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看護師がやさしく教える 介護者メンタル③ご両親と良い関係を築き介護するには
介護状態にあるご両親は多くの方が介護を受けている状況を望まないと感じていると考えられます。 介護を受ける側がそのような感情を持っていると、介護をする側も否定的…
職場の方に介護をしていることを伝えたり、休暇を申し出たりするのは勇気がいるかもしれません。
家族にも介護分担の協力を求める必要があるでしょう。
介護は周囲の協力なしに行うことは出来ないので、自分から積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。
この記事では周囲とのコミュニケーションのコツをご紹介します。
この記事の目次
はじめに
2025年には国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上という超高齢化社会になる見込みです。そ
のため、働きながら介護を担うビジネスケアラーは増加傾向にあり、経済産業省の試算によると2030年までに318万人に達すると言われています。
特に40代~60代の「働き盛り世代」が全体の75%を占めています。
男性のビジネスケアラーでは約68%、女性では75%以上が週1回以上介護に携わっており、男性の約4人に1人、女性では約3人に1人がほぼ毎日仕事と介護を両立させています。
ビジネスケアラーの悩みの相談先についてのアンケート結果約50%が家族で、ケアマネジャーには30%、会社の同僚へは16.5%、会社の上司は10.2%にとどまるなど会社関係者に相談するケースは少ないことが分かります。
■働きながら介護を担っている人
(週一回以上介護に携わっている割合)
男性:約68%
女性:約75%
■ビジネスケアラーの相談先
家族:約50%
ケアマネージャー:30%
会社の同僚:16.5%
会社の上司:10.2%
介護により離職者数は増加傾向にあり、職場と家族の人間関係を良好に保つことが重要であることが明らかになっています。
また、介護者や介護を受ける人の代弁者であるケアマネジャーへの関わりも大切です。
協力を求める前に相手を理解する
ビジネスケアラーは介護、仕事、自分の家庭の両立で「協力してほしい」、「理解してほしい」、「助けてほしい」という気持ちを抱いていると考えます。
しかし、自分の状況を理解してほしいと感じる時はまず相手を理解することが大切です。
以下にそれぞれの立場を理解する為の本音を記しています。
家族への理解
実父母の介護をする場合、自分の家族との時間が少なくなります。そういう時、ご家族はどんな気持ちでしょうか。同時に実家のご家族の気持ちも考えてみましょう。
①無責任、無関心な印象を受ける
家族の一員が介護の為に休日に居ない事が増えると、家族間のイベントや子育て、学校行事などに無関心な印象を受けてしまいます。
また、家族で介護をしている場合は介護全般に対して不参加だと、介護の責任を果たしていないようで不満を抱くこともあります。
②コミュニケーション不足
不在の家族とのコミュニケーションが不十分であることで意思疎通がうまくいかず不安や不満を感じます。
③意見の違いへの不満
介護の進め方や介護の分担に関する意見の不一致で不満を感じている場合があります。
職場上司の理解
ビジネスケアラーが増えたと言っても、まだ職場では介護経験のない人が多いのが実情です。
介護経験のない方に通院介助、担当者会議の為に休みたいと言っても通じないこともあるかもしれません。
「分かってもらえなくて当たり前」と自分に言い聞かせ、説明することを諦めず段階を追って説明して行きましょう。
以下に入院から介護が始まるまでの流れを、上司に説明している例を記しています。
①入院中
両親が入院しています。先日、ソーシャルワーカーの勧めで介護保険を申請しました。
②退院調整中
退院後の介護は施設を希望しているが、空きがないので一旦自宅へ戻る予定です。
または自宅で介護する予定です。
③退院日決定
退院後の介護サービスの内容を決める為、担当者会議が病院で行われます。
家族参加が必須の会議となっております。
この日は早退をさせて頂いても宜しいでしょうか。
④退院の報告
昨日、無事に退院しました。ご心配頂きありがとうございました。
引き続き、健康管理を行い業務運営に配慮して参ります。
介護が始まった後も休暇の申請をする場合や急に仕事を抜けないといけない時もあり、職場に申し訳なさがあるかもしれません。
しかし、現在多くの職場は介護の大切さを理解しようと努めています。
出来るだけ柔軟に対応しようとしてくれるでしょう。
職場に迷惑をかけると感じるかもしれませんが、必要とされている社員である事を自負して下さい。
ケアマネジャーへの理解
ケアマネジャーはサービスを調整し、利用者や家族の要望を聞き利用者に応じたケアプランを作成します。
介護を行える時間帯や、介護内容、介護を行える家族状況などを伝えることが大切です。
働いている会社の制度や、介護休暇などの制度の取得状況なども伝えておきましょう。
