目次

看護師が解説!肝臓がん④肝臓がんの診断方法と治療

前回の記事では、肝臓がんの特徴と肝臓がんの症状について解説しました。

肝臓がんはどのように診断され、どんな治療法があるのでしょうか。
今回は肝臓がんの診断方法と治療について説明します。

この記事の目次

1. 肝臓がんの診断の重要性

ポイント

肝臓がんの治療方法は肝臓の機能の状態やがんの進行度によって決まります。
そのため、肝臓がんの状態を正しく診断することはとても重要です。

肝臓は病気が進行するまであまり症状が出ないことから、沈黙の臓器と呼ばれています。
気が付いたときには病気が進行しているという場合もあります。

健康診断で肝機能検査の数値を指摘された、気になる自覚症状がある場合は、すみやかに医療機関を受診することをおすすめします。
早期の受診は、早期の診断・治療につながります。

2.肝臓がんの診断方法

血液検査

肝臓がんの診断のための検査は、一般的に、以下のような流れで行われます。

問診・視診・触診→血液検査・尿検査など→画像検査や生検など

最初に問診と視診、触診などを行います。その後、肝臓がんかどうかのスクリーニング(ふるいわけ)のために血液検査や尿検査などを行います。そして確実な診断のために画像検査を行います。

それぞれの検査について解説していきます。

(1)問診・視診・触診

問診自覚症状や病歴、飲酒などの生活習慣、服用している薬、過去の輸血や海外旅行の有無、家族の病歴などを聞かれます。
視診皮膚の色など、体の状態を目で見て確認します。黄疸や血管腫、手掌紅斑など肝臓疾患に関連したがないかチェックします。
触診視診と同時に行います。お腹が腫れていないかなど手で触って確認をします。

(2)血液検査

血液検査は、肝臓がんの診断のために必ず行う検査です。
肝機能や腫瘍マーカーなどを確認します​。
採血は、主にスクリーニングのために行われます。採血結果のみで診断を確定することはできません。

肝臓の状態を把握するための血液検査の項目は20種類以上あると言われています。

代表的な検査項目

  • AST(GOT)/ALT(GPT)
  • γ-GPT
  • ALP
  • 総ビリルビン
  • 腫瘍マーカー
AST(GOT)/ALT(GPT)

タンパク質を作るために必要な酵素の1つです。
主に肝細胞に多く含まれています。(特にALTは肝細胞に多く含まれる)

γ-GPT

タンパク質を分解する酵素の1つです。
肝機能に異常がある、胆汁の流れが悪くなると血液中の値が上昇します。
γ-GTPはアルコール摂取に反応して高くなるため、γ-GPTのみが高い場合は、飲酒が原因の肝障害か、膵臓の病気(膵炎や膵臓癌)が考えられます。

ALP

肝臓など多くの臓器に含まれるリン酸化合物を分解する酵素
肝臓のALPは胆汁に排出されるので、肝臓や胆道の病気で胆汁の流れる経路に異常が起きると高値になります。

総ビリルビン

ビリルビンは胆汁に含まれる成分の1つです。
肝機能の異常や胆管が詰まって狭くなり胆汁の流れが悪くなると、血液中にビリルビンが増えます。
血液中にビリルビンが増えると黄疸が出現します。

腫瘍マーカー

がんが体内にできると、特殊なたんぱく質や酵素、ホルモンなど様々な物質が血液中に放出されます。
これらの物質はがんができた部位やがんの種類によって異なるため、がんの有無を推測することができます。このような物質を腫瘍マーカーと言います。

肝臓がんで用いられる代表的な腫瘍マーカーは、3種類あります。

  • AFP
  • AFP-L3
  • PIVKA-Ⅱ

腫瘍マーカーはがんが大きくなるほど数値が高くなりますが、早期のがんではあまり高くなりません。また、がんでない場合でも数値が高くなることがあるので、がんの有無を示す決定的な指標にはなりません。

(3)画像診断

確実な診断のためには、画像診断が欠かせません。
代表的な画像検査には、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査などがあります。

超音波(エコー)検査

体の外から超音波をあて、跳ね返ってくる超音波の信号を画像化して臓器や組織の状態を調べる検査です。
放射線の被爆や造影剤合併症などのリスクがなく、他の検査より安価な検査です。
まず超音波検査を行い、腫瘤が確認される、採血結果の異常や腫瘍マーカーの高値を認めた場合、CTやMRIによる精査が追加されます。

CT検査

コンピューター断層撮影といい、X線で撮影した画像データをコンピューターで処理し、体を輪切りにした断面図を描き出します。
体の奥深くにある臓器やリンパ節など、超音波検査では見えにくい部位も見ることができます。
肝臓がんの確定診断のためにもっとも多く用いられている検査法です。

MRI検査

磁気共鳴画像検査といい、X線のかわりに強力な電磁波を使って体の断面図を画像化する検査です。
あらゆる角度から撮影することができ、体の奥の見えにくい場所の病変や微細な病変もうつし出すことができます。
放射線被爆の心配がないので、CT検査より安全性が高いですが、ペースメーカーなど体内に金属が埋め込まれている場合は行うことができません。

血管造影検査

カテーテルと言われる細い管を血管に挿入し、造影剤を入れてX線撮影することで、血管や腫瘍などを詳しく調べることができる検査です。
カテーテルを体に入れるため、他の検査に比べ、体に負担がかかります。ある程度がんの診断が確定してから行われます。

(4)組織検査(生検)

肝臓がんを疑う病変がある場合、皮膚の上から針を刺して肝臓の組織を取り出し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認します。
肝臓の組織を直接目で観察できるので、もっとも確実な検査方法と言えます。
 
