認知症は誰もがなる可能性がある病気ですが、誰もがなりたくないと感じています。その理由は、今までの経験や知識、自分自身が消えてしまうような恐怖感が考えられます。
認知症になると一体何が変わり、何ができるのでしょうか。認知症になったら自分がどうなるかわからないという不安が少しでも減れば、認知症に向き合い、変化を受け入れ生活の仕方を考えていけるのではないでしょうか。
認知症になりたくない、軽度認知症に自分がなってしまいそうだと感じている方、家族が認知症と診断されたけど、何が起きるのか不安な方にとって、生活がどう変化しどのように変化していくか、そしてどう対応したら良いかをお伝えします。
前回の記事
看護師が解説!軽度認知症③頭が働かないのは認知症?
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この記事の目次
1.認知症に対するイメージ
平成元年度世論調査『「認知症に関する世論調査」の概要』内閣府政府広報室によると、認知症になったとしたら、どのように暮らしたいと思うか聞いたところ、元の暮らしを維持したいと考えている方の割合は以下の通りです。
認知症になっても、できないことを自ら工夫して補いながら、今まで暮らしてきた地域で、今までどおり自立的に生活していきたい | 12.9% |
認知症になっても、医療・介護などのサポートを利用しながら、今まで暮らしてきた地域で生活していきたい | 28.9% |
つまり全体の4割がなんとか元の暮らしを維持したいと考えている事が分かります。
同調査内で、認知症に対する不安(本人自身)に認知症になったとしたら、どのようなことに不安を感じているのか
家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」を挙げた者の割合が と最も高く、以下、「 | 73.5% |
家族以外の周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか | 61.9% |
家族や大切な思い出を忘れてしまうのではないか | 57.0% |
買い物や料理、車の運転など、これまでできていたことができなくなってしまうのではないか | 56.4% |
このことから、認知症になっても元の生活に近い状態で暮らしたいが、家族に負担をかけるのが不安であるという事が分かります。
認知症になるとどのような負担が生じるか、どのように暮らせば良いか対応方法を知ることで、不安の解消につながるのではないでしょうか。
2.衣類に関する変化
(1) 衣類に関する認知機能低下
- 何時着替えたか分からない、衣類に汚れが目立つ
- 季節に合った衣類を着用しなくなる
- 着替えた衣類の片づけができなくなる
衣類の管理、洗濯や衣類を畳む、箪笥に仕舞うといった行為が難しくなる
- 状況や季節に合わせた衣類着用できない
夏に厚着をして脱水症状になる、冬に薄着して風邪や肺炎になるなど。
- 汚れたままの衣類がそのままになっていて、洗濯されない。
このような状況には、自分では身なりを整えたいのだが、洗濯機の使用方法が分からなくなってしまったので、仕方なく汚れたままの衣類を着用している。といったケースや、着替える動作はできるが、衣類をどこに仕舞ったか分からなくなってしまった。といったケースも含まれます。
そのため、何が原因でこのような状況に至ってしまったかの分析が必要になります。
(2) 対応方法
- 何時着替えたか分からなくなる場合は、1日1回着替える事を決め、着替えを指定の場所へ用意する。
- 着替えた後の衣類は指定された場所へ保管するといった事を決める。
- 声掛けや見守りをすると行動が定着し、混乱せず衣類を整えることができる場合があります。
また、現在が何月何日かわからない、季節がわからないといった場合は、家族やヘルパー等が季節ごとの衣類の入れ替えを介助すると良いでしょう。
洗濯の方法が分からなくなってしまった場合は、洗濯機の操作を介助する、単純な操作で使用できる洗濯機にする、業者に洗濯を依頼するといった対応で改善する場合があります。
片付けに関しても、一緒に洗濯物を畳む。衣類を片付けやすいように、収納場所に名前等を書いて印をつけるといった方法もあります。
3.食事に関する変化
(1) 食事に関する認知機能低下
- 食事の時間や食べた事を思い出せなくなる
低栄養状態になり免疫力低下する
- 食事内容を覚えていられないので、同じ物を繰り返し食べるようになる
栄養状態の悪化・糖尿病・高脂血症等の原因になる
- 食事の材料の管理ができない
自宅に食料がどれだけあるのか覚えていられないので、不要な物を買ってくる。冷蔵庫内などがいっぱいになり、賞味期限内に処理しきれなくなる。
- 料理をしない場合、弁当や総菜などを買ってくる
買ってきた物の賞味期限の判断が困難になるので、腐ってしまうことがある。
腐ったものを食べる可能性がある。食中毒、脱水症状のリスクがある。
- 調理自体ができない
刃物・火器の扱いが困難になるため怪我のリスクが高くなる。
