日本の永久的ストーマ保有者は、約21万人以上と推定されています。年齢層の多くは高齢者で60歳以上が全体の8割を占めています※1。毎年、1万5千件〜1万8千件のストーマ造設がされているとも推定されています※1。
看護師の仕事をしていると周りに自然とストーマの方がおられ、特別な違和感を持つことはありませんでした。こうして統計の数字を目にすると想像以上にストーマを造設されている方が居られるのだと感じます。毎年、多くの方がストーマを造ることになり、そのご家族も一緒に悩み、問題に立ち向かっているのです。
大腸ストーマは身体障害者手帳の交付対象となります。普通の人のように肛門から排便できなくなり、ストーマから排泄するという身体機能の変化を受け入れられずに自身を直視出来なくなる方もいます。
中には、現状を受け入れられない、高齢でストーマ管理を行うことが難しい本人に代わって、ストーマパウチ(便を排出する袋)の交換や管理を行わなければならなくなったご家族も少なくありません。
この記事の目次
1.まずは、ストーマについての理解を深める
一緒に生活を共にする家族がストーマを造ることになったとき、もちろん当事者は病状と身体の一部になるストーマについて知ることになります。病状・治療法などについて、医師からの説明があるとき、キーパーソンとなるご家族も一緒に話を聞くことになるでしょう。病状やストーマについて本人と一緒に知ることで、寄り添いながら援助していくことが出来ると思います。また高齢者や理解力に不安がある場合は、特に家族の助けが必要となることが多く、本人よりもご家族の方がしっかりと理解していなければいけないことがあります。
以前のように肛門から排便していた頃と違い、腹部に便が出る穴が出来ます。その穴は一般の方には見慣れない色で驚かれるかもしれません。腸の内側が見えているので、粘膜のピンク色から赤に近いような色です。その見た目だけで明らかにこれまでの自分とは違うと感じてしまい、疎外感を感じ仲間外れのような感覚に陥ります。
しかし、初めは戸惑ったストーマも日々の生活の中で見慣れてくると、不思議と愛着を感じるようになります。ただし人によって感じ方は様々ですので、大事な身体の一部分だと考え方が切り替われるように、周囲の声かけも大事です。例えば「ストーマがあるから生きていられる」「ストーマのお陰で便が出せるから、食べることもできる」「手術してストーマが作れてよかったな」など前向きな言葉が、本人の気持ちを変えるきっかけになることもあります。
2.日常生活を送るためには
手術後、ストーマが問題なく機能して管理できるようになるまでは、入院している病棟でケア方法を本人・家族共に習います。主な学習内容は以下になります。
- パウチ内のガスや排便の排出方法
(詳細は「大腸がんストーマ②ストーマ管理で知っておきたい!便の性状とガスの工夫」に記載)
- パウチの着脱・洗浄方法
- ストーマの正常・異常についての知識
- ストーマパウチ(ストーマに張り付けて便を入れておく袋)の交換時期
- 臭いのコントロール方法
(詳細は「大腸がんストーマ①ストーマの皮膚とにおいのトラブル対処法!」記載)
- ストーマ造設後、快適に過ごすための服選び
1.パウチを目立たせない工夫→羽織るシャツを持っておく
夏場など服が薄着でさらに体に密着するタイプの場合、パウチがガスなどで膨らむと見た目上、分かりやすい場合があります。薄手のシャツを上着代わりに羽織っておくなどの工夫が出来るようにしましょう。手術前から着ていた衣類は、一度確認してみることをお勧めします。
2.パウチの不快感の軽減→パウチ袋をつける
パウチが肌に触れ不快感を感じる場合は、パウチ袋を被せて不快感を軽減することができます。
3.ベルトが使えない場合→サスペンダー、ハイウエストのパンツやスカートを着る。
ストーマの位置によってはベルトが当たってしまう場合があります。その場合は、サスペンダーやハイウエストのパンツ・スカートを取り入れてみましょう。
個人的な意見としては、日常から良く会う人たちにはストーマのことを話しておき、いつでも協力してもらえる環境づくりができると良いと思います。しかし、人によっては「誰にも知られたくない」と思う方も居られるでしょうから、当事者の気持ちを汲みながら少しずつ環境を整えていきましょう。