このように、肝臓がんの診断のためには様々な検査を行います。
まず肝臓がんかどうかのスクリーニングを行います。
そして肝臓がんの可能性が高い場合はさらに詳細な検査を行い確定診断します。
どの検査を行うかは、人によって、また医療機関によって異なります。

3. 肝臓がんの治療法

医師からの説明

肝臓がんの治療法は、がんを外科的に切除する肝切除術、がんを焼き切る焼灼療法や、塞栓療法、化学療法などがあります。
どの治療法が適切かは、肝機能の状態、肝臓がんの進行度、転移の有無によって異なります。

(1)外科手術

肝切除術

肝切除術は、お腹を切って肝臓がんを取り除く手術です。

がんが1個または少数であまり進行しておらず、肝機能が良好な場合に行われます。
肝機能が低下している場合に肝臓を切除すると、肝機能がさらに低下して状態を悪化させる危険性があります。
がんが小さく、肝臓の表面に限られている場合は、腹腔鏡というカメラを使って、腹腔鏡下肝切除術を行うこともあります。お腹を切らずに数か所小さい穴をあけて、そこから専用のカメラ(腹腔鏡)と手術器具を入れてモニターを見ながら行う手術です。
お腹を切る手術に比べて傷が小さく済むため、体への負担は小さくなります。 

肝移植

肝移植は末期の肝不全の場合に検討される手術です。

肝がんが進行すると黄疸や腹水、浮腫、肝性脳症、食道・胃静脈瘤などの症状が出てきます。
その状態では、薬での治療が困難なことが多く、末期の肝不全の患者さんにとっては肝移植が唯一の治療方法となることがあります。肝移植には脳死状態の人の肝臓をもらう「脳死肝移植」と健康な人の肝臓をもらう「生体肝移植」の2つがあります。
肝臓は再生能力があるため、ドナーとして肝臓を提供しても肝臓の機能は回復します。

(2)焼灼療法

ラジオ波焼灼療法(RFA)
ラジオ波という電磁波による熱でがん組織を凝固させる治療法です。 
お腹から細い針を差し込み、がんまで到達したら高周波のラジオ波を流してがん組織を焼き固める治療法です。

ラジオ波治療では1回の治療で2~3㎝の大きさのがんを焼き固めることができます。
がんの大きさが3㎝以下であればラジオ波治療で高い確率でがんを焼き切ることができると言われています。
がんが大きくラジオ波焼灼治療だけ治療できない場合も、他の治療方法と組み合わせて行う場合もあります。

(3)塞栓療法

肝動脈塞栓療法(TACE)
肝臓がんに栄養や酸素を送る動脈(肝動脈)にカテーテルを入れ、抗がん剤と塞栓物質を注入して薬剤でふたをすることで、がんを壊死させる治療法です。

肝臓がんは主に肝動脈から栄養を供給されています。正常の細胞は約80%が門脈から、約20%が肝動脈から栄養を供給されています。そのため肝動脈を閉塞させても正常の細胞はそれほど影響をうけません。
手術よりは負担の小さい治療法ですが、1週間ほど入院が必要です。

(4)化学療法

化学療法は、部分的に抗がん剤を投与する肝動注化学療法(TAI)全身投与の化学療法に分けられます。

肝動注化学療法(TAI)

肝臓がんに栄養や酸素を送る動脈(肝動脈)にカテーテルを入れ、高濃度の抗がん剤を注入する治療法です。
全身に抗がん剤を投与するよりも、抗がん剤の量を減らすことができるので副作用が少ないと言われています。

全身投与の化学療法

肝切除やラジオ、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などが行えない進行性の肝細胞がんで、肝機能に余裕がある場合に選択肢となる抗がん剤治療です。
抗がん剤によって、飲み薬や点滴など形態が異なります。

4.まとめ

看護師

肝臓がんの診断方法と治療法を解説しました。
どのような検査を行うか、どのような治療法が適応になるかは人それぞれ異なります。肝臓がんの状況や肝臓の機能、または患者さん自身が治療後にどのような生活を希望するかなどにもよるからです。

1人1人に合った選択ができるように、主治医や看護師などの病院スタッフ、家族などと話し合いをしながら決めていくことが大切です。

また、肝臓がんは再発しやすいという特徴があります。治療を終えた後も、定期的な検診を受けて、万が一再発があっても早期発見につとめることが重要です。肝臓がんが再発した場合も肝臓の機能を維持することができていればどの治療法も繰り返し行うことができます。

この記事が、検査や治療を受けるときの参考になれば幸いです。

次回は、肝臓がんの療養中に気を付けることについて解説していきます。

<参考文献>
1)国立研究開発法人国立がん研究センター、がん情報サービス、肝臓がん(肝細胞がん)治療(がん統計)
2)阪本良弘、山本夏代(2022)『解剖生理も、最新の治療も、患者ケアも 決定版!ぜんぶ知りたい肝・胆・膵』株式会社メディカ出版
3)高橋秀雄(2022)『患者のための最新医学 肝炎・肝硬変・肝がん』株式会社高橋書店

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この記事を書いた人

清水千夏
<プロフィール>

看護師経験15年(大学病院9年、訪問看護4年)
大学病院で、急性期(消化器外科、心臓血管外科、HCU)から退院支援部門まで幅広く経験を積む。その後、訪問看護ステーションに転職。

現在は立ち上げから関わっている訪問看護ステーションで勤務。0歳から100歳まで様々な年齢の方を対象に、住み慣れた自宅で暮らし続けるための支援を提供している。

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