人生100年時代といえども、いつかは人生に終わりが来ます。
「最後に残った財産を誰にどのように配分するのか」は、非常に悩ましい問題です。
その一つの選択肢として、遺言等により遺産の一部を寄付する「遺贈寄付」が注目されています。なぜ、多くの方は遺贈寄付しようとするのでしょうか。その意義について考えていきましょう。
この記事の目次
遺贈寄付の意義① 「生きがい」
内閣府の調査によれば、「ボランティア活動に参加する理由」のトップは「自分自身の生きがいのため」なのだそうです。
逆に、「社会的な活動をしていない理由」のトップは「体力的に難しい」です。
「活動する医師がある」人が70%以上にいるのに、体力の問題から社会貢献したくてもできない高齢者が多いという傾向が見えます。
高齢者の生きがいの一つが失われているのだと思います。
しかし、ボランティアが唯一の社会貢献の方法ではありません。「ボランティアと寄付は社会貢献の両輪」であると言われています。ボランティアは自らが活動する支援方法、寄付はお金を人に託す支援方法という考え方です。
体力的にボランティアが難しい場合でも、寄付という社会貢献があります。
そうは言っても、高齢者の多くは年金暮らしですので、今すぐに多額の寄付をすることはできないでしょう。
そこで、人生の最後にお金が残った場合に、その中から少し寄付をすることを遺言に書いておく「遺贈寄付」が選択されているのです。
遺言による寄付は、今の寄付ではありませんので、今の生活に影響はありません。
遺言を書いたことを遺贈する団体に伝えておくと、団体も大変喜ばれます。
今すぐに寄付をしなくても、心の充足感を得ることができる、ちょっとお得な方法です。
遺贈寄付の意義② 「自己実現」
その「心の充足感」について、さらに掘り下げてみましょう。人間の欲求には5段階のレベルがあります。
・自己実現欲求
・尊厳欲求
・社会的欲求
・安全欲求
・生理的欲求
(マズローの欲求5段階説)
最も高次の「自己実現欲求」は、「自分の能力を発揮して、あるべき自分になりたい欲求である」とされています。
ここで、寄付について考えてみますと、多くの活動や団体がある中で、自分が共感する活動や団体に寄付をするということは、自分がこうあって欲しいと望む未来を選んでいる行為であるとも言えます。
言い換えれば、寄付を通じて「あるべき社会になって欲しい」という欲求を満たしているのです。このようにして、寄付は自己実現欲求を満たす一つの方法になり得るのだと思います。
寄付は、寄付した結果や効果を自分の目で見ることができますが、遺贈寄付は自分が亡くなった後の寄付ですから、残念ながら自分で確認することができません。
遺贈寄付は、自分が亡くなった後の未来を創って行く活動や団体を応援することですので、自己実現欲求のさらに上の次元、まさに「究極の自己実現」「自己超越」ではないでしょうか。
・寄付白書2021ダイジェスト版
遺贈寄付の意義③ 「相続財産の受け皿」
前回は「子どものいない方やおひとりさまが増加している」とお伝えしました。
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自分には子どもがいないので、相続が発生したときに兄弟姉妹や甥姪が相続人になる、または誰も相続人がいない方が増えているのです。
こうした方々の相続財産はどうなるのでしょうか?
相続人が全くいない方の財産は、様々な手続きを経た後に国庫に帰属することになります。
兄弟姉妹や甥姪が相続人の方の財産は、遺言等が無ければ、相続人全員で遺産分割協議して分配されます。
もちろん、それで良いと考えるならば特に何もしなくて良いのですが、
「国に納めるよりは…」
「きょうだいに全部あげるのは…」
と考える方も多く、その選択肢として遺贈寄付が選ばれているケースが増えています。
これまでの遺贈寄付は、意義①や②で述べたような社会貢献の意識が高い方だけが行うイメージでしたが、これからの遺贈寄付は「普通の方が普通に選択する」ようになる時代が来るように思います。
遺贈寄付の意義④ 「公益活動への資産移転」
ここまでは寄付者自身の内心的な動機に基づく意義について考えて来ましたが、最後は社会的な要請に基づく意義について考えたいと思います。
野村資本市場研究所が人口減や高齢化、相続に伴う資産移転の影響を元にした試算によれば、2030年までに家計金融資産が40道府県で減少し、増加はわずか7都県だけになると予想しています。
被相続人から相続人への相続財産の移転は、年間50兆円とも60兆円とも言われていますので、相続により、地方から都会へ大変な規模の資産が流出しています。
また、高齢化に伴い、亡くなられた方の子ども(相続人)も高齢化しています。いわゆる「老老相続」などと言われることがあります。高齢の相続人が受け取った資産は、なかなか投資にも消費にも向かわず、ただ貯蓄される傾向があり、膨大な個人資産が経済活動に寄与しないという問題があります。
仮に、相続財産の1%が公益活動へ寄付されれば、50兆円の1%は5000億円ですから、毎年5000億円が公益活動に使われることになります。日本における2020年の個人寄付の総額はふるさと納税を除くと5401億円(出典:遺贈寄付白書2021)なので、ここに5000億円が加われば大変なインパクトです。
これが実現すれば、多くの社会課題が解決される可能性があります。
遺贈寄付は、こうした大きな力を秘めているのです。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。