肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、疾患があっても症状が表れにくい臓器です。
そのため健康診断や人間ドックなどで異常を指摘されて、初めて肝臓を意識する方も多いといわれています。
症状がある場合はすでに肝臓がんの進行の可能性があるため、定期的な検診や早期の受診が重要です。
今回は肝臓がんと肝臓がんに関連した症状について説明します。
この記事の目次
1.肝臓がんとは
肝臓がんとは、肝臓に発生するがんの総称で「肝がん」と言われることもあります。
肝臓がんは「原発性肝がん」と「転移性肝がん」の2種類に分かれます。
原発性肝がんは肝臓内にできるがんで、転移性肝がんは他の臓器にできたがんが肝臓に転移したものです。
また、原発性肝がんには2種類あります。
- 肝細胞にできる「肝細胞がん」
- 胆管細胞にできる「胆管細胞がん」
原発性肝がんの大部分は肝細胞がんといわれています。そのため、一般的には「肝臓がん」とは「肝細胞がん」のことを意味します。
原発性肝細胞がんの約75%はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎から慢性肝炎、肝硬変を経て起こります。
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染している人は、肝臓がんになりやすいといわれていますが、必ず肝臓がんが発症するわけではありません。肝炎から肝臓がんに移行するには約30年程度かかるともいわれています。
2.肝臓がんの特徴
肝臓がんの特徴
- 男性で高齢者に多い
- 肝臓の中に複数できる
- 他の臓器への転移が少ない
- 再発する可能性が高い
- 症状が表れにくい
順番に解説していきます。
(1) 男性で高齢者に多い
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、2019年の国内における肝臓がん(肝細胞がんおよび肝内胆管がん)の罹患数(新たにがんと診断された数)は37,296例(男性25,339例、女性11,957例)であり、男性が女性の約2倍以上多いことが示されています。
なお、年齢階級別にみた肝臓がん(肝細胞がんおよび肝内胆管がん)の罹患数(全国推計値、2019年)によると、男性は45歳頃、女性は55歳頃から増加傾向がみられ、男性では85~90歳でピークを迎えることが示されています。
肝臓がんは女性より男性がなりやすく、高齢者に多いがんと言えます。
(2) 肝臓の中に複数できる
肝臓がんは、肝臓内に複数できることが少なくありません。がんの大きさや数は治療方法を決める因子の1つになります。
(3) 他の臓器への転移が少ない
肝臓がんは、他の部位にできるがんに比べ他臓器へ遠隔転移を起こすことが少ないと言われています。
進行がんになると肺やリンパ節、副腎、脳、骨などに転移する可能性もあります。
(4) 再発する可能性が高い
肝臓がんは他のがんに比べて他臓器への転移が少ないですが、肝臓内で何度も再発するという特徴があります。それは手術でがんを切除しても肝炎や肝硬変が解消していないことがあるからです。
肝臓がんは、切除術後2年以内に約70%の確率で再発するといわれています。
(5) 症状が表れにくい
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれており、症状がほとんど表れません。
肝臓は損傷を受けても再生する力が強く、何らかの影響で機能が低下しても他の機能を代償します。
そのため、肝臓に炎症などのトラブルが起きても症状が表れにくいのです。
3.肝臓がんの症状
肝臓は再生能力が高いため、疾患が進行するまで目立った自覚症状がありません。
また、肝臓がんを患っている人は、肝炎や肝硬変を経て肝臓がんが発症することが多いです。
そのため、肝臓がんに特有の症状だけではなく、肝臓の機能低下に伴う様々な症状が発症する可能性があります。
肝臓がんの症状を段階に分けて紹介していきます。
- 1)初期症状
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肝臓がんの初期に出現しやすい症状には、以下のようなものがあります。
- 上腹部の痛み
- 胃のあたりの不快感
- おなかの張り
- 食欲不振
- 吐き気
- 微熱が出る
- 脂っぽいものが食べられなくなる
