前回の記事では乳がん診断までの流れをお伝えしました。乳がんの治療で一番多いのは手術です。事前に流れを知っておくと安心に繋がると思います。手術の一般的な流れに沿って、手術前・手術後の注意点をお伝えします。
この記事の目次
1.手術が決まるまでの流れ
外来受診で治療方針が決まり担当医より説明があり、手術の日程が決まります。すぐに入院になることは少なく、かかりつけの病院の規模や手術件数によって多少異なりますが、4〜8週間後に手術となります。この日数は患者様によっては長いと感じているようです。入院患者様の中には、入院初日に「こんなに待つものなのね」「がんが進行するかと思うと不安だった」とおっしゃる方が複数おられました。ほとんどの乳がんはゆっくりと進行します。また手術が決定する前に病理検査で進行スピードが調べられているため、もし進行が早いタイプのがんであれば早急に手術予定を決めるはずです。不安や疑問がある場合は外来で先生に聞いてみましょう。
2. 乳がん特有の入院準備物品
手術が決まれば、入院まで日数があるため様々な準備ができます。仕事や家庭のこと、高額医療制度の手続きなど入院前に済ませておくと安心です。詳しくは前回の記事「乳がんの手術/診断から手術までの流れを知っておこう」の5.入院までの過ごし方、でお伝えしています。
今回は乳がん手術で入院時に特有の必要物品についてお伝えします。手術が決まれば外来で看護師より手術の流れ・準備物品について説明があり、一覧も渡されます。また大抵の病院ではコンビニや売店があり、入院に必要な物品は購入することができます。寝衣(入院中に着る服)もレンタルできます。あまり神経質になる必要はないでしょう。コンビニや売店にどんなものが売っているのか、外来受診時に見ておくのもいいでしょう。
手術時から必要なもの
- 胸帯(バストバンド、ブラジャー):
- ワイヤーや縫い目がないソフトタイプ:手術後、傷に縫い目やワイヤーなど硬い部分が当たると痛みや皮膚トラブルの原因となります。
- 前開きタイプ:
以下の理由で前開きタイプがいいでしょう
- 手術後何度も傷口の確認をするため
- 手術後数日間、チューブが入っていることがあるため(術式による)
- 手術後は創部や脇などに痛みやつっぱり感があり背中に手を回しにくいので、後で止めるタイプは傷口に負担がかかるため
- ストロー付きコップ:
術式によっては手術後数時間で水を飲んで良いと許可が出ることがあります。水分許可は出ていますが、安静のまま(起き上がれず、少し頭を上げていい程度)なので、水分が飲みやすいようにストロー付きコップを持参すると飲みやすいでしょう。
- ペットボトルの水:
上記でお伝えしたように術後数時間で水が飲めると許可が出た場合、水が手元にあると便利です。事前に準備しておくか、魔法瓶などに入れておきましょう。
手術後に必要なもの
1.低刺激・弱酸性のボディーソープ
皮脂を落としすぎると潤いが少なくなります。低刺激・弱酸性のボディーソープの持参をお勧めします。
2.泡立てネット
手術の傷口周囲をタオルやスポンジで洗うのは皮膚トラブルや痛みに繋がります。泡だてネットで泡を作り、優しく洗いましょう。
3.保湿剤
保湿は皮膚のバリア機能を保つために必要です。ボディーソープと同様に低刺激・弱酸性のタイプを選びましょう。
4.前開きのパジャマ
前開きのバストバンドと同様の理由で、傷口の確認・チューブの挿入のため、かぶりタイプより前開きタイプがいいでしょう
5.クリップ
レンタル寝衣の場合、襟元が開きやすくなっているタイプがあります。クリップなどで止めるといいでしょう。
6.かご(S字フック)
手術後は痛みやつっぱり感で腕が上がりにくくなっています。よく使うスマホ・充電器・フェイスタオルなどをカゴに入れてベッド柵にS字フックなどでかけておくといつでも取れるので便利です。
※週に1〜2回シーツ交換があります。その時は紛失の可能性があるので取り外しておきましょう。
3.入院から手術後までの流れ
①入院日数と手術時間
入院日数は術式によって多少異なります。乳がんの手術は大きく分けると「乳房部分切除」「乳房全摘出」「乳房再建」となります。
入院日数と手術時間の目安は以下となります
術式 | 入院日数 | 手術時間 |
乳房部分切除 | 3〜5日 | 1~3時間 |
乳房全摘出 | 5〜7日 | 1~3時間 |
乳房再建 | 10日〜2週間 | 5~8時間 |
※「乳房部分切除」「乳房全摘出」に腋下リンパ節郭清が加わると2〜3日入院日数がプラスとなります。