上記のように、ストーマ管理の基本的な知識・ケア方法を身に付け、そこから創意工夫していくことが理想的です。それでも不安な場合は、訪問看護を導入するのも一つの方法です。専門的な知識を持っている看護師にサポートしてもらい、悩みを聞いてもらう、わからない点を指導してもらえる、緊急時に訪問を依頼できる、などのサポートから受ける安心感は何者にも代えがたいと聞きます。初めての事に対して不安に思うのは本人だけではありません。ご家族も含めて、みんなで支え合いながら日常生活を送れることが大切です。
3.専門職の支援でストーマに対して「できること」が増えた実例
ストーマの受け入れができない方に対して、訪問看護が関わることで少しづつ受け入れできるようになったご家族の例をご紹介します。
私が訪問看護師として勤務していたときのことです。80代の女性Aさんは左下腹部に一時的なストーマを造設し、60代の娘さんと2人暮らしをされていました。Aさんは半年後に再手術して腸を肛門につなげることが決まっていました。
一時的とはいえ、排便はストーマから出てきます。2日に1回のパウチ交換が必要でしたが、自分自身のストーマを見ることも触ることもできない、娘さんも怖くて直視できない・触れられない、という状況でした。訪問看護として1週間に3回~4回の定期訪問を行い、パウチの交換などケアを行いました。最後までストーマを見る事はできませんでしたが、徐々にガス抜きやパウチ内の排便を排出することは出来るようになりました。訪問を重ねるうちに、親子ともにストーマについて理解ができ、緊急時の対応もできるようになりました。
娘さんは最後にこう伝えてくれました。「退院直後は不安でいっぱいで眠れなかったんですけどね。最初にストーマに怖さを感じましたが、母のお腹に在り当たり前のモノになり、看護師さんが説明しながら一緒に行ってくれることで不安が少しずつ和らぎ、助けてと言えば看護師さんに来てもらえたことで、夜もぐっすり眠れるようになりました」
受け入れが難しいストーマですが、専門職が関わることで少しずつ「体の一部」であると理解でき、受け入れることができるようになるでしょう。
4.まとめ
家族がストーマを造る時「もし自分だったらどうしてほしいだろう」と考えることが出来れば、それだけで十分寄り添えており、心構えとしては十分だと思います。
手術・治療を受けた病棟で、ケア方法の一連の流れや今後の生活について学んだはずなのに、自宅に戻ってみると「あれ?どうだったっけ?」と戸惑ってしまう声を、よく耳にします。病院では説明を聞いて実践も出来たのに、いざ自宅に帰ると、ふとした時にケア方法が分からなくなり、不安になることがあります。
そのような時は、助けを求めてください。誰かに助けを求めて、答えが出れば不安はとても軽くなります。知らないことは恥ずかしいことではありません。知識を得るために専門家の力を借り、訪問看護師または認定看護師と連携して、家族みんなが安心して生活できるようにしましょう。
参考文献:ストーマ保有者のストーマ用品日用の自己負担額と負担感に関する要因の分析|日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 2021年25巻3号 p.566–575
この記事を書いた人
看護師:栗巣正子
<経歴>
看護師歴 23年
大阪府堺市で、50床~2000床の病院勤務(内科、外科、手術室、整形外科、療養病棟)。
離婚後、鹿児島県鹿屋市にて、老人保健施設、透析専門クリニックに勤務
大手生命保険会社に、営業主任として3年勤めた後、地域密着型の内科総合病院に17年(介護保険病棟、療養病棟、急性期病棟、心臓内科、腎臓内科、肝臓内科、消化器内科、呼吸器内科、腹膜透析、血液透析、外来、救急外来、訪問看護)勤める。
現在は、派遣ナース、非常勤での健診スタッフ、訪問看護指示書作成等の委託業務、ナース家政婦登録
<資格>
正看護師/普通自動車免許/大型自動車免許/けん引免許/たん吸引指導者/ペットセーバー/労災ホームヘルパー(A)