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相続財産を評価する目的
一口に「相続財産の評価」と言っても、目的によって評価方法は異なります。
その代表的な例は不動産でしょう。
不動産は「一物4価」とも「一物5価」とも言われており、以下のような評価額があります。
・時価(実勢価格)
・固定資産税評価額
・路線価
・地価公示価格/基準地価
・不動産鑑定評価額
例えば、相続人が財産の配分を決める「遺産分割協議」のときに、合意さえできればどの評価額を使って話し合いをしても構わないのですが、「評価額の高低」の前に「どの評価額を使うか」を意思統一していないと、話が噛み合わないことになります。
相続でもめてしまう原因の多くは、ちょっとした認識の違いや勘違いなので、こうした「もめそうなタネ」を事前に取り除くことも大切です。
前回は「相続税の計算とポイント」について解説しました。
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今回は相続財産評価の目的を「相続税における相続財産の評価」を中心にお伝えしていきます。
相続税申告で使う財産評価
相続税法では「相続等により取得した財産の価額は、財産の取得時(死亡時)の『時価』」であると定めています。ただ、「時価」と言っても考え方がいろいろありますので、財産評価基本通達で具体的な評価方法が定められています。
定められた方法によって評価すれば、誰でも同じ評価額が得られそうですが、実際には解釈の違いやテクニックにより評価額が異なり、納付する相続税額にも影響します。
相続財産の評価額を再計算して相続税の還付(更正の請求)を成功報酬で請け負う税理士もいるくらい、奥深い世界です。
財産種類ごとの評価方法
すべての財産について、評価時点は原則として財産の持ち主が逝去された日=「被相続人の死亡日」です。
「原則として」ですので例外もあります。
まずは、原則に近いものから見てみましょう。
預貯金
死亡日時点の残高です。
銀行等で死亡日時点の残高証明書を取得して確認することができます。簡易的には通帳のコピーでも代用できます。
定期預金は未経過利息(死亡日時点でまだ受け取っていない利息)も含めて評価します。
動産
書画骨董の場合、売買実例価格や専門家の意見価格などを参考にします。
自動車は死亡日時点の取引価格で評価しますが、新車の販売価格から定率法による減価償却費を差し引いて評価することもできます。
動産は1個ずつ個別に評価するのが基本ですが、家具家財のような場合は、ひとまとめにして評価することも可能です。
これを利用して、高額な動産(ピアノや絵画など)を「家具家財一式」に含めて申告しようとした相続人を見たことがあるのですが、税理士から指摘されて正しく申告していました。
時々「高価な仏具を買って節税」の話を聞きます。純金の仏鈴(おりん)も人気があるようです。
確かに、祭祀財産は相続税の対象外なのですが、日常的に法要・供養で使用していないなど、不自然な状況であると税務署から判断されると、祭祀財産ではなく一般の財産とみなされて相続税の課税対象となることがありますので、注意が必要です。
保険
生命保険の契約者と被保険者が故人の場合、死亡と同時に受取人に死亡保険金が支払われます。
これは相続財産ではなく、受取人固有の財産なのですが、「みなし相続財産」として相続税計算の対象となります。
ただ、非課税額(500万円×法定相続人数)があり、相続財産額から控除できます。
具体例でいうと…
*生命保険の契約名義が夫で保険の対象も夫。死亡保険金3,000万円の受取人を妻にしていた。
死亡保険金3,000万円は妻に支払われる。
ただしみなし相続財産として相続税計算の対象となる。
法定相続人が妻と娘だった場合は、死亡保険金は500万円 × 2人 が相続財産額から控除できるので、
3,000万円 − 500万円 × 2 = 2,000万円
となるため、 2,000万円が相続税の計算対象となる。
*ほかの相続財産と合算して、相続税の基礎控除額3000万円+600万円×法定相続人の人数の金額を差し引く
この場合だと3000万円+1200万円=4200万円が相続税の控除額となる
一方、生命保険の契約者と受取人が故人で、被保険者が別人の場合、「保険契約の権利」として評価されます。
具体的には「死亡日にその保険を解約した場合に支払われる解約返戻金の額」で評価します。
有価証券の評価方法
上場株式
これが「死亡日時点で評価しない例外」の代表的なものです。
・死亡日の終値
・死亡した月の終値の平均
・前月の終値の平均
・前々月の終値の平均
上記4つうち、最も低い価格で評価します。
終値平均額は、証券取引所の統計月報や証券会社などで調べることができます。
投資信託など
死亡日時点での解約返戻金の額で評価します。
被相続人と取引のあった証券会社などに問い合わせると教えてもらえます。
非上場株式
「取引相場のない株式」の評価方法により計算します。
かなり複雑なので、概要だけお伝えします。
会社の規模などに応じて「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」を組み合わせて評価します。
また、株式を相続した人が少数株主や経営者の同族株主以外にあたる場合は、「配当還元方式」が使え、上記2方式よりも評価額が低くなります。
オーナー企業経営者の自社株の評価額が高額になるケースがありますが、換金が困難なため、相続税の支払いが大きな負担になり、企業経営の上でもリスクになります。