- 急にお酒が飲めなくなった(飲みたくなくなった)
以上の症状は、慢性疲労や風邪の症状にも似ていて、必ずしも肝臓がんに直結する症状ではありません。
しかし、人体の化学工場と呼ばれる肝臓の機能が低下すると、食べたものから栄養を取り込む力(代謝)や体内に溜まった不要なものを分解・解毒する能力が低下します。
そのため、上記のような「なんとなく調子が悪いな」と感じる症状をきっかけに肝臓がんが見つかることもあります。
- 2)進行後の症状
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さらに、肝臓がんが進行すると次のような特徴的な症状が表れてくることがあります。
- 全身の肌や白目の部分が黄色くなる(黄疸)
- 尿が濃い黄色(褐色)になる
- 便の色が薄くなる(白っぽくなる)
肝臓の機能が低下すると、血中にビリルビンという色素が増加し、皮膚や尿の黄色が濃くなります。ビリルビンの大部分は通常は、便の中に排泄され便に色をつけています。そのため、肝機能の低下により便の色が薄くなることがあります。
ビリルビンは皮膚の末梢神経を刺激してかゆみを引き起こすため、黄疸の出現とともにかゆみも生じることがあります。
- 手のひらの周り、親指や小指の付け根が赤くなる(手掌紅斑)
- 首や背中、胸、肩など、上半身にクモの足のような形の赤い斑点が出る(クモ状血管腫)
- 男性でも乳房がふくらんでくる(女性化乳房)
肝硬変になるとよく見られる症状です。肝臓はホルモンの分泌にも関わっています。
肝機能の低下により女性ホルモン(エストロゲン)の働きに異常がでることがあります。エストロゲンは末梢の血管を広げる作用があるため、肝機能が低下すると上記のような症状が起こることがあります。
- 出血しやすくなる、血が止まりにくくなる
肝臓は血液を固めるタンパク質の大部分を生成しています。そのため、肝臓の機能が低下すると出血しやすくなり、血が止まりにくくなることがあります。
- こむらがえりがよく起こる
こむらがえりとは、主にふくらはぎの筋肉が異常に収縮し痙攣を起こすことを言います。
こむらがえりの原因の1つに電解質異常があります。肝臓は電解質の代謝にも関わっているため、肝機能の低下によりこむらがえりが頻繁に起こることがあります。
- 3)肝臓がんの末期
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肝臓がんがさらに進行し末期になると、著しい体重減少や黄疸、腹水、むくみ、疲労感のほか、腹痛や下痢などの様々な症状が見られるようになります。
さらに、肝臓の解毒・分解機能が低下することで、脳の神経が有害物質によって障害され「肝性脳症」と呼ばれる症状が出現することもあります。
肝性脳症を引き起こすと認知症のような状態になり、昏睡状態に陥ってそのまま命を落とす可能性あります。
4.まとめ
今回の記事では、肝臓がんの特徴と肝臓がんの症状について説明しました。
肝臓は人体の化学工場と呼ばれ、人体で行われる栄養の代謝・貯蔵、有毒物質の解毒・分解などの大部分を担っています。
そのため、肝臓が障害されると様々な不調が引き起こされます。初期の頃は風邪症状に似た症状が起こるため、たいしたことはないと見過ごされることも多くあります。
しかし、症状が悪化したときにはすでに肝機能が低下し、肝臓がんが進行している可能性があります。
沈黙の臓器である肝臓を守るためには、定期的な検診と異常の早期発見・早期治療が大切です。
今回の記事が、皆さんの肝臓への意識の変化に繋がると幸いです。
次回は肝臓がんの診断方法と治療について解説します。
<参考文献>
(1) 国立研究開発法人国立がん研究センター、がん情報サービス、肝臓がん(肝細胞がん)患者数(がん統計)
(2) 阪本良弘、山本夏代(2022)『解剖生理も、最新の治療も、患者ケアも 決定版!ぜんぶ知りたい肝・胆・膵』株式会社メディカ出版
(3) 高橋秀雄(2022)『患者のための最新医学 肝炎・肝硬変・肝がん』株式会社高橋書店
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この記事を書いた人
清水千夏
<プロフィール>
看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。
現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。