コミュニケーションの悩みは相手に期待することから始まります。
自分の思いを伝えることは横において相手を理解することを意識しましょう。
自分の本音を伝える
理解する気持ちが相手に伝われば、人間関係はスムーズになります。
理解した後に自分の思いを伝えていきましょう。
家族を信頼し行動は任せる
週末は介護で一日出かけてしまうことで、家族との時間が取れずにいます。
介護に家事に大忙しのあなたは家族に協力してもらいたいことがあります。
そういう時はどんな伝え方をしたら良いのでしょうか。
家族がリビングを使った後、至る所が散らかっています。
そこでこんな風に言ってみてはどうでしょうか。
「仕事と介護で疲れていて片づけるのが精一杯なの。
リビングの片付けの手伝いを一緒にしてくれたら、今日あった出来事や心配事とか色んな話をしたいと思っているの。協力してくれるかな?」
このように本当は家族と一緒に過ごしたいという素直な気持ちを伝え、行動は相手に任せ、指示しないようにします。
具体的な状況や自分の感じていることを伝えると、相手に理解してもらいやすくなります。
職場の上司に相談する目的を明確にする。
介護の為に急に休んだり早退したりすることがあると、上司に相談する際に申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
そのせいで、自分がどうしたいのか、どうしてほしいのかがうまく伝えられないことがあります。
まずは自分の現状と要望を整理しましょう。
・介護が大変で仕事時間の相談をしたい
・介護が大変であるが担当している仕事を続けたい
この二つを解決する方法はそれぞれ違います。
また、介護が大変ということも具体的に説明します。
・デイサービスの迎えが来るまで家にいる必要がある。出勤がギリギリになってしまう。
・デイサービスに慣れるまで、短時間の利用を試すため早退することが予測される。
・薬の調整をしているので、落ち着くまで2週間に1回の通院付き添いが必要である。
など、具体的に説明して行きましょう。
自分の本音を語ることで、相手に自分の気持ちや考えを正確に伝えることが出来ます。
それによって、解決方法も変わってくるでしょう。
仕事と介護の両立支援制度を活用する
厚生労働省は介護休業、介護休暇、短時間勤務などの制限、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限などを設け介護離職を防ぐためのサポート制度の充実を図っています。
介護休業制度については厚生労働省のホームページに詳しく書いてありますのでご参照ください。
介護休業について|介護休業制度|厚生労働省
介護を行う人の大半は働き盛りで会社の中核を担う方々です。
管理職として活躍する方々も多いと思います。
親の介護で会社を辞めない、介護離職で会社の損失とならないように、最近では介護者を支持する職場も増えています。
まず自分で会社の福利厚生を見直すこと、介護者となった従業員をサポートする会社の取り組みがあるのか総務部に相談するなどしてみましょう。
おわりに
介護で大切な仕事に穴をあけてしまうこともあり、職場に申し訳ない気持ちが大きくなることもあるかと思います。
そういう時は、今日ご紹介したコミュニケーションのコツを振り返ってみてください。
コミュニケーションがスムーズになると以下の変化が起こります。
・自己肯定感が上がります。
・家族や職場に感謝の気持ちをもつ余裕ができます。
・仕事や家族や介護にプラスに働きかけます。
前回【人間関係を良好に保つコミュニケーションの基本】でご紹介した「良好な関係を築くコミュニケーションの基本」も意識して実践をしてみて下さい。
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この記事を書いた人
郷堀有里夏
<プロフィール>
看護師経験30年。急性期病棟やICUを10年経験した後、施設看護や訪問看護、ケアマネジャーとして多くの介護を必要とする方々やそのご家族と関わる。
県外で勤務していた頃、母親が介護状態となり地元へ帰省する。
仕事と介護と自分の人生に悩んでいた頃、認知科学を学ぶ。
学びを通してわだかまりのあった親子間や家族間の葛藤を解消し、介護中に修復する事が出来た。そして、母親を施設から引き取り家族と共に在宅看取りを行うことが出来た。
自身の経験を通して、「健やかに自分らしく生きること」や「安心して介護や看取りが行える環境づくり」が重要だと感じ、心の介護専門家として講座やお話会を通じ情報を提供している。
<経歴、職歴>
(一社)日本ナースオーブ所属 Wellnessナース
看護師経験30年(訪問看護管理者、施設看護、介護支援専門員、救急センター、ICU)
保険外自費サポート ひかりハートケア登録ナース
<講座>
親にイライラしない介護コミュニケーション/ウェルネス講座
<その他の活動>
心から看る介護と認知症のお話会
後悔しない親の介護 / ブログ
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