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看護師が解説!軽度認知症②記憶と言葉からみる認知症
認知症の初期に、新しいことが覚えられない、言葉が出にくくなるといった症状があるのをご存じの方は多いのではないでしょうか。 しかし物忘れや言葉がでにくいことは、…
誰でもあたまが働かない時があります。
認知症になると、頭が働かなくなると言われています。しかし認知症の頭が働かない時、それ以外の頭が働かない場合は何が違うのでしょうか?
いつも自分でできる事がうまくいかない、家族の様子かおかしいけど何がおかしいのかよくわからない。認知症かもしれないけど何か違うといった疑問を持っている方にとって、何が起きているのか、どうしたら良いのか、違いと原因についてお伝えします。
この記事の目次
1.頭が働かない時とはどんな時?
頭が働かないなと、思う時は誰しもあります。
頭が働かないと表現する時って、一体どんな時でしょうか。
- 集中力が続かない
- なかなか決められない
- 頭に靄がかかったよう
- 注意力が続かない
頭が働かないという時は、脳と中枢神経系の働きが低下していると考えられています。
そのため、脳や中枢神経の病気である認知症と、似た症状が出現します。似た症状であっても、認知症ではない場合もあります。
判断力の低下を表す言葉の一つにブレインフォグという言葉があります。コロナウィルス関連のニュースで聞いたことがあるかもしれません。
「ブレインフォグ」とは
「頭の霧」という意味で、主に頭の中に霧やモヤがかかったような状態を意味します。思考がぼんやりとしてしまい、考えることや集中できない状態を指します。様々な原因により起こると言われ、はっきりとした仕組みは未だ解明されていません。
ブレインフォグでも軽度認知症に似た記憶障害や集中力の低下がみられ、新しい症状でもあるため区別が難しいです。
2.認知症でおこる判断力の低下
認知症でおきる頭が働かかない状態とは、具体的には次のような症状があります。
(1)見当識の障害
時間や場所、人物など周囲の状況を正しく判断できなくなります。
今日は何月何日か。未来の何時に何を予定しているか。今の季節は何か、季節に合った服装や、状況に合った服装は何か(夜寝る時に着る服、出勤する時に着る服などの判断)。
見当識が低下すると、場所や方向、移動してきた時間の経過が分からなくなり、道に迷いやすくなります。
(2)複雑性注意の障害
(注意力を維持したり、振り分けたりする能力)
テレビを見ながら会話するなど、複数の刺激がある状況で、注意力を維持することが難しくなります。
(3)実行機能の障害
(計画を立て、適切に実行する能力)
実行機能は段階に分けることができます。今回は夕食を作ること例に挙げて説明します。
- ①目標設定
-
夕飯に間に合うように食事を作る
- ②計画立案
-
メニューやレシピを確認、時間配分を考え、必要な材料を必要な量だけ用意する
- ③計画実行
-
実際につくります。出来上がり時間を考えて、煮物をしながら、別の材料を切る
- ④効果的遂行
-
材料を間違えて買っても、別のメニューに切り替える。他の材料で代用するなど臨機応変な対応
(4)社会的認知の障害
(人の気持ちに配慮したり、表情を適切に把握したりする能力)
話している相手が喜んでいるか、困っているかといった感情の判断や相手の正確を理解する、対人関係の認知機能です。この機能が低下すると、相手や状況に配慮した行動が難しくなります。
例えば、会話の流れを理解できず関係の無い話を始めてしまう。集団で行動する時に、一人別の事を始めてしまう。また、思い通りにならない時、相手の状況が理解できず、怒り出してしまうといった、状況に合わない行動をする場合がみられます。
また、危険かどうかの状況理解も困難になってきます。例えば、横断歩道の無い幅の広い道路を横断する時、状況を理解の理解や判断が難しいので、車が近づいているのに横断し始めてしまうといった行動がみられます。
3.認知症ではないけれど似た症状が出る時
(1)睡眠不足
十分な睡眠時間が確保できないと、脳の働きが低下し、集中力、記憶力、判断力の低下、意欲低下などを起こします。
睡眠不足は昼間の眠気や全身倦怠感、認知機能低下、集中力低下、不安、イライラ、抑うつ感、肥満、糖尿病、高血圧などの生活習慣病や癌、認知症の誘因、増悪因子となります。
(2)うつ
うつ病になると、集中力や思考力、判断力、記憶力が低下することがあります。
認知症と類似た症状がみられます。うつ病と認知症の違いは、うつ病はある程度症状が出始めた時期が分かることが多いです。
アルツハイマー型認知症は発症や症状の進行がゆっくり進みますが、うつ病は急速に進行し、症状が変化します。
