
みなさんは「味噌っ歯」をご存じでしょうか。子供の乳歯が、虫歯によって黒く変色したり欠けたりした状態を表します。歯に味噌を塗ったように見えることから味噌っ歯と言うようになったようです。かく言う私も味噌っ歯でした。私は昭和後半生まれですが、当時の子供の多くは味噌っ歯だったように記憶しています。さて令和の時代、味噌っ歯の子供を見かけることはほとんどありません。虫歯が減っているからなのでしょうか。最近の虫歯事情について調べてみました。
この記事の目次
1.虫歯は減っている?
冒頭に述べたように、虫歯になる人の数は減少しているのでしょうか。令和4年に厚生労働省が「 歯科疾患実態調査結果の概要」を発表しています。
乳歯では、5 歳から11歳で虫歯のある子供の割合は15~35%程度でした。
14 歳以下の各年齢を過去の調査と比較すると、虫歯のある子供の割合は概ね減少傾向にありました。
統計は平成5年からですが、歯磨き習慣のなかった昭和の時代はさらに多くの子供に虫歯があったと推測できます。
一方永久歯では、5 歳以上10歳未満の処置歯または未処置の虫歯を持つ子供の割合は 3%を下まわっていますが、25 歳以上では 80%以上と高くなっています。
年代ごとに過去の調査と比較すると、5 歳以上 35 歳未満では減少傾向にありましたが、55 歳以上では増加傾向にあります。

永久歯の虫歯の経験がある歯の本数を示すDMF歯数(過去に虫歯になった歯、抜歯した歯、治療済みの歯の合計本数)でも、35歳以上の各年代において減少していますが、減少割合は緩やかです。
次に、自分の歯が20本以上ある人の数は、55歳以上で一部の年代を除いて増加傾向にありました。
年齢が上がるほど平成5年との差は大きくなり、20本以上歯が残っている人の割合が増えています。
以上のことから、乳歯の虫歯はかなり少なくなりました。
永久歯においては、虫歯を持つ人の数の割合は増えているものの、一人あたりの虫歯数は減少傾向にあります。
歯が20本以上ある人の割合は多くの年代で増加傾向にあり、虫歯がありながらも上手に付き合えるようになったと言えます。
2.虫歯って?
虫歯は、口の中の細菌が作り出す酸によって歯が溶けた状態です。
初期では無症状ですが進行すると痛みが出現します。放置していると感染症を起こすなど、全身に影響する事態になりかねません。
私たちの口の中には多数の菌が生息しています。
その中でもミュータンス菌が虫歯の原因になります。
ミュータンス菌は食事に含まれる糖分を餌として増殖し、歯の表面にプラークを形成します。プラークの中は酸性になるため、プラークが付いている部分の歯の表面が溶けだして虫歯になります。

虫歯ができやすいのは、プラークが貯まりやすい歯と歯の間や奥歯の溝です。
虫歯の治療により詰め物がある場合、歯と詰め物の境目にも虫歯はできやすくなります。
歯は表面がエナメル質に被われ守られていますが、加齢により歯肉が減ってくると、露出した部分はエナメル質がないので虫歯ができやすいです。
また、唾液分泌が少ないと唾液で汚れが洗い流せないので、虫歯ができやすくなります。
甘い物をよく食べる、常に何か食べている、食後に歯磨きをする習慣がない人も同様です。
ドライマウス人口の増加や、高齢になっても自分の歯が多数残っている方が増えたことで、近年高齢者の虫歯が増えています。
3.虫歯の治療
昭和時代虫歯は痛くなって気が付き、歯医者に行って治療するのが主流でした。
痛みが出るほど進行していため、神経を抜いたり抜歯に至ることも少なくありませんでした。何より治療にも強い痛みを伴いました。
虫歯の多かった私も、歯医者は痛くて怖い所という記憶があります。
痛みを取るための麻酔自体が痛くて恐怖でした。
現在では、虫歯にならないための予防歯科が主流です。
定期健診によって早期に発見でき、削らない段階での治療が可能になりました。
治療器具や修復材の進歩により、できるだけ自分の歯を残すための治療がされています。
痛みに対する配慮も十分行われるようになりました。
歯に穴が開いていない初期の虫歯治療は、フッ化物などを用いて歯の再石灰化を促します。同時に、ブラッシング指導による汚れを貯めない歯磨きや、食生活の改善を行います。
穴が開いてしまった歯には、病巣部分を除去した後に、人工材料を詰めたり被せたりすることで歯の形を回復させます。
近年、美容的側面に配慮した治療もされるようになりました。
4.虫歯にならないためにできること
テーマパーク8020によると、虫歯予防のポイントは①虫歯を減らすこと②その活動をおさえること③歯を丈夫にすることの3つだそうです。
そのためには日々の生活習慣が大切です。
1)歯磨き
ただ磨くのではなく、プラークを取り除くという目的意識を持って歯を磨きましょう。
基本は「食べたら磨く」です。毎食後の歯磨きを心掛けましょう。特に夜間は唾液分泌が少なく、細菌が繁殖しやすい環境になります。就寝前の歯磨きは忘れず行いたいものです。
歯ブラシは歯の表面の根元に直角に当て、横に小刻みに動かします。(スクラビング法)
歯と歯の間は、歯間ブラシやデンタルフロスを用いて汚れを除きます。
歯磨き剤はフッ化物が配合されています。
現在厚生労働省が許可している上限は1500ppmです。歯磨き剤を選ぶとき、フッ素含有量についても確認してみて下さい。
なお、6歳未満の子供は1000ppm未満です。
フッ化物など歯の石灰化に必要な成分を唾液中に留めておくために、歯磨き後のうがいは1回だけとし、歯磨き後30分間は食べないことも大切なポイントです。



2)食習慣
食事はバランスの良いものをよく噛んで食べましょう。
噛むことで唾液が分泌され、飲み込みを助けると共に歯に付いた汚れを押し流してくれます。
間食は時間を決めて、ダラダラ食ベはやめましょう。
ガムは唾液分泌を促すために有効です。喉の不調にのど飴は欠かせませんが、口の中に長時間あるという点で虫歯の原因になりかねません。
甘み成分にキシリトールを用いた製品を選びましょう。
キシリトールは酸が産生されず歯の石灰化を促すため虫歯予防に有効です。
3)歯の定期健診を受けましょう
虫歯の早期発見だけでなく、歯の汚れ(歯垢)除去や、適切な歯磨き方法を教えてもらうことができます。
ついつい忘れがちな歯の健康について意識するきっかけになります。

5.まとめ
昭和と令和の違いを交えて虫歯とその治療についてお伝えしてきました。一度傷ついた歯は二度と元には戻りません。歯磨き剤を見直す、歯磨きの後のうがいを1回にする等、まずはできることから虫歯予防に取り組んでみてはいかがでしょうか。
引用参考資料
テーマパーク8020 https://x.gd/xhXvw
この記事を書いた人
看護師:青木 容子
〈プロフィール〉
看護師経験30年
(病院勤務通算8年、身体障害者施設3年、訪問看護15年、そのほか新生児訪問指導など)
現在は特別養護老人ホームなどで勤務する傍らCANNUS新長田を運営中。
紙屋克子氏らから、NICD:意識障害・寝たきり(廃用症候群)患者への生活行動回復看護を、黒岩恭子氏からは黒岩メソッドを学び、実践するとともにそれらの普及を目指している。