厚生労働省が2023年9月に公表した「2022年の人口動態統計(確定数)」によると、がん(悪性新生物〈腫瘍〉)による死亡は、38万5,797人(男性が22万3,291人、女性が16万2,506人)で、死亡数の24.6%を占めました。
同年の肝臓がんによる死亡数は、男性が1万5,717人、女性が7,903人でした。
罹患率、死亡率ともにピーク時よりは減少傾向ですが、今も多くの方が命を落としているがんの1つです。
身近な人が肝臓がんと診断された、家族の中に肝臓がんで亡くなった人がいるという方も多いのではないでしょうか。
今回から5回にわたって、肝臓がんをテーマに記事を書いていきます。
第1回目は、肝臓の機能と役割について詳しく説明します。
この記事の目次
1.肝臓について
(1)肝臓の位置
成人の肝臓の重さは体重の約1/50の1000~1500gで、腹腔内で最大の臓器です。
腹腔とは、横隔膜の下から骨盤までの範囲です。肝臓は血流が多く柔らかい臓器で、腹腔内の上側にあります。肝臓は右側が大きく、サイズの小さな左側は胃に接しています。
肝臓は肋骨に囲まれているので、基本的には体の外から肝臓を触ることはできません。体の外からの衝撃によって肝臓に傷がつくと致命的な大出血になるため、進化の過程で損傷を受けにくい場所に納まったと考えられます。
(2)肝臓の特徴
肝臓には2種類の血管が通っています。
- 肝臓に酸素を運ぶ肝動脈です。
- 身体に必要な物質を作るための材料(消化管から吸収した栄養素)を運ぶ門脈
2本とも太い血管で、肝臓に多くの血液を運んでいます.
肝臓は再生能力が高く、健康な肝臓であれば手術で切除をしても、数カ月で元に戻ると言われています。
血流が多く、再生能力や代償能力(ある機能を失っても他の部分が不調を補う能力)が強いため、肝臓の機能が低下していてもあまり症状としてあらわれません。
そのため、肝臓の病気は検査で指摘されるまで見つからないことも多く、「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
消化器のなかで一番大きな臓器である肝臓は、様々な機能を持っています。
以下で、肝臓の機能を説明します。
2.肝臓の機能
肝臓のおもな機能
順番に解説していきます。
- (1)代謝・貯蔵
-
私たちは食べものを、そのままの形では栄養素として取り込むことはできません。
食べ物は口を通った後、胃や腸で栄養素に分解されます。その後、分解された栄養素は門脈を通って肝臓に運ばれます。肝臓では運ばれた栄養素を体内で利用できる形に変更し貯めておきます。このように体の中で、物質を変化させるさまざまな化学反応のことを代謝と呼びます。
そして、貯蔵したものを必要時に血流を介して体の各所に供給します。
次に、3種類の主な栄養素である、タンパク質・糖・脂質が肝臓の中でどのように代謝されるのかを説明します。
- タンパク質(アミノ酸)
食べ物の中のタンパク質は、消化器官を通ってアミノ酸に分解され、腸から吸収されます。その後、門脈を通って肝臓へ運ばれます。肝臓では、血液を固める働きに関わるタンパク質やアルブミン(血液内の大半を占めるタンパク質)など重要な役割をするタンパク質に作り替えて、必要な時に使うことができるように貯蔵されています。
- 糖
腸で吸収された糖類は肝細胞の中でグルコースに変換されます。さらに肝細胞はグルコースからグリコーゲンを合成して肝臓の中に貯蔵します。血糖値(血中グルコース濃度)が下がると、肝臓でグリコーゲンを分解しグルコースを血中に放出することで血糖値を保ちます。
- 脂質
肝臓では、腸から吸収された脂質を、細胞の外側を囲む細胞膜の成分であるコレステロールやリン脂質に作り替えます。また、すぐには使わない栄養素を脂肪として合成し、蓄える機能もあります。そのため、必要以上のエネルギーを摂取すると肝臓に脂肪が多く溜まり、肝臓機能の低下の原因になります。
- (2)分解・解毒
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肝臓の2つ目の機能は有害物質の分解と解毒です。
肝臓は、代謝の際生じる体に有害な物質(アンモニア)や私たちが摂取した物質(アルコールや薬剤など)を、分解し毒性の低い物質に変えます。分解・解毒された物質は、尿や胆汁に混ざって体の外に排出されます。
そのため、必要以上にアルコールなどを摂取すると肝臓の分解・解毒機能が追い付かず肝臓に負担がかかり体内にも有害物質が貯蔵することになります。
次に、アンモニア、アルコール、薬物がどのように分解・解毒されるかを説明します。
- アンモニア
アンモニアは、タンパク質がアミノ酸に分解され、さらにアミノ酸が分解される際に生成されます。アンモニアは人体にとって有害です。
生成されたアンモニアは肝臓で無害な成分に変換された後に尿中に排泄されます。肝臓の機能が低下し、アンモニアが分解されずに体にたまると肝性脳症などを引き起こし、最終的には昏睡に至る可能性もあります。
- アルコール
経口摂取されたアルコールは胃や腸から吸収され肝臓に運ばれます。
肝臓で、酔いを引き起こす物質であるアセトアルデヒドを経て、最終的に水と二酸化炭素に変換され体の外に排出されます。
- 薬物など
肝臓は薬物に含まれる有害物質を分解し、無毒化して尿中に排泄します。
一度に分解できる量は限られているため、薬物の過剰摂取は肝臓に負担となります。
- (3)胆汁の生成・分泌
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肝臓の3つ目の機能は、胆汁の生成と分泌です。
胆汁は肝臓で生成された後、胆のうに貯蔵され必要なときに分泌されます。胆汁は脂肪を消化し脂質の吸収を促進する消化液であり、肝臓の解毒作用と協力し老廃物を体の外に出す働きも担っています。
3.肝臓の役割
肝臓のおもな機能を3つ紹介しました。
この他にも肝臓は、免疫機能などにも関わっています。
肝臓では解明されているだけで500以上の化学反応を行っています。そのため、肝臓は「人体の化学工場」の役割を果たしていると言われています。肝臓と同じはたらきをする化学工場は科学的には作ることができておらず、人工肝臓は開発されていません。
4.まとめ
肝臓は私たちが生きていく上でとても重要な役割を担っています。
肝臓が正しく機能できるように心がけて生活をすることは、私たちが健康で過ごすために必要なことです。
暴飲暴食をすると、肝臓の仕事量が増え負担がかかります。
肝臓を大切にすることに繋がる行動
- 食事は、腹八分目を心がけるたりアルコールを控えること
- 適度な運動と睡眠を確保することも効果的
忙しい日々の中で、分かっていてもなかなかできないということも多いと思います。
まずはこの記事を通して、肝臓の機能や肝臓の重要性を理解するきっかけになれば幸いです。
次回以降は、この人体にとって重要な肝臓に発生するがんである、肝臓がんについて解説していきます。
<参考文献>
①厚生労働省,令和4年(2022年)人口動態統計(確定数)の概況、第7表(2024年8月2日利用)
②がん情報サービス,がん種別統計情報 肝臓
③阪本良弘、山本夏代(2022)『解剖生理も、最新の治療も、患者ケアも 決定版!ぜんぶ知りたい肝・胆・膵』株式会社メディカ出版
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この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。