一般に、尿路感染症と聞くと膀胱炎や尿道炎など命にかかわらない疾患を思い浮かべると思います。
通常であれば抗生剤を使用することで完治する疾患ではありますが、高齢者は症状が現れにくく、重症化しやすいという特徴があります。
私が勤務していた介護施設では、微熱を繰り返していた男性が尿路感染から敗血症になり、長期入院に至ったことがあります。
私はこの経験から振り返り、早期発見、対処の仕方次第で充分に重症化を防げたのではないかと反省しました。
そこで今回は、尿路感染症の重症化を防ぐためにできることを、私の経験も合わせてお伝えします。
この記事の目次
1. 尿路感染症って?
尿路感染症とは、尿の出口である尿道口から細菌が入ることで起こる感染症です。
下の図のように膀胱の粘膜に細菌が感染したものは膀胱炎と言います。
また、膀胱から逆行して腎臓にある腎盂まで感染すると腎盂腎炎を発症します。
女性の尿道は男性の尿道に比べると短いために尿路感染症にかかりやすくなります。
尿路感染症の中でも特に高齢者がかかりやすい疾患
- ●腎盂腎炎
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38℃~39℃の急な発熱、悪寒や背中の痛みが出現します。
また、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
炎症が強い場合は血尿が見られる場合もあります。
- ●膀胱炎
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排尿する時に痛みを感じたり、尿が残っている感じがします。
そのため、何度もトイレに行きたくなることがあります。
濁った尿が出ますが、炎症が強い場合は尿に血が混じることもあります。
発熱することは、ほとんどありません。
- ●尿道炎
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排尿する時にムズムズした違和感があり、痛みを感じます。
残尿感で何度もトイレに行きたくなります。膿の混じった尿が出ることもあります。
2. 高齢者が尿路感染症にかかりやすい理由
高齢者は基礎的な疾患によって機能が低下し抵抗力が弱くなっていきます。
そうすると、細菌や病原体が尿路に侵入しやすくなってしまいます。
また、膀胱や尿路の筋力低下があると尿漏れしやすく細菌が繁殖しやすい状態になります。
汚染された下着や尿取りパットを当てたままにすると、尿路感染症のリスクがさらに高くなります。
3. 尿路感染症かもしれない観察ポイント
- 急にトイレに行く回数が増えた
- 尿が残っている感覚がある
- 尿が濁っている・悪臭がある
- 尿に血が混じることがある
- 下腹部に違和感や痛みがある
- 腰や背中に痛みがある
高齢者の特徴として代謝機能の低下があります。
高齢者は意識して水分を摂らないと、生成される尿の量が減り、尿道口から侵入する細菌を流すことが出来なくなります。
細菌の繁殖を予防するためにも、こまめに水分を摂りましょう。
尿路感染すると、感染した粘膜が損傷されて、血尿が出ることがあります。
このような場合は早めに受診をすることで重症化を予防できます。
介護施設で勤務していた時、尿パットが淡いピンク色に染まっていた女性の利用者が数名いらっしゃいました。いずれも微熱があったため、受診をして検査をしたところ、どのかたも尿路感染症と診断を受け、抗生剤が処方されました。
高齢者は排泄の世話にならないように気づかい、水分を控える方もいらっしゃいます。
また、喉が渇いたという感覚が鈍くなり、意識して水分を摂らなくなります。
このようなことを踏まえて介護施設で実践している尿路感染予防のための方法を次にご紹介します。
4. 尿路感染症を防ぐためにできること
- ●水分を十分に摂る
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高齢者は一度にたくさんの水分を摂ることが出来ません。
少ない量をこまめに飲んでいただくように声をかけたり、ストロー付きのマグカップを手元に置くようにすると、上手く飲むことが出来ます。
むせ込みが強い高齢者は、トロミ剤の使用や、ゼリーなどで水分摂取が出来るように工夫をします。高齢者は温かい飲み物のほうが、体に負担をかけずに量が進みます。
- ●体を冷やさない
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体が冷えると、膀胱が収縮し、排泄の回数が増えていきます。
何度もトイレに行きたくなるため夜間は不眠につながる場合があります。寒さによって排出される尿は黄色味が薄く、透明に近い色をしているため判断の目安になります。
また、冷えは免疫力を低下させますので尿道の短い女性は体が冷えると膀胱炎にかかりやすくなります。
- ●下腹部を温める
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膀胱炎を予防するために温めることはとても効果があります。