※腋下リンパ節郭清:脇の下にあるリンパ節を除去することで広がりや個数を確認する、また再発予防のために行われます。
②入院から退院までの流れ
乳房部分切除と乳房全摘出では数日ずれがありますが、おおよそ以下のような流れです。今回は乳がん手術で多い「乳房部分切除」「乳房全摘出」を例に流れを表にしました。このような表は入院時に看護師の説明とともに渡してくれる病院がほとんどです。
入院:手術前日に入院 |
説明 | 看護師:今後の流れ、各種書類の説明・必要時サイン(手術同意書、個室同意書などの確認)などがあります。 |
麻酔科医:麻酔についての説明があります。 |
手術室看護師:手術室に入ってからの流れの説明があります。 |
薬剤師:処方薬があれば確認や、術前に止めておく薬があればその説明・確認があります。 |
清潔 | 制限はないのでシャワーをしておきましょう。 |
食事 | 21時まで可能です。夕食まで出ます。 |
手術当日:手術時間によって多少前後します※9時手術の場合、時間はほぼずれませんが、それ以降の手術は前の手術により多少時間が変わります。 |
着替え | 手術着が渡されているので着替えておきましょう。ブラジャーは外し、下着は直前までつけておけます。手術室の前室で脱ぎ看護師が袋に入れて持ち帰ることが多いです。 |
食事 | 朝から取れません。 |
お水 | 9時からの場合は6時以降飲めません。それ以降の場合は看護師の指示に従いましょう。飲まなければうがいは可能です。 |
点滴 | 午後から手術の場合は点滴がはいることがあります。 |
薬 | 処方薬については指示があります。継続の薬、止める薬について看護師から説明があります。 |
移動 | 手術室への移動は看護師と歩きで移動します。 |
手術後:術直後の方が入るお部屋に帰ります |
医療処置 | 点滴やモニターなどがついています。腋下リンパ節郭清の場合、チューブが入っています。 |
安静度 | 翌日まで安静(起き上がれない)です。 |
飲水 | 術後数時間でお腹が動いているのが確認されれば飲水許可がでます。 |
痛み | 硬膜外麻酔という背中に痛み止めが常時流れるチューブが入っているのでさほど痛みは強くないですが、痛みが強くなったときは看護師に伝えましょう。 |
症状 | 気分が悪い、寒気がするなど不快な症状があればすぐに看護師に伝えましょう |
手術翌日 |
安静度 | 看護師が歩行できるか判断し一緒に動きを確認します。問題なければすぐに1人で歩けます。 |
医療処置 | 翌日には点滴、モニター、尿道留置カテーテルがとれます。腋下リンパ節郭清の場合はチューブが脇に入っていますが、まだ取れません |
食事 | 昼より食事(おかゆ)が出ます。 |
清潔 | 手術翌日は看護師が体を拭き、着替えもお手伝いします。 |
術後2日〜 |
清潔 | チューブが入っている間は下半身シャワー、上半身・シャンプーは看護師がお手伝いします。 |
食事 | 普通食が出ます |
傷口 | 医師や看護師が傷口の確認、ガーゼ交換を行います。 |
術後1週間ほど〜 |
チューブ | 約1週間でチューブが医師によって抜かれます。チューブから出ている液体の色・量などをみての判断となりますので、個々で多少異なります。 |
リハビリ | チューブが抜けたらリハビリとなります。痛みやつっぱり感がない程度に少しずつ動かしていきましょう。 |
※上記予定は一般的な流れです。病院や術式などによって多少異なります。
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4.手術後の生活で気をつけたいこと
①傷口
- 傷口を見ることができるなら確認し赤み・腫れなどの出現や、変化を観察していきましょう。
- 傷口を保護するため、下着は退院後もワイヤー・縫い目・タグがないソフトタイプを選びましょう。痛みがおちつけば少し柔らかめのブラジャーをつけてみるといいでしょう。個人差はありますが1〜3ヶ月で通常のブラジャーに戻られている方が多いです。(術後、放射線治療を行なわれる方は、皮膚トラブルの可能性があるので、ソフトタイプの下着を継続しましょう)
②清潔
- 傷口が見えなくなるぐらい治癒するまでは、ボディーソープは低刺激・弱酸性を使用しましょう。
- 傷口周囲の皮膚が乾燥するとバリア機能が低下するため、低刺激・弱酸性の保湿剤を使用し、潤いを保ちましょう。退院後も傷口にテープが貼られている場合は保湿剤で剥がれることがあるので、テープにはかからないように塗りましょう。