調理で使用した器具の後片付けが困難になる。
調理で使用した食器類の洗い残しすすぎ残しがあると、食中毒リスクが高くなる。調理後に生じたゴミの管理が適切でない場合、不衛生な環境になり、免疫力低下による感染症リスクが高くなる。
(2) 対応方法
軽度認知症の場合、メニューを考え、何を購入するか判断する、段取り良く料理をするといった点には介助が必要になります。しかし単純な作業、「材料を切る」「洗う」「濯ぐ」といった行為にのみ集中してもらえる状況であれば、可能な場合があります。
料理をする際の見守りや介助が困難な場合は、配食サービスやヘルパーの導入を検討するのが良いでしょう。
買い物をする際、何を購入するかの判断は難しくなります。しかし、一緒に品物を選ぶ、購入するといった動作は可能なので、買い物に同行できる環境整えるのも良いでしょう。
ゴミ類の分別やゴミ捨ての日を判断し、適切な方法で捨てる事は、様々な記憶や判断力の要素が関係しているので、困難になります。家族が代わりに行うのが困難な場合いは、業者やヘルパーの導入を検討すると良いでしょう。
4.住居に関する変化
(1) 住居に関する認知機能低下
- 住居に関する認知機能低下
掃除用具が上手く使えない。手順が分からなくなる。
- 入浴できていないことがある
入浴の準備、浴室の清掃・湯の用意・洗体道具の用意・洗うという動作ができない場合がある。
入浴後のタオルや衣類の準備ができない。入浴後の浴室の片づけができない。
- 暖房や、フロなどの火の管理が難しい
火器を使用した後の消火確認が難しい。
- 家の戸締り、鍵の管理が難しい
(2) 対応方法
掃除をする際の段取り、何をどこから始める、掃除後のゴミの片づけ等の複数要素が関係すると、実行が困難になります。
「拭く」「掃く」といった行為はできるので、見守りと声掛けで改善することがあります。
見守りが困難な場合は業者やヘルパーの導入を検討すると良いでしょう。
入浴は転倒等のリスクがあるため、見守りなど介助できる人が居る場合に行うか、サービスの導入を検討するのが望ましいです。
鍵のかけ忘れ等は、軽度認知症だけでなく誰にでも起こることがあります。
軽度認知症の場合は、玄関や窓を開けたという行為自体を忘れることがあるので注意が必要です。
同居家族や、ヘルパー等の確認が必要になりますが、困難な場合は自動で鍵がかかる設備の導入を検討する必要もあります。
5.医療に関する変化
(1) 医療に関する認知機能低下
- 基礎疾患がある人は、毎日の内服が難しくなる
- 受診時医師の説明を理解するのが難しい、医師指示を覚えておけない
- 受診予定の管理が難しくなる。受診予約を覚えておくことが難しい
- お薬手帳や保険証の持参、自宅管理が難しい
(2) 対応方法
受診はできるだけ付き添える人と一緒に行うのが望ましいです。
受診予定日の前日に電話をする、予定が書き込めるカレンダーを用意し目に付く場所にかけるといった、意識づけが必要になります。
6.お金の管理に関する変化
(1) お金の管理に関する認知機能低下
- 支払いに支障が出ることがある
- 年金や健康保険、税金の支払い等の管理が難しくなる
(2) 対応方法
銀行口座の残高管理が不足すると、引き落としができず、水道ガス電気といった生活に不可欠な部分の影響が生じます。電話料金の引き落としができないと、連絡手段が断たれることになります。
税金や年金等の場合、支払いができず、放置されていると追徴金がかかる場合があります。
軽度認知症の症状が現れたら、早期に一度確認しておくのが良いでしょう。
成年後見制度、日常生活自立支援事業、民間団体等による金銭管理サービス等がありますので考慮に入れて検討する必要があります。
7.まとめ
軽度認知症と診断された場合何かと生活に困ることがでてきます。しかし、全く何もできなくなるわけではありません。
軽度認知症による障害は、その人によって違います。何に問題が生じているかにより、何をサポートすればよいかが違います。
原因となっている問題に合わせて援助する事により、できる事はあります。
この記事が、軽度認知症に自分がなってしまいそうだと感じている方、家族が認知症と診断されたけど、何が起きるのか不安な方の生活の助けになれば幸いです。
参考文献
◆「軽度認知地障害高齢者における手段的日常生活動作の量的および質的制限:再軽度アルツハイマー病を通しての検討」
大内義隆 石川博康 中村馨 中塚晶博 葛西真理 田中尚文 目黒謙一
◆「認知症高齢者の日常的金銭管理をめぐる課題-電子マネーの活用を解決の一助に-」
岡元 真希子
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この記事を書いた人
内田好音
<プロフィール>
介護福祉士5年、看護師9年。
整形外科急性期、回復期病棟、療養病棟を経験。
認知症高齢者や障害児者のケアを通じ、生活に根差したケアの大切さを知る。
自分も癌になった経験から心と体両方のケアを行いたいと思っている。
現在は認知症ケアと障害児の生活援助についての活動を行っている。