評価額を下げる対策をしたタイミングで後継者に株式を譲渡するなど、事前に準備することができます。
不動産の評価方法
不動産の評価については、種類や権利など論点が多岐にわたりますが、ここでは一般的な宅地の場合について、ポイント別にご説明します。
不動産の評価の方式
家屋(建物)は固定資産税評価額で評価します。
土地は、中心的な市街地にある場合は「路線価方式」で評価し、それ以外の地域は「倍率方式」で評価します。
「路線価図」や「評価倍率表」は国税庁が発表しています。
路線価図を見ると、目的の土地の前面道路に「250C」などと記載されています。
これは1㎡あたりの路線価を千円単位で表したものです。
例えば…
路線価図に「250C」と記載されていた土地、200㎡について
250千円(25万円) × 200㎡ =50,000千円(500万円)
評価額は500万円
となります。
倍率方式の場合は、評価倍率表に地域単位で「1.1倍」などと記載されていますので、当該土地の固定資産税評価額に1.1倍を掛けた金額が評価額になります。
各種の補正
上記で求めた評価額に補正を加えることができます。
・いびつ形の土地 → 不整形地補正
・間口が狭い土地 → 間口狭小補正
・奥行きが長い土地 → 奥行価格補正
・斜面にある土地 → がけ地補正
など
以上のような場合に評価が低くなる方法があります。
逆に下記のように評価が高くなる場合もあります。
・角地 → 側方路線影響加算
・土地の前後に道路がある → 二方路線影響加算
また、広い宅地(三大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域で1,000㎡以上)の場合は「地積規模の大きな宅地の評価」が適用でき、使い方によっては大幅な評価減になることがあります。
相続した土地を宅地分譲するような場合は特に有効です。
権利関係の評価
土地が更地の場合や、土地と同じ所有者が使用する建物(自宅など)が建っている場合は、上記までの評価で良いのですが
①土地を貸して他人が建物を建てている場合
②建物を他人に貸す(アパートなど)場合
これらの場合は、その権利を差し引いて評価します。
①で、土地を借りている側には「借地権」があり、「土地の価額×借地権割合」になります。
土地を貸している側は「貸宅地」となり、「土地の価額×(1−借地権割合)」となります。
②は「貸家建付地」の評価となり、「土地の価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)になります。
また、貸家やアパートの建物評価額は、固定資産税評価額の70%になります。
例えば……
評価額1億円の更地に、預貯金5,000万円でアパートを建てた場合
・評価額1億円の更地(借地権割合70%)
・5,000万円のアパート(固定資産税評価額3, 000万円)
*アパートを建設したことでの全体の評価額
土地:1億円 ×(1− 0.7 × 0.3)= 7,900万円
建物:3,000万円 × 0.7 = 2100万円
合計:1億円
*なにもしなかった場合の全体の評価額
土地1億円 + 預貯金5,000万円 = 1億5,000万円
アパート建築前は、土地1億円+預貯金5,000万円(アパート建築に使用)= 1億5,000万円でしたので、5,000万円の評価減の効果があることになります。
小規模宅地等の特例
これは相続税法ではなく、租税特別措置法の特例ですので、毎年内容が変わりますが、基本的な構造は同じです。
一定の条件を満たした場合、被相続人の居住用宅地で330㎡以下の部分について80%、一定の事業用宅地で400㎡以下の部分について80%または200㎡以下の部分について50%の評価減が受けられます。
80%減となれば、元の価格の20%で評価されるわけですから、とても大きな効果です。
まとめ
相続税申告における相続財産の評価は以上のとおりですが、各種の評価減や特例を受けるためには、相続税の申告期限までに申告・納税することが必要です。
遺産分割協議で財産配分が決まっていないと、評価減する前の高い相続税を支払うことになります(後に更正の請求で還付される可能性はあります)。
円満な相続は、相続税の観点でも有利に働きます。
税理士さんでも相続を得意とする方とそうでない方がいるようです、とお伝えすると驚かれることがあります。
国税庁の税理士試験要綱に記載された情報を見ると、必須が簿記論及び財務諸表論、選択科目が所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税から三科目と記載があります。
つまり、相続税法については選択科目なんですね。
それに加えて、主に受けている相談の分野が相続か否かという部分も重要でしょう。
この記事を書いた人
齋藤 弘道(さいとう ひろみち)
<プロフィール>
遺贈寄附推進機構 代表取締役
全国レガシーギフト協会 理事
信託銀行にて1500件以上の相続トラブルと1万件以上の遺言の受託審査に対応。
遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、2014年に弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げた(後の全国レガシーギフト協会)。
2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。
日本初の「遺言代用信託による寄付」を金融機関と共同開発。