うつ病の患者は、物わすれを自覚していますが、認知症の患者には取り繕い行動がみられるという違いがあります。
うつも認知症も本人は異変に気づきにくい場合があるので、ご家族や身近な人が声をかけ、早期に受診を勧める必要があります。
(3)せん妄
せん妄は突然発生する精神機能の障害で、さまざまな原因でおこります。
手術後におきる術後せん妄がよく知られています。せん妄は入院中の高齢者によくみられますが、若い人にもおこります。入院前までは問題なく生活し、認知機能も正常だった人が、会話が難しくなったり、病院内で騒いだりすることがあります。
せん妄では、興奮したり、幻覚をみたりすることが多く、物忘れから始まる認知症との違いがみられます。数日から数週間で症状が改善することが多いです。他の病気が影響していることがあるので、もともとの病気や内服している薬の確認が必要になります。
(4)薬の影響
普段服用している薬により、認知症に似た症状が起こる場合があります。
降圧剤、抗コリン薬(気管支を拡張し喘息時の呼吸を楽にします)、抗精神病薬、睡眠導入剤などの影響で生じる、せん妄や意欲の低下、記憶力の低下がみられることがあります。
(5)アルコールの多飲
お酒を飲むと、血中アルコール濃度が高くなるため中枢神経が麻痺し、運動機能、認知能力、状況判断力や集中力の低下がみられることがあります。
(6)身体疾患
- ①感染症
-
脳や神経などが、菌やウィルスに感染すると、中枢神経系感染症と呼ばれる状態になります。熱や吐き気といった症状に加えて、精神症状、言動がいつもと違う、ぼんやりしているといった認知症に似た症状が出現することがあります。
- ②甲状腺機能低下症
-
甲状腺はのどの下あたりにある臓器です。甲状腺ホルモンというホルモンを作り、体の働きを活発にする役割をしています。甲状腺ホルモンが少なすぎると、代謝が低下し、脳の働きが低下します。そのため、思考力低下・記憶障害といった認知症と似た症状が出現します。
- ③脱水
-
脱水症になると、心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高まると同時に様々な症状が出現します。
喉の渇きや、吐き気、けいれんの他、意識がもうろうとすることがあります。この時、判断力や集中力は低下し、認知症に似た症状がみられることがあります。
(7)脳外科的疾患
- ①慢性硬膜下血種
-
脳を包む膜(硬膜)と脳の間に血が溜まり起きる病気です。
頭を打つなどの外傷が原因で起きます。血の塊が大きくなると、徐々に認知症に似た症状がみられることがあります。
- ②正常圧水頭症
-
人間の脳は、ちょうどお豆腐が水に浮いてパックされているように、頭蓋骨の中で脳脊髄液に浮いています。この脳脊髄液の水圧は一定に保たれていますが、流れが悪くなり水圧が高くなることがあります。それが正常圧水頭症です。脳脊髄水が脳を圧迫するので、物忘れなどの認知症に似た症状が出現することがあります。
4.原因が分からないけど頭が働かない時はどうしたら?
頭が働かない状況には、軽度認知症と認知症、その他の疾患が原因となる場合があります。
頭の働きは脳や神経の機能に結び付いているので、複雑な症状になりやすく、他の病気と間違いやすいです。
鑑別や分類は難しいので、見分けるには様々な検査や医師の診断が必要です。持病がある方は普段の状況をよく知っている、かかりつけ医に相談すると良いでしょう。
また、普段から体調管理を心がけ、規則正しい生活と、適度な運動、栄養の偏りに注意しましょう。
日常生活が改善されると、それだけで認知症リスクは軽減します。
5.まとめ
「頭が働かない」という状況でも、種類や原因で大きな違いがあります。
治療することで、改善し元の生活に戻ることができる場合があります。放置していると、状況が悪化し治療が難しくなることがあるので、気軽に受診してみるのも良いと思います。
受診しても状況が変わらない時は、セカンドオピニオンや、別の診療科を検討してみるのも良いでしょう。
この記事が、状態が改善し、楽しく生活する助けになれば幸いです。
<参考文献>
「認知症の鑑別診断」 山崎 峰雄 日本医科大学神経内科学
「睡眠障害と認知機能およびQOL」内村直尚 久留米大学
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この記事を書いた人
内田好音
<プロフィール>
介護福祉士5年、看護師9年。
整形外科急性期、回復期病棟、療養病棟を経験。
認知症高齢者や障害児者のケアを通じ、生活に根差したケアの大切さを知る。
自分も癌になった経験から心と体両方のケアを行いたいと思っている。
現在は認知症ケアと障害児の生活援助についての活動を行っている。