚥下障害は「進行してから」よりも、「気づいたときに対策を始める」方が回復しやすいのです。
また、むせやすい状態を放置すると、食べ物や唾液が誤って気管に入る「誤嚥」が起こりやすくなります。その結果、誤嚥性肺炎につながることもあります。
次回の第3回記事では、この誤嚥性肺炎を防ぐための具体的な方法を詳しく解説します。
4.気づいたらどうする? ― 受診・相談の流れ
では「飲み込みにくい」「むせることが増えた」と感じたら、どこに相談すればいのでしょうか。
かかりつけ医や、歯医者、地域などそれぞれの場所で相談することができます。
- かかりつけ医に相談する
内科・耳鼻咽喉科・歯科などで相談することができます。まずはかかりつけ医に気になる症状を伝えましょう。
- 専門職による評価
医師が必要と判断すれば、嚥下に関する診察・嚥下機能評価(嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査など)を行います。
- 歯科医・歯科衛生士による口腔ケア
口の中の環境を整えることで、嚥下反射が保たれやすくなります。
- 地域包括支援センターや訪問看護への相談
在宅生活でも嚥下リハビリや食事の工夫を続けるために、地域の専門職がサポートしてくれます。
5.今日からできるセルフケア
早めに医療機関へ相談することが大切ですが、日常生活の中でもできるケアがあります。以下に普段の生活に取り入れることができる内容を記載します。
- 食前に深呼吸をする:食事を始める前に、鼻から吸って口からゆっくり吐く深呼吸を3回。
のどや胸の緊張をゆるめ、飲み込みやすい状態を整えましょう。
むせた後も、いったん深呼吸してから再開すると落ち着いて食べられます。
- 首や肩をほぐす:食事前に軽くストレッチをして、筋肉のこわばりをゆるめます。
- 水分をしっかり摂る:口の中を潤すことで、食べ物がまとまりやすくなります。
- 食後30分は座って過ごす:逆流や誤嚥を防ぐ基本の習慣です。
- 口腔ケアを習慣に:飲み込みにくいときこそ、歯磨きやうがいで口を清潔にします。口腔内の状況が悪いことが肺炎につながることもあります。
どれも簡単ですが、続けることで「むせにくい」「飲み込みやすい」体を守ることができます。
6.まとめ
嚥下障害のサインと気づき方、気がついた後にどうするかということについて説明しました。
「飲み込みにくい」「むせる回数が増えた」という小さな変化は、体が発している大切なサインです。
早めに気づいて、医療や専門職とつながることで、食べることをあきらめずに暮らしを続けていくことができます。
嚥下機能は一度落ちても、適切なケアとリハビリで回復する可能性があります。
次回は、「誤嚥性肺炎は防げる? 日常生活でできる嚥下機能の守り方」について、日常の工夫やリハビリのポイントを詳しくお伝えします。
<参考文献>
- 講談社健康ライブラリー編:嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す.講談社,2017.
- 藤谷順子:テクニック図解 かむ・飲み込むが難しい人の食事.医歯薬出版,2019.
- ナース専科編:おうちでできる えんげ食.MCメディカ出版,2015
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。