家族が病気や怪我で入院をしたという経験はありますか?病状や、入院中の生活など、いろいろなことが心配になりますよね。退院して入院前の生活に戻ることができるのかということも心配の1つではないでしょうか。
特に高齢の親が入院した場合、退院後に今まで通りの生活が難しくなり、介護が必要になる可能性もあります。介護保険は入院中でも申請は可能です。入院中に介護保険を申請することで、退院後にスムーズに必要なサポートを受けることができます。
本記事では、親が入院をしたときに、介護保険申請を検討することの重要性や注意点、入院中の介護申請が退院後の生活の安心に繋がった事例を紹介します。
この記事の目次
1. 入院中に介護保険申請を検討する重要性
親の入院は、介護保険申請を検討する1つの重要なタイミングと言えます。
高齢になると、加齢に伴い身体機能の低下が進みます。入院の理由にもよりますが、入院中は普段よりも活動が制限され、筋力の低下や日常生活動作(ADL)の低下が進む可能性があります。そのため、入院が長期間になると、退院後もリハビリや生活支援が必要になるケースがあります。
さらに、入院中に行った治療や生活管理を、退院後も継続するために、自宅でも医療処置が必要になることもあります。
これらの理由から、退院後の生活にも介護や医療的な支援が必要になることがあり、
入院中に介護保険申請を検討することは、退院後の生活を考える上で重要です。
2. 入院中に介護保険申請をするときの注意点
介護保険を利用するためには、市区町村の窓口で要介護認定の申請を行います。申請後、認定調査が行われ、要介護度が決定されます。
申請手続きの詳細については、1回目の記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
入院中でも、同様の手続きで介護保険を申請することができますが、以下の4点に注意が必要です。
1.申請のタイミングは「早め」に行う
介護保険の申請から認定までは、原則として30日程度かかります。退院の直前に申請すると、退院日までに認定結果が間に合わないことがあります。退院の目安が見えた段階でなるべく早く申請をしましょう。
2.訪問調査は病院内でも実施可能
申請後には、要介護度を判定するために「訪問調査」が行われます。入院中の場合、病院で実施されます。
訪問調査の際は、ご家族も立ち合うことで、自宅の様子や入院前の生活についてス調査員の方にスムーズに伝えることができます。
また、可能であれば看護師やリハビリスタッフにも同席してもらうことで、身体状況やどのような退院後の生活が見込まれるかが伝わりやすいでしょう。
3.主治医意見書は退院後を見据えて
介護保険の認定には「主治医意見書」が必要です。病院の医師が記載しますが、「現在の病状」だけでなく「退院後の生活の見通し」も含めて記載してもらうと、より実態に合った認定につながります。
4.病院の相談窓口・地域包括支援センターを活用する
入院中に申請のサポートや今後の在宅生活について相談できるのが、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)や地域包括支援センターです。
病院の医療ソーシャルワーカーは医師や看護師などと連携して、退院後の生活設計(住環境整備、福祉用具、訪問サービスの導入など)について一緒に考えてくれます。介護保険申請や、介護認定が決定した後のケアマネージャー選定などもサポートしてくれる心強い存在です。
病院によっては、地域医療連携室など入退院の支援を行う専門の部署があり、ソーシャルワーカーや退院支援を行う看護師が在籍しています。
地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるように支援する公的な窓口です。市区町村が設置しており、主に65歳以上の高齢者とその家族を対象に、介護・福祉・医療・生活支援などに関する総合的な相談や支援を行っています。
「○○市 地域包括支援センター」などで検索すれば、お住まいの近くのセンターが分かります。
3. 事例紹介
入院をきっかけに介護保険申請を行い、環境を整えたことで退院後の生活を快適に送ることができた事例を紹介します。
事例①退院後の生活を支えるサービスの活用
70歳の女性が自宅で転倒し、股関節を骨折して入院。手術後、リハビリが必要となり、退院後の生活で歩行や日常生活の支援が必要とされました。
入院中に、医師から「退院後もリハビリが長期にわたる可能性がある」との説明を受け、家族は退院後の生活に不安を抱えていました。そこで、ソーシャルワーカーに相談し、入院中に要介護認定の申請を行うことを決定しました。
申請後、要介護認定が下り、退院後に必要なサービスを決定して退院。
退院翌日から訪問介護サービスによる、生活支援(食事準備、掃除、入浴のサポート)が開始されました。また、リハビリを継続するために、デイサービスも利用開始し、歩行訓練や体力向上を図りました。
入院中に介護申請を行い、退院後に備えて介護サービスを準備したことで
スムーズに退院後の生活を送ることができた事例です。
事例②訪問看護の導入による、在宅療養の支援
82歳の女性が冬に肺炎で体調を崩し入院。もともと糖尿病と高血圧の持病があり、入院前から通院・服薬を継続していました。肺炎自体は回復しましたが、入院による筋力低下や体調管理の不安があり、退院後の生活をどう支えるかが本人、家族の課題となりました。
家族が医療ソーシャルワーカーに相談。介護保険の申請を提案され、入院中に要介護認定の申請を行うことを決定しました。申請後、病棟内で認定調査が行われ、要介護1と認定が下りました。退院後から訪問看護を導入することに決まりました。
訪問看護では、バイタルサインのチェックや服薬管理、再発予防のアドバイスなどを受けながら、在宅療養を開始。医療的ケアの支援を得ることで、体調を崩すことなく生活することができました。
入院中に介護保険を申請し、必要な医療の支援体制を整えたことで、退院後も自宅での療養を続けられた事例です。
4. まとめ
親が入院した際、その後の生活が心配になるのは当然のことです。特に親が高齢の場合、退院後に、入院前と同じような生活を送ることが難しくなることもあります。入院を今後の生活を見直すタイミングと捉えましょう。入院中に介護保険を申請し生活の環境を整えることは、退院後に自宅での生活にスムーズに戻ることにつながります。訪問介護やデイサービス、ショートステイなど、親の状態に応じたサポートを受けることで、親の生活の質を向上させるだけでなく、家族の負担も軽減できます。介護保険を上手に活用し、入院中から退院後の準備を整えておきましょう。
次回は、どんな支援が受けられる?介護保険サービスと専門職の役割を分かりやすく解説をテーマに記事をお届けします。
<参考文献>
- 松川竜也(2024)『介護保険のしくみと使い方&お金がわかる本 介護サービスのトリセツ』株式会社ユーキャン学び出版
- 小林哲也(2024)『図解でわかる介護保険サービス』中央法規出版株式会社
この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。