- 入浴はチューブが入っている方は抜けてからになります。退院後いつから入浴可能か確認をしましょう。一般的にはチューブが入っていない方は術後2日目以降から、チューブが入っていた方は抜いてから24時間後に入浴可能となります。
③リンパ浮腫予防・リハビリ編
リハビリの目的は以下です
a.肩や腕の関節可動域を元に戻す
b.リンパ浮腫の予防・軽減
リンパ浮腫:
手術によってリンパの流れが滞り、腕や手にむくみや痺れが出ることがあります。とくに腋下節リンパ郭清をされた方にリスクがあります。悪化すると傷口から感染を起こし蜂窩織炎と呼ばれる炎症を起こすことがあるため、予防が大切です。
- 手術後1日目より:
軽く動かしてみましょう。最初は指の曲げ伸ばし・手首を回す・椅子に座った状態、もしくはベッドに横になり肘を支えた状態で肘の曲げ伸ばしをゆっくり行ってみてください。肘を支えるのは重力をかけないためです。
- 術後1週間(もしくはチューブが抜けた後):
腕を真横や上に上げる運動(難しければ手術していない腕で支えながら挙上してみましょう)・肘をあげ肩関節を回す
- 術後2週間以降:
壁に向かって立ち、壁にはわせるようにして手術した方の腕を少しずつ上げていきます。少しずつ繰り返していきましょう。
リハビリは無理なく続けましょう。傷が赤くなっている・傷の周囲が浮腫んでいる・痛みが強いなどがあれば無理にリハビリを続けず医療者に相談してください。
④リンパ浮腫予防・リハビリ以外でできること
a.炎症はリンパ浮腫のきっかけになるため、怪我や傷をつくらないようにしましょう。
- 深爪、虫刺されに注意する
- 真夏の外出は日焼けや虫刺され対策のため、薄手の長袖かアームカバーをつける
- むだ毛剃りは剃刀を避け、女性用電気シェーバーなどを利用する。
- ②清潔でお伝えした低刺激・弱酸性のボディーソープ・保湿剤を使用し、清潔を保ち肌の乾燥を防ぐ。
b.リンパの流れを防がないために行うこと
- 重い荷物を持たない
- 腕や肩をしめつけるきつい下着や衣類を避ける
- きついアクセサリーや腕時計をしない
- パソコン作業など長時間同じ姿勢で作業するときは肩や腕を回すなど動かす
- 手術をした腕を下にして寝ない
- 仰向けで寝る時は手術した方の腕の下に薄いクッションなど敷き、少し腕を挙上する
- 血圧測定や採血は手術した方の腕は避ける。乳がんでかかりつけ以外の病院にかかる時、乳がんの手術をしたと伝えましょう。
c.リンパ浮腫が起こった時の症状
以下のような症状があれば受診しましょう。
- 今まで見えていた血管が見えにくい、もしくは見えない
- 腕が重い・疲れやすい
- 浮腫んでいる(指で押して痕が残る)※皮膚を傷つけないように注意
- しびれを感じる
d.リンパ浮腫の治療
一度リンパ浮腫を発症した場合、リンパの流れを流すマッサージやリンパドレナージがあります。圧迫すると感染のリスクなどがあるため必ずリンパ浮腫の専門家へ相談しましょう。病院によってはリンパ浮腫外来を併設しているところもあります。
5.まとめ
今回は乳がんの手術の流れにそって、術後の生活で気を付けることを主に傷口・清潔・リンパ浮腫(リハビリの方法)の3点でお伝えしました。次の記事では、外見の変化に対するアフターケアです。女性にとって乳房の変化はとても辛いことです。補正下着などアフターケアについてお伝えします。
この記事を書いた人
山川幸江
<プロフィール>
病棟勤務14年。手術や抗がん剤治療など癌治療を受けられる多くの癌患者様に関わる。ICU配属中に、実母が肺癌ステージ4と告知を受ける。在宅での療養生活を見越し、訪問看護へ転職。同時期に事業所管理者となり、母の療養生活を支える。訪問看護でも、自宅療養の癌患者様に多く関わる。ダブルワークで働く中、母の在宅看取りを経験。自身の経験から癌患者様、介護中のご家族様が安心できる療養生活を過ごせるよう、介護空間コーディネーターとして、複数メディアで記事執筆、講座を行う。
<経歴>
看護師経験16年(消化器・乳腺外科、呼吸器・循環器内科・ICU/訪問看護・管理者)
自費訪問 ひかりハートケア登録ナース
(一社)日本ナースオーブ ウェルネスナース
<執筆・講座>
株式会社キタイエ様
「暮らしの中の安心サポーター“ナース家政婦さん”」
「ほっよかった。受診付き添いに安心を提供。”受診のともちゃん”」他
「がんで余命半年の親を看取った看護師の経験/ウェルネス講座」
「退院前から介護利用までの50のチェックリスト/note」
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