下腹部を温めると血流が促進され、炎症を起こしている部分の修復を素早く行うことが出来ます。温めると自然に尿が出やすくなるため、水分摂取と排尿のバランスが整います。
施設では湯たんぽや医療用のホットパックを使用しますが、蒸しタオルや使い捨てカイロでも代用できます。
いずれもタオルを巻くなど、直接皮膚に当たらないようにしましょう。
- ●オムツ・尿取りパットをこまめに交換し、陰部を清潔にする
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介護が必要な方は、こまめに尿パットを交換する必要があります。
現在は吸収率が良くなっていますが、便で陰部が汚染されている場合はきれいに洗浄する必要があります。
施設ではペットボトルの蓋にキリで穴をあけた洗浄用の容器を使っています。
使い終わった食器洗い用の洗剤容器も使いやすくて便利です。
- ●トイレに行くのを我慢しない
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介護が必要な高齢者は遠慮しがちです。
特に「しもの世話をされたくない」とトイレに行くのを我慢している高齢者は介護施設にもよくいらっしゃいます。
その気持ちを察して介護する方から声をかけていきましょう。
自分で排泄が出来る方はベットサイドにポータブルトイレを設置する場合もあります。
- ●バランスの良い食事
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高齢者は機能低下から抵抗力が弱くなります。
消化吸収という機能も衰えるため、少量の食事で栄養バランスを整えることが大切です。
積極的に水分が摂れない時、食べられない時は栄養補助食品を上手く活用しましょう。
- ●外気浴をする
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寒い時期は冷たい風に長時間当たることを避ける必要がありますが、温かい時間帯に日光浴をすると、セロトニンというホルモンが分泌されます。
このホルモンは気分を心地よくして、免疫力の向上や夜間の安眠を促す効果があります。
介護が必要な高齢者は外に出かける機会は少ないですが、屋外行事に参加すると、食が細い高齢者がいつも以上に召し上がることがあります。
時々外気浴を行うことは食欲増進や免疫力を上げることにつながります。
- ●尿道留置カテーテルを使用している高齢者
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尿道留置カテーテルを使用している方は、日頃の管理が大切になります。
ご家族ができることは次の4つです。
- チューブを曲げない・引っ張らない
- 尿を溜めるバックは膀胱より低い位置に保つ
- バック内の尿は8時間おきに破棄する・排液口に触れない
- 陰部洗浄や入浴でカテーテル挿入部を清潔に保つ
尿を破棄する時は、前後の手洗いを必ず行います。その他カテーテルの交換日を守り、何かトラブルがあればすぐにかかりつけ医に相談するようにしましょう。
5. まとめ
尿路感染症を予防するためにすることは、高齢者も私たちも基本的には変わりがありません。
しかし、高齢者は機能の低下や認知症状の進行により自分自身で予防することが出来ません。
今回お伝えした予防策を、ご家族や介護する人が行うことで、さらなる介護の時間や受診の手間を回避できるのではないでしょうか。
重症化しやすい高齢者の尿路感染の予防策を知ることで、高齢者自身や介護する人が安心して過ごせると同時に、救急医療という限られた資源を有効に活用することが出来るのではないかと思います。
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この記事を書いた人
福井三賀子
<プロフィール>
小児内科、外科、整形外科の外来と病棟勤務で看護の基本を学ぶ。
同病院の夜間救急ではアルコール中毒、火傷、外傷性ショックや吐血、脳疾患など多くの救急医療を経験。
結婚後は介護保険サービス事業所で勤務しながらケアマネジャーの資格を取得。6年間在宅支援をするなかで、利用者の緊急事態に家族の立ち場で関わる。
在宅支援をしている時に、介護者である娘や妻の介護によるストレスが社会的な問題に発展していることに気づき、心の仕組みついて学びを深めると同時に更年期の女性について探求を始める。
現在は施設看護師として入居者の健康維持に努めながら50代女性対象の執筆活動やお話会、講座を開講している。
<経歴>
看護師経験20年。
外来、病棟(小児・内科・外科・整形・救急外来)
介護保険(デイサービス・訪問入浴・訪問看護・老人保健施設・特別養護老人ホーム)
介護支援専門員6年
<資格>
看護師/NLPマスタープロテクショナー/プロコミニュケーター
<活動>
講座「更年期は黄金期」
ブログ「幸せな更年期への道のり」
メルマガ「50代女性が自律するためのブログ」
スタンドFMラジオ「幸せな更年期への道のり」